ロッシーニ作曲の「ランスへの旅」はシャルル10世の戴冠式に合わせて作られたオペラです。
そしてその後、ながらくこのオペラは眠っていたのですが、アバドが復活させたオペラでもあります。
「ランスへの旅」というオペラは、私流に言うとガラコンサートのようなオペラではないでしょうか。
ランスへの旅ってどんなオペラ
ランスへの旅の初演は1825年。
今から約200年前に作られたオペラです。
このオペラは、当時のフランス国王シャルル10世の戴冠に合わせて作られたオペラです。
シャルル10世という人は、あのギロチンで処刑されたルイ16世の弟にあたり、フランス革命の際は亡命。
その後の時代の大きな流れとしては
ナポレオン失脚→ルイ18世即位→シャルル10世即位
という感じだったかと思います。
シャルル10世は強い王政復古の専制政治をして7月革命を引き起こしたとも言われている人です。
そんな時期にもオペラは作られていたんですね。
どんな人たちが観に行っていたのかも気になるところ。
それはさておき初演の場所はパリのイタリア劇場です。
イタリア劇場と言えば純粋に(というと語弊があるかもですが)イタリアのオペラを主として上演していた劇場で
グランドオペラで有名なパリ・オペラ座とはちょっと違うオペラ劇場でした。
当時このイタリア劇場の総監督に就任していたのがロッシーニで、
ランスへの旅はそのロッシーニーが作ったというわけです。
という風に書いていると、じゃあオペラ座の方では何をやっていたのかなと気になりませんか。
でいろいろ見たけどよくわからず、というのも当時のパリ・オペラ座は仮設建物だった時期のようです。
それでもちゃんと上演はしていたようですが。
ちなみにランスへの旅はのちにオリー伯爵というオペラに転用されていて、そちらはパリ・オペラ座で初演していますが、3年後のことなんですよね。
とりあえずパリ・オペラ座のことはおいといて、イタリア劇場で初演されたランスへの旅は
当時のイタリアオペラらしくベルカント唱法たっぷり、つまり聞きごたえ十分のオペラで、しかも登場人物がやたら多いという特徴があります。
一応ストーリーはあるけど、多くの歌手が次々出てきて歌を披露するといういわばニューイヤーコンサート的な感じがするオペラです。
題名のランスと言うのは地名で、フランスのパリの北東にある都市。
そこにはノートルダム大聖堂があって歴代の王の戴冠式が行われた場所なんですね。
ノートルダムといえばパリのシテ島の大聖堂が浮かぶ人が多いと思いますが、そちらではなくてランスというところにもノートルダム大聖堂はあるのです。
ノートルダムってそもそも聖母マリヤっていうような意味だから一つじゃないんですよね。
と言うわけでシャルル10世の戴冠式に駆けつけようとプロンピエール・レ・ヴァンのホテルに集まった人たちの一晩の話がランスへの旅のストーリーです。
プロンピエール・レ・ヴァンという場所はパリから見ると東にあり、位置的にはランスよりさらに遠い場所です。
日本でいうなら保養地あるいは温泉地という感じだったみたいですね。
ちょっと余談ですが、パリ、保養地というと椿姫の主人公たちがパリの郊外で一時暮らしていた場所というのが浮かびませんか?
でもそちらはブージヴァルという場所でパリの西側、中心地から10数キロ行ったセーヌ川に近い場所なので全然離れていました。
話がそれましたが、ランスへの旅というオペラは、戴冠式に行くためにたまたま集まった人たちの話という設定がまさにぴったりで、当時はなんども上演されていたようです。
アバドとランスへの旅
ランスの旅はロッシーニらしく明るいオペラで、今見てもおもしろいのですが、内容的に戴冠式用のオペラというのは確かで、そのせいかしばらくするとお蔵入りになってしまったオペラでした。
登場人物が多いのも上演されにくい理由だったかもと思います。
歌も結構難しそうだし‥。
歌手を集めるのも大変だったのではないかと。
そんなランスの旅というオペラが最近また上演されるようになったのに大きく貢献したのがクラウディオ・アバドという指揮者なんですよね。
復活したのは1984年というから割と最近のことで、約150年ぶりに復活したというわけです。
余談ですが、このアバドという指揮者はミラノ・スカラ座にもいましたがカラヤンの後を継いでベルリンフィルの指揮者になった人でもあります。
アバドは日本にも来たので私も聞きに行きたかったのですが、すでにチケットが売り切れとか諸々あって、結局いつか生でアバドを聞きに行こうと思っているうちに亡くなってしまったんですよね。
えーー!というショック。
やっぱりあの時無理してでも行けばよかった、と思ったのでした。
ちなみにランスへの旅はいくつかCDやDVDがあります。
私は通常はオペラはやっぱり映像が付いているのが好きなので、CDではなくDVDとかビデオで見たい方なのですが、
このランスへの旅についてはアバドとベルリンフィルが録音したCDが今も買えると思うのでそちらがやっぱりいいんじゃないかと思います。
歌っている人も、シェリル・スチューダー、サミュエル・レイミー、エンツォ・ダーラ、バルバラ・フリットリなど今では信じられないようなトップ歌手たちが大勢が並んでいるんですよね。
有頂天ホテルを思い出す
ランスへの旅は別名「黄金の百合咲く宿」とも言われますが、
これは物語で登場人物達が集まったホテルの名前なんですね。
1幕ものですが、第9場まであって次々といろんな歌手が登場します。
1幕だからぶっ通しやるわけではなく4場だったかな、で休憩が入ると思います。
このオペラを見ると私はなぜか三谷幸喜さんの映画「THE有頂天ホテル」を思い出すんですよね。
THE 有頂天ホテルも大晦日の1日の話で、有名な俳優さんがずらりと登場するおもしろい話でした。
有頂天ホテルはグレタ・ガルボが出ている「グランド・ホテル」のように一夜でいろんな人が交錯する映画ということのようですが、
ランスへの旅もその系統だよね、などと思ってしまいました。
オペラと映画では違いますが、何れにしてもその魅力は
たくさんの歌手の歌声を聞けること。
話が単純で楽しいこと。
さらに重唱も見逃せないところ
ではないかと思います。
そうそう1825年の初演の際にコリンナ役を歌ったのはジュディッタ・パスタというソプラノです。
ジュディッタ・パスタは100年に一度と言われた歌手、もちろん声を聞くことはできないけど
そうなんだ‥それくらい力を入れた上演だったのねと、200年前に思いを馳せてしまいました。
作曲したロッシーニがイタリアからパリへ移ったのは1824年、行って早々の仕事でもあったんだんなと思います。
ランスへの旅簡単あらすじ
第1場: ホテル「黄金の百合咲く宿」では戴冠式に行く人たちの世話で忙しい。
第2場:フォルヌヴィル伯爵夫人はフランスの若い未亡人。流行が大好きなのに衣装の荷物が届かずやきもき。
そこへ馬車の事故のため衣装が届かないと連絡が入り夫人は失神。その後帽子だけは無事とわかり単純に喜ぶので、まわりの人々は呆れます。
第3場:今回の宿泊の会計係をしているドイツ人のトロムボノク男爵はホテルのボーイとチェックアウトの相談。
また、スペインの提督ドン・アルヴァロとロシアのリーベスコフ伯爵はどちらも若いポーランド出身の未亡人メリベーアが好きで、彼女を巡って言い争いをしています。
でもローマの詩人コリンナの美しい竪琴とアリアで皆は和みます。
第4場:コリンナに想いを寄せるイギリスの軍人シドニー卿が花束を持って登場。でもなかなか想いを打ち明けられないでいます。
そこに骨董マニアのドン・プロフォードが現れて骨董をどうやって手に入れたらいいかと相談するが博物館にでも行けば?とうんざりして立ち去るシドニー卿。
第5場:シドニー卿が送った花束を持つコリンナを見つけて、言い寄るプレイボーイのベルフィオール。彼はフランスの士官でフォルヌヴィル伯爵夫人の愛人でもある。
コリンナは、あなたなんか!とベルフィオールを拒絶。
第6場:それを見ていたおもしろがる骨董マニアのドン・プロフォンド。彼はその後皆のお宝一覧を作って行きます。
そこへフォルヌヴィル伯爵夫人がベルフィオールを探しに来たのですが、ドン・プロフォンドの言葉からベルフィオールがコリンナと浮気したと思い怒り始めます。
とそこへ「大変だ、馬車が来ないからみんなランスへはいけない!」となり、一同騒然。
第7場:ホテルの女主人コルテーゼが手紙を持ってきて、国王は数日のうちにパリに戻り、パリでも戴冠式があると告げるので皆それなら明日パリに行けばいいねとなります。
会計係のトロムノボクが、それでは集めたお金はどうしましょう?となり、
それなら今日宴会をして使ってしまおう!残りは寄付に、ということで全員一致。
第8場:全員で乾杯して、それぞれが自分のお国の音楽に合わせて国王の就任を祝う。最後にコリンナの詩があって終わり。
こんないかにも楽しいあらすじです。
登場人物の出身国がとても多いのも興味深いですよね。
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