ワーグナーを語るときに欠かせないのはバイロイト祝祭劇場です。
バイロイトというのはドイツのバイエルン州にある都市の名前で、
その地にワーグナーはバイロイト祝祭劇場というオペラハウスを作ったんですね。
ワーグナー自身のオペラを上演するための劇場です。
それまでのオペラハウスとは全く異なる造りで、居心地のいい劇場とは言い難かったのですが、
ワーグナーの音楽をワーグナーが最も望んだ形で聴くことができる劇場と言えます。
そのためバイロイト祝祭劇場は世界中のワグネリアン(熱狂的なワーグナーファン)達の憧れの場所で、バイロイト詣でという言葉も言われるほど、ワーグナーの聖地なのです。
バイロイト祝祭劇場
バイロイト祝祭劇場の成り立ち
バイロイト祝祭劇場の成り立ちは
ワーグナーがバイエルン王ルートヴィッヒ2世の支援のもと、
ワーグナーのオペラと楽劇だけを上演するために劇場を造り、音楽祭を始めたのが最初です。
今でも毎年夏の7月から8月にかけてバイロイト音楽祭という音楽祭が開かれ、
このバイロイト祝祭劇場でワーグナーのオペラと楽劇が上演されているので、
ずっとワーグナーの意思は尊重され続けているわけです。
ワーグナーは自身の作品を納得のいく形式で上演することに強くこだわっていました。
そしてそれを支援したルートヴィッヒ2世といえば、観光地で有名なノイシュヴァンシュタイン城を作った人でもあります。
ディズニーランドのシンデレラ城のモデルになったと言われている美しいお城ですね。
ルートヴィッヒ2世はワーグナーの曲の熱烈なファンで、中でもローエングリンというオペラが特に好きだったと言われています。
ローエングリンはオペラの中で白鳥が引く小船で現れるため、白鳥の像まで作ったのだとか。(白鳥には重すぎるんじゃないかと、いつも思っちゃうのですが‥笑)
ルートヴィッヒ2世は精神がおかしかったとか、あまりに城を造ったせいで財政が乱れたなどと言われているため政治的には問題があったのかもしれませんが、ワーグナーに関しては
ルートヴィッヒ2世のおかげで現在のバイロイト祝祭劇場があることは確かですね。
バイロイト音楽祭の最初の上演はワーグナーのオペラの中でも楽劇と呼ばれるニーベルングの指輪でしたがその劇場はかなり通常の劇場とは異なっていました。
バイロイト祝祭劇場の特徴
ワーグナー以前のオペラは、どちらかというと社交場的な要素が強く
オペラに集中してみるような認識があまりありませんでした。
今のように静寂の中で聴いていたわけではなかったようです。
しかしながら、ワーグナーは最良の音で上演するとともに、観客がオペラに集中するようなつくりにしたかったんですね。
バイロイト祝祭劇場は建物も壁も床も椅子も全て木でできており、きらびやかなシャンデリアも彫刻も一切無い劇場です。
とにかく音色重視です。
中でももっとも特徴的なのはオーケストラピットというオーケストラが演奏するスペースの形状で、舞台の下に斜めにもぐりこむような形になっているのです。
神秘の奈落などと呼ばれています。
通常は観客からオーケストラピットが見えるのですが、バイロイト祝祭劇場についてはほとんどピットが見えません。
これは歌い手の声がオーケストラに遮られることなく客席に届くように作られた構造です。
逆に言うと、このような構造になっていないオペラハウスで、大音量のオーケストラを飛び越えて客席に声を届かせるのは、本当に大変なことだと思ってしまいます。
アメリカのメトロポリタン歌劇場などは大きいから特に大変。
劇場は舞台から扇型にひろがり、客席の椅子は全て舞台の方を向いています。
ただ、この椅子がカチカチに固くてクッションが全く無い椅子で、しかも肘掛もありません。
今時肘掛が無い椅子のホールなど一つも無いですよね。
そんな場所に、世界中からワーグナーを聴きにやってくるわけですから、いかに熱烈なファンが多いかということがわかるのではないでしょうか。
また横一列の座席は、途中途切れるところ(通路)がほとんど無く、長く連なっています。
そのため、休憩が終わる頃になったら、真ん中あたりの席の人はかなり早めに席に戻っていないといけないんですね。
また、この椅子は浅く座るような構造になっていて、
これは決して居眠りをしないようにするために作られたと言われています。
すごいですよねえ。
すごくストイックな劇場です。
ワーグナーの意志はそれほど強かったんですね。
現在でも冷房も無く、しかも上演時間が長いので本当に体力が必要な劇場です(変わっているかもしれませんが)。
具合が悪くなる人もいるとか。
それでも世界中のワグネリアンたちの羨望の劇場で、チケットは抽選で最も取りにくいと言われるチケットの一つなのです。
バイロイト音楽祭の演目
バイロイト音楽祭で上演する演目はワーグナーの作品の中でも決められています。
さまよえるオランダ人以降に作られたの以下の7つオペラの中の演目から上演することになっています。
- さまよえるオランダ人
- タンホイザー
- ニュルンベルクのマイスタージンガー
- ローエングリン(ワーグナー)の魅力・白鳥に乗った王子ローエングリン
- トリスタンとイゾルデ
- パルジファル
- ニーベルングの指輪(ラインの黄金、ワルキューレ、ジークフリート、神々の黄昏)
ニーベルングの指輪は4つで一つのお話になっており、このなかのどれかの演目だけを、上演することは
バイロイト音楽祭では禁止されています。
また、バイロイト音楽祭では基本的にニーベルングの指輪は必ず上演することになっていて
あとは残りの演目の中から3つのオペラが選ばれて、計7つのオペラを上演することになっています。
5年に一度ニーベルングの指輪を上演しない年がありますが、それは演出を変えるためで、
この年だけはニーベルングの指輪以外の6個のオペラを上演します。
もともとバイロイト音楽祭はニーベルングの指輪の上演のために作られたので、
世界中のワーグナーファンもやはりこの演目を見たいところかもしれませんが、
他の作品も素晴らしいのでどちらがいいとも言えないかもと私などは思います。
バイロイトの日本公演
バイロイト音楽祭は夏のイベントなので、通常はほかのオーケストラなどに所属しているプロたちが夏だけこの音楽祭のために集結しています。
出演料は決して高くないようですが、
この名誉ある音楽祭には著名な指揮者、オーケストラのメンバー、歌手達が集まってきます。
特に歌手については、バイロイトで歌ったといえばそれだけで名誉なんですよね。
バイロイトで歌ったと聞くと、それだけですごいと感じるものです。
日本でいうと歌手が紅白に出る、みたいな感じでしょうか。
ワーグナーを歌う歌手はかなり強い喉を求められるので、なかなか日本人歌手が出ることはありませんでしたが、
最近では藤村美穂子さんという日本のオペラ歌手がラインの黄金のフリッカ役に抜擢され、オペラ会ではニュースとなりました。
また、数年前には大植英二さんが指揮者としてバイロイト音楽祭でトリスタンとイゾルデを指揮しました。
これにはさらに驚いたのを覚えています。
さて、このバイロイトのメンバーは基本的に海外公演は行わないのですが、
例外的に日本でも公演を2度やっています。
日本でなぜ?と思いますが、ヨーロッバと異なり様々なしがらみがなかったのかななどと勝手に想像していますが、
いずれにしろ嬉しいことですよね。
残念ながら私は見ることができなかったのですが、一度目の日本公演は大阪で1967年のこと。
演目はトリスタンとイゾルデ、ワルキューレを上演したようですが、
当時、まだまだクラシックが日本にそこまで浸透していなかった時代に、いったいどんな人たちが聴きに行ったのかとそちらもちょっと興味あるところです。
当時ヴィントガッセンや、ビルギット・二ルソンが来日したとは考えただけでワクワクしちゃいます。
二度目の日本公演は東京で1989年のこと。
シェリル・スチューダー、ブレンデル、などが来日したのですが
個人的にはシェリル・スチューダーを見たかったですね。
何度もビデオで見ていたので。
この時の指揮はシノーポリという指揮者です。シノーポリはその後若くして亡くなってしまいましたが‥。
オペラというのは同じ演目が、そう頻繁に上演されるわけではありません。
また上演の度に、歌手やオーケストラ、指揮者が変わるので、
全く同じ上演というのはほとんど無いのです。
そのため、多少値段が高くても行っておいたほうがいいとつい思ってしまいますね。
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