新国立劇場でウェルテルを観てきました。
作曲はタイースの瞑想で有名なマスネです。
ウェルテルを生で見られるというので、嬉しくてチケットをとったのはずいぶんと前のことだったのですが
会場に行ってからシャルロット役がが藤村実穂子さんだったのを思い出し、俄然ウキウキしちゃいました。
思えば最初に日本人が初めてバイロイトでフリッカを歌ったというニュースを聞いた時の驚きから何年経ったのか‥。
一度声を聞きたいと思いつつなかなかチャンスがなく、ようやく今回ウェルテルで藤村さんの声を聞くことができたわけです。
その生の声はやはりすばらしかったです。
マスネのウェルテル
ゲーテの若きウェルテルの悩みは有名だけどこのオペラは、日本人受けしそうなストーリーなのに、なぜかそれほどポピュラーではないと思うんですよね。
でも私はウェルテルが好きなオペラなので、今回の公演はかなり楽しみにしていました。
音楽の専門的なことはわかりませんから、通常オペラを観るとどうしても歌手とか演技など舞台にばかり目が行くのですが、
このマスネのウェルテルというオペラについては
諸所で楽器の音色がすごく目立つし、それがたまらなく美しいのが印象的。
特にそれを感じるのは前半です。
甘いフルートの音色、チェロの音色、それにバイオリンの音色が聞こえてくるんですよね。
今回生で聞いてやはりそれを実感しました。
マスネの音楽って本当に魅力的です。
序曲もいいけど各幕の前に流れる曲はどれも耳に心地よく、だからマスネにハマっちゃうんだろうなあと思いましたね。
演出
4幕まである舞台は毎回変えられていて、ウェルテルらしい知的で落ち着いた舞台セットでした。
特に4幕に本がたくさんあったのはゲーテをイメージしてのことなのでしょう。
3幕4幕は光が効果的に差し込んでいて、ウェルテルらしい舞台だなあと。
今回の上演はフランス語の上演。
このオペラをドイツ語でやるとどんな感じなんだろうとちょっと思いました。(ドイツ語版は見たことないので)
この恋人たちのストーリーはやっぱりフランス語が合ってそうですが。
ウェルテルの原作はゲーテですが、台本は別の人なわけでどれくらい原作の言葉を取り入れているのかは分からないのですが、
今回のウェルテルを見てゲーテの言葉の素晴らしさを垣間見ることができた気がしました。
第一幕でウェルテルが現れて「恵みに満ちた自然よ‥」と歌いだすだけで、すぐにウェルテルの叙情的で情熱的な人柄が浮き彫りになっていくんですよね。
特にウェルテルが発する言葉は、かれの人となりとその先の悲劇を予感させる歌と詩になっていて
いやー、さすが原作がゲーテだわ
と思ってしまいました。
第一幕の冒頭で、こんなにすぐにウェルテルの人となり、感受性の強さが浮き彫りになるなんて、なかなか難しいことだと思うのです。
ウェルテルを見ていると、一途すぎて結局死んじゃうんだなと予感できるんですよね。
もちろんそこにはウェルテル役のサイミール・ピルグの歌や演技、それに音楽もあるからなんでしょうけど。
若干分からなかったのがアルベールの性格で、第二幕では君には悪いことをしたとウェルテルに優しさをみせるのに、第三幕ではちょっと怖い人に。
まあ恋敵なんだからそんなものかもしれませんが。
そうそう部屋にクラブサンが置いてあったのですが、セリフにクラブサンが出てくるからで、きめの細かい演出でした。
歌手
歌は有名どころの人がたくさん出ていて皆良かったんですけど特に良かったのはやはり主役の二人ではないでしょうか。
ウェルテル
サイミーグ・ビルクというアルバニアのテノール。
この人は2018年の新国立劇場の愛の妙薬にもネモリーノ役でも出ていた人ですが、
個人的には今回のウェルテル役の方が断然合っているんじゃないかと思いました。
背が高くまじめで切なそうな雰囲気はまさにウェルテルにぴったり。
立って歌うだけで内に秘める情熱を感じさせるところと、端正な顔立ちはかつてのアルフレード・クラウスを思わせました。
この人はパバロッティにも師事したということらしいのですが、
声を伸ばすと後半にグワンと声が前に出るときがあるちょっと特徴的な声の人でした。
もっともこれは3、4幕の伸ばしではでていなかったけど、個人的にはあれも嫌いじゃないのですが、どっちが得意なのかなと。
声が前に出るときはちょっとパバロッティぽいとも感じました。
内に秘めた熱い思いと言う言葉がぴったりのテノールで、演技も派手じゃないけどすごくウェルテルらしいというか。
ただ最も見せ場とも言える
「オシアンの歌」のアリアのとき。すごくよかったんですが、失敗しちゃいけないというのが強いからか
丁寧すぎてちょっとおとなしめに聞こえました。
あまりにアリアが有名だとこうなっても仕方ないのかな。失敗できないですもんね。
これは昨年の知れぬ涙のときも同様の感想を持ったんですよね。
ただ、あのときは何にもない舞台にポツンと一人立って歌うというハードル高すぎのシチュエーションだったのでしょうがないよねって思いましたが。
失敗してもいいから思い切り歌って!と言いたいけどそうもいかないよねー。
とはいえ、4幕は涙無しには見られず‥
ウェルテル役はかっこよくて最高でした。パチパチ!
シャルロット
シャルロット役はメゾの藤村実穂子さん。
いやーやっぱり世界レベルってこうなのねという素晴らしさでした。
低音から高音まで安定度が半端なくて
神々しいまでの響きのある美声でした。
バイロイトで歌う実力ってこうなのね。
とはいえ、藤村さんも若くはなく、一方シャルロット役は若い娘の役。
それを藤村さんが演じるといったいどうなるんだろうと思ったのですが、
やはり声の力って大きいものです。
年齢は全く気にならず、しかも藤村さんには独特の舞台映えする存在感があるんだなと。
そういう滲み出るものもオペラ歌手には多分必要ですよね。
登場したときからシャルロットらしい雰囲気を放っていました。
黄金の声はまたぜひ聞きたいですね。
その他
アルベール役はバリトンの黒田博さん、ちょっと以前よりふっくらしたのかな、貫禄があって安定度抜群でした。
妹のソフィーはかわいらしい幸田浩子さん。
という感じで、重鎮揃いの公演でした。
日本のオペラレベルは本当高くなりましたよね。
最後に
今日はホワイエにこんなメニューがありました。
フルーツティーとイチゴのミルクレープです。ミルクレープを食べてみました(おいしかったです)。
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