そして楽しみにしていた演目!
2020年10月から新国立劇場の今期オペラが始まりました。
そしてシーズン一つ目のオペラは楽しみにしていたブリテンの「夏の夜の夢」。
チケットの売り出しがかなりぎりぎりだったし
平日の夜でブリテンという珍しいオペラの割には比較的会場にはたくさんの人が入っていたような気がします。
今回すごくチケットの発売が遅かったんですよね。
二期会は逆ですごく早めなのだけど。
人の入りは半分くらいかな。男性が多め。
さて今回の夏の夜の夢の感想を一言で言うと、
最初のうちは「不思議な音楽だなあ…ふしぎ…フシギ…」という気持ちがずっと続いていました。
でも終わってみれば、楽しかったしすごく満足してました。
このオペラを見られてよかったし、ブリテンっていう作曲家が少し好きになって、もっと見たいと思ったのは間違いないです。
今回はイギリスのオペラなので英語上演。
いつもと違うのは両サイドの字幕の他に小ぶりだけど英語の字幕がオーケストラピットの両横あたりにあったこと。
英語の字幕も時々見て、こういう風に歌ってるんだと、
いつものよう言葉はわけもわからず聞いているのとは違う楽しみ方もありました。
とはいえ、英語を追っているのは疲れるので結局日本語を見てましたけど(笑)
開場には子供もいてこのオペラに?と思いましたが、舞台には子供達もたくさん出演していたのでおそらく兄弟か何かかなと。
今回子供達も大活躍、遅い時間まで大変でしたよね。
夏の夜の夢・演出について
席に着くと舞台には半透明の前衛的な絵画のような幕。
この幕のイメージはそのまま舞台セットにもなっていて、不思議な音楽が始まると同時に幕が開いて妖精の世界が現れました。
夏の夜の夢は「妖精」と「貴族」と「職人」の3つの世界が織り成す世界。
登場人物が多く誰が誰かわからなくなるところだと思うのだけど、服装がはっきりと違うのでその点はわかりやすいし、雰囲気がでているなあと思いました。
特に妖精達の服装はふわふわして雰囲気があってよかったし、ギザギザしたティターニアのベッドが存在感があってよかった。
この重そうなベッドはティターニアを乗せて上下するんですよね。(乗る人はちょっと怖そうだけど‥)
そういえば変な骸骨みたいな人形がビヨーンと上下していたけど、あれはなんだったのかな?まいっか。
最後のシーシアスとヒポリタの装いは派手すぎてびっくりしたし、ここで出てくるのか‥と(原作だと最初にもかなり出てきていたから)。
職人さん達はサラリーマンみたいな感じの人が多くてちょっとまじめすぎ?と思ったけど最後の芝居がおもしろすぎてそちらは全然気にならなくなりました。
後半舞台に光を当てたときがありましたけど、光の当て方でこんなに違って見えるんだなと思いましたね。光って映画なんかでも一番難しいって聞いたことがあるけどちょっと納得‥。
そして終盤、真っ赤な幕が降りてきたのはガラリと雰囲気が変わってよかった。
そこからの劇中劇がまた最高に楽しかったし(笑)
原作でも職人達の芝居がどうなるのかが地味に楽しみでしたけど、オペラにしたらさらにおもしろくなっていました。
ピラマスだったかながナイフで「こうすれば死ぬ死ぬ!」っていうシーン。
あれは一番笑えたかも。あとライオンのあたりも。
塀はもっと大きな塀かと思ったらちっちゃな塀でした。
でもそれはそれでバカバカしさがでてておもしろかったかも。
1幕目の職人達は、「何この人たち?」って思うんですけど
2幕の変な練習風景があって、3幕で本番芝居になる過程はホント楽しくてこのオペラの醍醐味じゃないかなあ、と私は思いました。
内容はロミオとジュリエットばりの塀越しの悲劇ですけどまさにシーシアスが言う「喜劇で悲劇!」でした(笑)。
ついでに言うと「退屈で短い」も受ける(笑)。
シーシアスのことばは原作では他にも結構いいこと言っていたんですよね。
それにしても3幕最後に「ハーミアの父が‥」とかシーシアスが言っていたけどいきなり父がここで出てきても「ん?父?」っていう感じじゃないのかな。
原作だと最初に父とハーミアのやりとりが結構長いからそのことを言ってるんだとわかるけど、オペラはその部分は全然無くなってますもんね。
父と娘のやりとりはインパクトがあるセリフが多かったんですけど‥。
と言うか、シェークスピアっぽいセリフがもっとオペラに出てくるのかなと思って見に行きましたが、結果それはあまりなかったです。
マスネのウェルテルを見たときに感じたような、「原作の言葉がオペラにも重要なんだなあ」という感じは今回は無くて、ひたすら個性的なブリテン音楽の世界でした。
ブリテンの音楽って
ブリテンって決して聞きやすい方の音楽じゃないと思うんですけど、今回の夏の夜の夢で少しその印象は変わったかもしれません。
最初は不気味な音とともに幕が開いて、バイオリンがガムを伸ばして引っ張るようなビヨーンビヨーンという音が続いて不思議感が満載。
この弾き方は楽譜にはどんな風に書いてあるんだろう?とちょっと思ってしまいました。
でもまさに妖精の世界をあらわしているといえばそうかも。
最初のうちは「不思議な音楽だなあ‥」っていう感覚が続いてました。
子供達もよくこれ歌えるよねこれ、と思ったり。しかも英語だし。
なんていうか、ブリテンの楽器の使い方って私が知っている他の誰とも違う感じなんですよね。
パーカッション系もすごくいろいろ出てくるし。
一体ブリテンっていう人の頭の中ってどうなってたの?と思ってしまうような音楽なのです。
でも、かと思うとシスビー登場のシーンなんかはうっとりするような美しい旋律。
塀の歌も楽しいし。
「おお、塀よ」の歌なんか聞きやすくて同じ作曲家?と思うくらい。
全体としては印象的な音楽だったのはやっぱり3幕の劇の本番のシーンの音楽です。
お芝居がヘンテコなのに音楽がすごくよくて‥。
舞台も楽しいし、オーケストラの音も聞き逃したくなかったという感じでした。
一番最後はバレエかダンスが入ってもいいのかなと思いましたが、まあ無くてもね。職人さんたちのいまいちなダンスがなんだか微笑ましい。
歌と歌手について
夏の夜の夢って登場人物が多いので、全員の名前を覚えるのは難しいのですが、
今回一番目立っていたかなと思ったのは、まずオーベロン役の藤木大地さん。
オーベロンってカウンターテナーだっけ?と最初ちょっとびっくり。
でもオーベロンは妖精さんだし、夢の世界を現すにはぴったりなんだなと思いました。
すごく安定した素晴らしい声。
これまでも日本のカウンターテナーの人は何人か見ましたけど、こういう人がいたんですね。
まろやかでアルトの声のようでもあり。すごく存在感がありました。
あと女性ではヘレナ役の大隈知佳子さんというソプラノ。
かなり強い声で、蝶々夫人役もやっているみたいでなるほどと思いました。
最近の日本のソプラノは層がほんとに厚いんですね。
そしてもう一人、妖精パックを演じたのが河野鉄平さん。
この人は動きが身軽で、私が持っていたパックのイメージにぴったり。
前に映像で見た時のパックは太っていたけど、今回の河野さんはひらひらとよく動くところが役にぴったり。
身軽だけどこの人もバリトンだったかな、オペラ歌手なんですね。
ちょこっと歌ってる?と思うシーンもありましたけどあれは口だけだったのかな。
ハーミア役は但馬由香さんというメゾソプラノ。
すごく小柄で華奢な体なのに、ちゃんとメゾ。
ハーミアは小柄な設定なので、小柄なメゾソプラノってあまりいなそうだけどちゃんといるんですね。
特に後半美しい声を聞かせてもらいました。
ティターニア役は平井香織さんというソプラノ。この人は衣装と姿がとても妖精っぽくてよかったです。
最後の挨拶で、お顔がちゃんと見えてさらにそう思いました。
ティターニアがロバを好きになってしまうシーン、
原作ではさらっと読んでしまったのですがオペラではこのシーンはかなり長いです。こんなにオペラでは長かったのねと思っちゃいました。
職人さんたちも妻屋秀和さん始め芸達者で楽しかった。
そして最後にすごい衣装で登場したシーシアスが大塚博章さん。
同じく派手派手な衣装のヒポリタ役は小林由佳さん。
でも衣装が派手って個人的には好きなので最後に二人の登場はちょっとびっくりだけどメリハリがあってよかったなと思いました。
そして今回子供達の合唱と歌もありました。
子供の声っていうのは本当に澄み切っていて心が洗われます。
くもの巣の妖精さんから始まった自己紹介で4人目の時に遮られてしまってありゃ!聞きたかったと思ってしまったけど。まあそれはそういうお話だから仕方ないですね。
というわけで、私の中では不思議一色ではじまったこのオペラでしたけど
最終的にはすごく楽しめました。
最後にパックが「これは夏の夜の夢ですよ」というのを聞いて妙にしみじみと「そうか、そうだったね」と心がほんわかする気がしました。
夏の夜の夢はなかなか上演しないオペラだと思います。そんなオペラを生で見ることができて本当によかった。
それにつきるかな。いろいろ感謝です。
ブリテンの「カーリュー・リバー」能・隅田川から生まれたオペラ
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