紫苑物語-2018.2月/新国立劇場-鑑賞レビュー

新国立劇場で紫苑物語を見てきました。

新制作オペラの初日というのは初めての経験でしたが、いろんな意味でおもしろかったです。

実はこのオペラを見ようと決めたのはかなり直前のこと。

というのも日本のオペラってどうなのかなあ、おもしろくないんじゃないかなっていう

勝手な偏見がありまして迷っていたんですよね。

でも行ってみてよかったです。

紫苑物語という日本のオペラ

感想を一言で言うと、日本ってこういうオペラを作るんだ、というある種の驚きを感じました。

はっきりいってかなり怖さを感じるオペラです。

重くて怖くて妖艶。

日本人ってこういうのを作る国民性があったの‥という驚き。

でもそれが結果としてはおもしろかったんですよね。

 

実はなんの前知識もなく見に行ったので、どんなオペラなんだろう、もしかしたら林光さん的な楽しいオペラかな、なんていうノリで行ってしまったので

あまりにかけ離れていて‥。

正直言うと第一幕の前半は不思議感しかなかったです。

というのも日本語のオペラというのがそもそもすごく久しぶりで耳に聞き慣れず、

外国語だと全く言葉が気にならないのですが、日本語のオペラだと、知ってる言語だけに

語尾が異常に伸びたり、何度も言葉を繰り返したりするのが

はじめのうちはなんとも違和感にしか感じられなかったんですね。

字幕があったけど字幕なしではほとんど何言ってるかわからないし。

しかも現代音楽ときてるので、「うーん、わからん!」という感じが続いてしまった一幕の前半

眠気すら襲ってきました。

ところがですね、一幕後半のあたりの宗頼が矢で人を殺し始める頃からあれれ?とおもしろくなってきて

そこからは打って変わってのめり込んで見てしまいました。

音楽がどうのこうのというのはもう忘れてましたというか、全く気にならなくなりましたね。

特に狐の化身が出てきてからおやおやどうなるんだろうと、後半が楽しみになり‥。

 

休憩後の後半、

第二幕も冒頭からかなり妖艶というか色っぽいシーンで、いったいどうなるのかともはや舞台に釘付け

結構残酷な感じもあるのですが、何度も出てくる矢を射るシーンは毎度どこへ飛ぶのかとハラハラするのでやはり引き込まれました。

ただ、重唱については音楽が現代音楽だけに、二重唱も四重唱も私には何やってるのかわからないよーという感じ。

合ってるんだか合ってないんだか、もまったく不明でした。

特に四重唱のシーンの歌、オーケストラはあまり鳴っていなかったけど、どうやって合わせてるんだろうとそっちが気になりました。

オーケストラといえば普段はあまり聞かないような音もいろいろ聞こえてきてました。

あと小太鼓が多いなという印象。

 

そしてもう一つ特徴的だったのはセリフです

完全に昔の言葉でもなく、現在の口語体でもない不思議な言葉

これは原作を重んじてのことなのでしょうね。

原作の感じがわかりませんが、オペラにするとおそらくなかなか言葉の美しさが伝わらないのかなとはちょっと感じました。

主人公の宗頼は悪人なのか悲しい人物なのか、何を言いたいのか不思議感が残ったものの

きっと原作はもっと壮大ですごくおもしろいんじゃないかと思えて、

原作を読んでみようかなと思いましたね。

紫苑物語の演出

演出は笈田ヨシさんという方。

聞いたことがあると思ったらフィンランドの国立歌劇場で蝶々夫人の演出をやっていた方でした。

フィンランド・スウェーデンのオペラ

海外のオペラで日本人が活躍しているんだなと思っていたら今回日本でも、というわけで興味津々。

第二幕の山は雰囲気が独特でよかったです。

最後に仏に矢をいるシーンでは、大地が割れたりするのかなと思っていましたが、さすがにそれはなく

とはいえなかなか迫力のある演出でした。

矢の文字が客席から見ると逆になっていたのはわざとなのか。

そうそう衣装もよかったです。

和でも洋でもない不思議な衣装は、物語の不思議感と合っていましたね。

特に宗頼の衣装は陰陽師風の衣装。

トゥーランドットでも使えそう、とちょっと思いましたけど。

わしの矢は目をつぶっても貫くというセリフがありましたけど

日本の弓道も心眼という言葉があり、熟練した人は目をつぶっても当たるといいますよね。

 

歌手について

今回は精鋭という感じの歌手のみなさんでしたけど

とりわけ圧巻だったのはやはり宗頼役の高田智宏さんという方。

とにかく艶やかな声でうまいんですよね。

そして安定感がすばらしかったです。

こんな日本人がいたなんて、という驚きでした。

それくらい素晴らしくて安定した声。

その他の方達もベテラン揃いでうつろ姫の清水華澄さんも最初から朗々とした声。

今回は数々の男性たちと関係を結ぶという妖艶な役どころでしたけど

キャラが際立っていてこの役がないと全体につまらなくなりそうと思いましたね。

そして一幕最後の方に出てくる狐の化身役が白木あいさんという方。

澄んだよく通る声で、こちらもうつろ姫とは対照的だけど良い役というわけでもないところがおもしろい。

二幕で超絶技巧を見せていましたがあれは狐のコンコン鳴くのをやっていたのかな。

若干コンコンが不思議だったけど‥変わっていて良いかも。

「狐のアリア」とか言って、これから単独で歌われたりして。

今回の紫苑物語は登場人物がそれぞれ個性的なので、それはわかりやすかったかなと思います。

衣装のおかげもあるのかも。

というわけで、今回の日本の初演オペラは

なかなかに興味深い上演でした。

日本人の深淵を見た気がします。

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