今回はイーゴリ公というオペラについてです。
イーゴリ公は第二幕の通称「ダッタン人の踊り」がとても有名なオペラです。
ダッタン人の踊りは、知らず知らずのうちに耳にしている人も多いんじゃないかと思います。
優雅でエキゾチックなこの曲は、一度聞いたら忘れない曲です。
さてイーゴリ公は、ロシア国民オペラを代表するオペラの一つ。
化学者でもあったボロディンと言う人が作曲しましたが、完成せずに亡くなってしまったので
初演はボロディンの死後数年経ってからでした。
成立と初演
初演
- 作曲:アレクサンドル・ボロディン
- 初演:1890年
- 場所:マリンスキー劇場(サンクトペテルブルク)
作曲したボロディンは
1833年生まれー1887年没
なので、初演はボロディンが亡くなってから3年後です。
ボロディンは、イーゴリ公を完成する前に亡くなってしまったため、
リムスキー・コルサコフと、その弟子グラズノフによって完成した曲なんですね。
ボロディンについて
オペラ・イーゴリ公は、史実を基にした歴史物オペラなのですが、
それを作曲したボロディンと言う人が、化学者でもあったと言うことも興味深いところだと思います。
今ではボロディンは作曲家としての方が有名ですが、本来主たる職業は化学者でした。
ボロディンは、貴族と既婚女性の間の婚外子として生まれました。
父母の詳しい事情はわかりませんが、婚外子だったため農奴の子供として育てられたのです。
それでも貴族の父がいたので教育や生活には不自由のない暮らしをしました。
その結果、化学者としても一流になったんですね。
ただ、主は化学者だったため音楽は合間にやるというスタイルだったようで、
日曜作曲家などと呼ばれるのはそのためです。
ボロディン反応
ボロディン反応と言う言葉を知っている人は、化学を専門的に学んでいる人くらいでしょうが、
そんな言葉があるほどボロディンは化学にも精通していたということです。
ボロディン反応は、有機化学の反応の一つで、
ハンスディーカー反応のことなのですが(ますますわからないですよね笑)別名ボロディン反応と呼ばれているんですね。
常々作曲家の脳はどうなっているのか、理系脳なのか文系脳なのかどちらでもない天才脳なのかなどと
考えることがあるのですが、ボロディンに限って言えば理系脳の作曲家だったということでしょうか。
ロシア5人組
さてボロディンは化学者でしたが、現在では作曲家としての方が有名で
ロシア5人組と呼ばれる中の、一人に入っています。
ロシア5人組というのは
- バラキレフ
- ツェーザリ・キュイ
- ムソルグスキー
- ボロディン
- リムスキー・コルサコフ
で、主に19世紀に活躍した作曲家。
ロシアの民族主義的な音楽を目指した作曲家達で
西欧の真似ではなく、ロシアのロシア人による、ロシアらしい音楽を作っていこう、という人たちでした。
ボロディンはそんな5人組の一人でした。
ボロディンは、残念ながらイーゴリ公を完成することなく急な病で亡くなったのですが、
その後補完したのはロシア5人組の中の、
リムスキー・コルサコフとリムスキー・コルサコフの弟子のグラズノフの二人でした。
もしリムスキー・コルサコフ達がイーゴリ公を完成させていなかったら、
このオペラは日の目を浴びず、有名なダッタン人の踊りも聴けなかったんですよね。
ただ、3人が関わっているため特に後半はちょっとボロディンらしい勇壮さがないとも言われています。
オペラを見るときにそんな変化を感じながら聴くのも一つおもしろいのではないでしょうか。
上演時間とあらすじ
イーゴリ公の作風
オペラ・イーゴリ公は12世紀頃、イーゴリ公が、遊牧民族ホロヴェッツの討伐に遠征したことを伝える
「イーゴリ軍記」が元になっているオペラです。
オペラ・イーゴリ公は、土の匂いを感じる力強く実直な軍記物オペラと言う感じで、いかにもロシア風。
ロシア国民オペラの代表の一つといわれるんですね。
主人公のイーゴリ公はバリトンで、華やかさより質実剛健なオペラというところがロシアらしい気がします。
同じく英雄を題材にした、18世紀のイタリアバロックオペラが、英雄には高音のカストラートを使い、
スター歌手達が超絶技巧の歌を披露した、絢爛豪華なオペラだったことを思うと、
ロシアの英雄のオペラは時代が違うとはいえずいぶん雰囲気が違います。
やはりお国柄の違いと言うものでしょうか。
上演時間
イーゴリー公は序曲、プロローグ、4幕という構成になっています。
- 序曲:約10分
- プロローグ:約30分
- 第一幕:約50分
- 第二幕:約60分
- 第三幕:約30分
- 第四幕:約30分
計3時間半に及ぶ長いオペラですが、それほど長くは感じないと思います。
休憩の入れ方は公演により、三幕と四幕を続けるなどその時により異なります。
序曲はボロディンが生前弾いていたピアノ演奏を元に、グラズノフが作ったと言われています。
序曲というのは冒頭の音楽ですが、いろいろ見ていると個人的な感想ですが、多くの作曲家達は最後に作るのかなと言う気がしています。
序曲はオペラの中の曲を使うことが多いし(もちろん全く使わないオペラもあるし、時代によっては使い回しとかもあるけど)でも最後に仕上げ的に作る作曲家が多いんだろうなあと。
ボロディンも序曲は、考えてはいたものの楽譜には落としていなかった様です。
簡単あらすじ
ホロヴェッツ族の討伐のため遠征に出かけるイーゴリ公。
皆が、讃えるが、突如太陽が欠けるため(日食ですね)。
人々は不吉の前兆と恐れ、妻のヤロスラーヴェも遠征を止めようとしますが
それでも出陣するイーゴリ公。
留守を任された、ガリッキーは妻の弟なのですが、やりたい放題のどうしようもない男。
一方、不吉な予兆はあたり、イーゴリ父子はホロヴェッツに捕らえられてしまいますが、
ホロヴェッツ族のコンチャーク汗は、イーゴリ父子に敬意を表し、捕虜とはいえ手厚い処遇をします。
また、コンチャーク汗の娘と、イーゴリ公の息子ウラジーミルは相思相愛にまで。
自国の危機を傍観することに耐えきれず、イーゴリ公は敵陣を脱走しますが、
息子のウラジーミルはコンチャーク汗の娘と残ることに。
寛大な、コンチャークは、娘とウラジーミルの結婚を許します。
また戦火で荒れ果てた中、ひたすら夫を待ち続ける妻ヤロスラーヴェの彼のもとに、
ついに、馬に乗ったイーゴリ公が戻ってきて、人々もイーゴリ公を讃えるというあらすじ。
こんなことを言うとなんですが、個人的な意見としては
なんとなく結末が弱いというか、それでどうなるの?と言いたくなる様なあらすじの気がします。
でもまあイーゴリ公を讃える軍記物オペラだと思えばそんなものかなと言う気も‥。
後半はボロディンが作っていないということもあるのかもしれません。
見どころ
見どころはやはり通称ダッタン人の踊り(本来はホロヴェッツ人の踊り)と呼ばれる第2幕シーンでしょう。
演出によりどんな踊りが入るかは上演によりいろいろで、そこが楽しみなところです。
とにかく曲がいいので旋律も十分に味わいたいです。
また悪者ですが第一幕のガリッキーのアリアも中々よくて、見どころではないかと思います。
ボロディンが途中で亡くなっているので、前半の音楽と後半の音楽の系統がちょっと違うなというのを
感じるのもおもしろいところで、見どころ聴きどころかと思います。
また序曲は、グラスノフがボロディンのピアノ演奏を思い出して作ったと言われる部分。
プロローグ以降に続く音楽と、比較して聴いてみるのも良いかもしれません。
そしてロシアの国民主義の代表音楽と言う観点で、イーゴリ公を見てみると、
ロシアという国の片鱗が見えてくるかもしれません。
ボロディンの音楽は情熱的でエキゾチックなところがあるので、
日本人の耳には、聴きやすいのではないかと思いますね。
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