人形芝居のオペラ
今回はスペインの作曲家ファリャが作曲したペドロ親方の人形芝居というオペラについてです。
- 作曲:マヌエル・デ・ファリャ
- 初演:1923年(演奏会形式)テアトロ・サン・フェルナンドにて
- オペラ初演:1925年 ポリニャック公爵夫人邸にて
題名を見てもわかりますが、このオペラは劇中に人形芝居があるオペラです。というかほとんど人形芝居。
ただし人形の代わりに声を出すのではなく、歌うのは人形芝居をやっているペドロ親方と、人形芝居の筋を語る人と芝居を邪魔するドン・キホーテの3人です。
このオペラはもともとパリのポリニャック公爵夫人から人形芝居のための作品を依頼されて作られたものです。
作曲したファリャはスペインの人なのですが、彼はしばらくパリにも住んでいたんですよね。
というわけでこのオペラは人形劇が中心なのです。
ちょっと珍しいですよね。
私が知る限りそういうオペラってないです。劇中劇はありますけど‥。
ポリニャック公爵夫人っていうとマリーアントワネットの時代にも同じ名前の人がいてそちらの方がおそらく有名かと思います。
ブルボン朝最後の「贅沢を極めた上流会の美女代表」っていう感じでしょうか。
「ペドロ親方の人形芝居」を依頼したポリニャック夫人は彼女の子孫にあたるんですよね。
当時の音楽家たちのパトロンになっていたようで、優雅な家系は受け継がれていたんですねえ。
同じように彼女の依頼で出来た作品は
- ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ
- フォーレのペレアスとメリザンド
など。
これらの作品の優雅な感じは依頼者を意識してのことだったのかなあと、これは勝手な解釈ですが‥。
ペドロ親方の人形芝居の初演は演奏会形式でやっていますが、そのあとポリニャック夫人邸で上演されているんですよね。
20世紀になっても自宅でオペラを開催している人がいたとは。なんとも優雅‥。
もっともストラヴィンスキーのエディプス王も私邸で上演したらしく、こちらはかなりイメージが違うのですけど‥。
当時のフランスのオペラって比較的こじんまりしたオペラのイメージなんですけど、実際当時はワーグナーとかリヒャルト・シュトラウスといった大オーケストラに大音量のオペラを敬遠する風潮があったみたいなんですよね。
そういう意味で過去のバロックなんかも見直されていたらしく。確かにバロックの編成はすごく少ないし音も小さめなんですよね。
ペドロ親方の人形芝居の特徴としてチェンバロが使われているっていうことがあるんですけど、そのあたりも昔のバロック志向っていうところだったんじゃないかと思います。
あと人形を使うっていうのも斬新ですけど、当時の芸術家たちが人形を使うっていうのはちょっとした流行りだったみたいなのです。おもしろいなと。
ポリニャック夫人が作曲について出した条件はオーケストラが小規模であること、あと本当は人形は等身大のものを使いたかったのだとか。
ドンキホーテのお話
ペドロ親方の人形芝居の原作はセルバンテスのドン・キホーテです。
ドン・キホーテの第二部の26章のところです。
セルバンテスってスペインの作家で、ドン・キホーテは1605年の作品なのでかなり古い作品なのですが世界中で有名ですよね。
ドン・キホーテのお話は知っている人もいるんじゃないかと思いますけど、
騎士道大好きなドン・キホーテが騎士道にのめり込みすぎて現実と小説がごちゃ混ぜになってしまうというお話で、要するにドン・キホーテはちょっと頭のおかしいおじさんなのです。
日本だと「ラ・マンチャの男」っていうミュージカルが人気だったのでそちらで知っている人がもしかして多いのかも。
ラ・マンチャはドン・キホーテが住んでいた場所で、ラ・マンチャの男はドン・キホーテのことなんですよね。
当初ポリニャック夫人の希望としてはドン・キホーテとペドロ親方は等身大の人形で、劇中のメリセンドラとドン・ガイフェロスは小さな人形っていう構想があったらしいです。
さすがに等身大の人形を使ってというのは難しかったのか、ドン・キホーテとペドロそれに語りの3人が実物の歌手になったっていうことなのかなと思います。
ただ演出によっていろいろできそうですよね。
ペドロ親方の人形芝居簡単あらすじ
ではファリャ作曲「ペドロ親方の人形芝居」の簡単あらすじです。
ペドロ親方の挨拶で人形芝居が始まります。
ドン・キホーテも人形芝居を観にやってきます。
人形芝居は語り(ボーイソプラノまたはソプラノ)によって筋が語られます。
ドン・ガイフェロスは妻がムーア人に捕らえられているというのにすごろく遊びに夢中になっています。
このありさまをみて親代わりの皇帝は怒り、仕方なくドン・ガイフェロスは剣をもって妻を救いに出かけます。
一方ムーア人の城では、一方的にメリセンドラに思いを寄せるムーア人が忍び寄って彼女にキスをしたものだからメリセンドラは泣いて叫びます。
城のマルシリオ王は即刻ムーア人を捕らえて罰しようとするのですが、
証拠も調べずに罰することにドン・キホーテは不満で芝居に茶々を入れようとしてペドロ親方にいさめられます。
ムーア人は広場に連れていかれて鞭打ちの刑に。
妻を救いに来たドン・ガイフェロスは妻と会うことができて二人で逃げるのですが
それに気づいたマルシリオ王は兵士に追うように鐘を鳴らして命令します。
ところがドン・キホーテはまたもや「ムーア人は鐘など鳴らさない」と芝居に茶々を入れてきます。
挙句の果てに追手が二人に迫るとたまらなくなって自分の剣を抜き、助太刀とばかり立ち上がって
舞台と人形を壊してしますのです。
ペドロ親方は人形を壊されてがっかりするのですが、ドン・キホーテは構わず「追っ手を倒した!われこそはドン・キホーテ!」と堂々と名乗りを上げるのでした。
そんな簡単あらすじです。全一幕で30分程度の短いオペラです。
大きなお屋敷で人形芝居のオペラが観られたらそれは楽しいだろうなあと思います。
ちなみにムーア人というのは北アフリカのイスラム系の人のことをいうようで、ヴェルディのオテロに出てくるオテロ役もムーア人ですね。
ペドロ親方の人形芝居見どころ
このオペラは短いので上演しやすいような気がするのですが、あまり上演されないのだそうで、
それは人形を壊してしまうので、コストがかかり何度も上演できないという悲しい理由があるようです。
確かに……。壊さないとつまらないだろうし。
スペインに行けば他の国よりは上演してそうな気がします。
人形芝居をどんなふうにするのか、芝居を見に来ている人を入れたり入れなかったり
場合によっては大きな人形を使うこともあるようで、演出をどんなふうにするのかがやはりこのオペラの一番見どころじゃないかと思います。
どんな人形劇かは楽しみですよね。
また語り役はボーイソプラノだったりソプラノがやることも。どちらかなというのも注目で見どころ。
そしてやっぱりドン・キホーテがどんな風に人形芝居に文句をいって最後は壊してしまうのかがおもしろいところで見どころだと思います。
本人はちょっとおかしくなっているので、いたってまじめで人形芝居なのにのめりこんじゃうんですよね。
あと、新しいオペラなのにチェンバロを使っているというのも見どころ聴きどころかと。
ふと思ったんですけど日本には文楽っていう素晴らしい人形劇がありますよね。
壊されちゃうのは困ると思うけどあれとコラボしたらどうなんだろう、ちょっとおもしろいかもなんて思ったのでした。
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