今回はジョルダーノという人が作曲したオペラ「アンドレア・シェニエ」についてです。
作曲したジョルダーノという人はは1867年イタリア生まれ。
プッチーニが1858年生まれなのでジョルダーノより9歳上、
またマスカーニが1863年生まれなので4歳上、というわけでジョルダーノはだいたいその頃の人ですね。
ジョルダーノってヴェリズモの人なの?
ジョルダーノもソンジョーニの一幕コンクールに応募した
題名になっているアンドレア・シェニエというのは実在の人で詩人でした。
フランス革命時ロベスピエールの恐怖政治下、わずか31歳という若さで断頭台で処刑されてしまった人です。
しかもロベスピエール自身がそのわずか3日後には処刑されてしまっているので
ロベスピエールによる最後の死刑囚になってしまった人なのです。
このオペラの作曲はウンベルト・ジョルダーノというイタリアの作曲家です。
このジョルダーノという人について気になるのは、ヴェリズモオペラの作曲家という言葉がよくでてくるのでえ?そうなの!と思うことでした。
アンドレア・シェニエって時はフランス革命時で、伯爵の娘と詩人の悲恋の物語で
壮大な背景と激情的なストーリー展開はどちらかというとヴェルディっぽいというか、
ドン・カルロとかシモン・ボッカネグラとかそんな類のイメージだったんですよね。
劇的な音楽はプッチーニ寄りかもしれませんが。
ヴェリズモって言うともっと庶民の生活に密着したオペラで、暗くて地味でちょっとドロドロしているけどおもしろい
そんなイメージなのです。
代表的なところだと
マスカーニのカヴァレリア・ルスチカーナやレオンカヴァッロの道化師のような
そういうイメージとアンドレア・シェニエは結びつかなかったんですよね。
だからなんでヴェリズモなの?と思ったわけです。
ヴェリズモの代表っていえばマスカーニのカヴァレリア・ルスチカーナで
マスカーニはソンジョーニ社の一幕ものオペラコンクールに応募して一位になったことで有名になった人なのですが、
実はジョルダーノも「マリーナ」というオペラでこのコンクールに応募していた一人だったんですよね。
で、その時の一位がマスカーニで、ジョルダーノは最年少(23歳)で入賞だったのですね。
総勢73名のうちの入賞なのでなかなかのものだったんですよね。
その後ソンジョーニ社の支援で次に作ったオペラが「マラヴィタ(堕落した生活)」というオペラ。
これがゴリゴリの(笑)ヴェリズモなのです。
ジョルダーノのマラヴィタ(堕落した生活)というヴェリズモ
ソンジョーニ社の一幕ものコンクールで入賞したあと
ジョルダーノが次に発表したのが「マラヴィタ」というオペラ。
このマラヴィタっていうオペラに関することがすごくおもしろいっていうか興味深いんですよ。
1幕ものコンクールで優勝したマスカーニのカヴァ・ルスチカーナが大ブレイクしていたので
似たようなヴェリズモオペラを作ろうという方針で、選ばれたのがマラヴィタという題材だったようなんですね。
内容は結核の主人公が娼婦の女性を改心させるとか、最終的には捨てるとか、売春宿にもどるとか
そんな不道徳は話だったわけです。
マラヴィタの場所はナポリのスラム街という設定。
マラヴィタの初演はローマのアルジェンティーナ劇場で1892年のこと。
ジョルダーノが25歳の時でした。
このオペラって3幕なのに合計で75分程度しかないんですよね。
煽情的なオペラなんだろうなあ、見たことないけど。
で、初演のローマでは大成功だったらしいんですよね。
ところが…
ナポリのサンカルロ劇場での上演は大失敗。うーんこれだけでも興味津々!じゃないですか。
ブーイングがものすごく、音が聞こえないほどだったとか。
まるで犬小屋の様だったという記述まであるほどですからよほどだったんでしょうね。
日本ではそういうのは聞いたことがないのでいったいどんな感じだったのかと、野次馬的に思っちゃうわけです。
なんでそこまでブーイングだったかというと
- 舞台がご当地ナポリで、スラム街の様子がまるでナポリの典型かのようだったこと
- 不道徳な人物設定やラストで売春宿の習慣やラストに売春に戻るなど倫理的なこと
- しかも神聖なサンカルロ劇場でそれを上演するなんて
- ナポリ方言はいいけどナポリ俗語もあり
など、まあ要するに舞台がナポリのスラムで、公演場所がナポリだったことが腹立たしかったんじゃないかなという気がします。
その後ウィーンとかミラノ、ボローニア、トリエステなどでも公演をやっているのですが、そこそこ成功したらしいんですよね。
要するにこのオペラはアンドレア・シェニエとはずいぶん違う系統の話だったわけです。
ジョルダーノがこの後ロマン的なオペラに変更して作ったからなんですよね。
だからアンドレア・シェニエを見た時になんでヴェリズモ代表なの?と不思議に思ったわけが、そういうことなのねと納得したわけです。フムフムと。
アンドレア・シェニエっておもしろいんですよ。
なんでもっと有名にならないのかと思うんですけど。
ジョルダーノってマラヴィタのような作品で良くも悪くも注目を浴びるような人ですから、激情的なオペラがやはり得意なんでしょうね。
さらにおもしろいのは、ジョルダーノが本当に注目を浴びるのが「アンドレア・シェニエ」なんですけど、
彼は有名になってから再度マラヴィタを改定しているんです。
売春婦は過去に身を崩した経験があるという設定にし、売春宿も舞台には無くなり、最後に再び売春に戻るのも無しで川に身を投げるというように変えたんですね。
要するにブーイングを浴びないように直したらしいのです。
そうしたら成功しなかったという結果。
そんなもんなんだなあと。人ってやっぱりそういう過激さも実は求めるんじゃないだろうかと。
私だって初演の方を見たいですもん。
その後に出てくるベルクのルルなんかもっと退廃的じゃないかと思うんですよね。
ある意味時代がジョルダーノについてきてなかったのかもしれないなあって。
というわけで、日本ではおそらくマラヴィタは上演しているのを見たことが無いのですが、すごく見てみたいオペラですね。
初演のシェニエ役は今でも名前が残る名演
さて、アンドレア・シェニエのことじゃなくマラヴィタのことばかり書いてしまいましたが、
アンドレア・シェニエの初演はなかなかの名演となったようです。
初演の場所はミラノのスカラ座。ジョルダーノが29歳の時です。
なんでもスカラ座の運営の一端ってリコルディ社とかソンジョーニ社といった今の楽譜会社が担当していたらしいんですが、
この年はソンジョーニ社の担当だったらしいんですよね。
楽譜会社ってすごい力があったんだなと思いませんか。
まあ楽譜会社にとっては、コンクールをやって新人を発掘したりするのが大事な仕事だったわけで
当時はそれが会社の大きな売り上げに結び付いたということですよね。
ジョルダーノはソンジョーニ社が発掘した作曲家なので、スカラ座で初演してそして成功したとそういうことみたいです。
さてアンドレア・シェニエの初演は1896年のことで、でシェニエ役(テノール)を歌ったのがジュゼッペ・ボルガッティという人でした。
この人がすごいんですよ。
見た目もなかなかかっこいいんですが、ボルガッティはその後ワーグナー歌いにもなっていくんです。
シェニエの初演の時のボルガッティが25歳。
この時の大成功をきっかけに彼は大歌手になっていくんですよね。
トスカニーニという指揮者を知っている人も多いと思いますが、
トスカニーニがスカラ座の芸術監督になったのが1898年でなんとまだ31歳。
つまり二人は4歳違い。二人とも若いですよね。
トスカニーニとボルガッティはその後多くのワーグナー作品を上演して行ったのです。
そして1904年にはバイロイトにも。
バイロイトに初めて登場したイタリアのテノール歌手になったのがこのボルガッティだったんですよね。
彼の主な活躍場所はミラノのスカラ座でしたが、バイロイトをはじめ遠いアメリカまでも行っていたのです。
イタリアもののオペラはもちろんのことワーグナーのレパートリーも多くて
- ローエングリン
- タンホイザー
- マイスタージンガーのヴァルター
- ジークフリート
- ジークムント
- トリスタン
- パルシファル
をすべてうたったのだとか。すごいレパートリーですよね。
まさにヘルデンテノール。
ヘルデンテノールっていう言葉っていつからあったのかよくわからないのですが、
だいたい出てくるのはもう少し後の時代の人達なんですよね。
だからもしかして元祖イタリアのヘルデンテノールか!と思っちゃいました。
トスカニーニってアメリカのオペラハウスの活性化にも貢献している人なんですが、
その流れなのかアメリカにも行って歌っているんですよね、しかも南アメリカまでも。
おそらくコロン劇場あたりかと。
とはいえ、ボルガッティは早い時期に緑内障になってしまうので、意外に歌手人生はそれほど長くないんです。
オペラ歌手ってすごいですよね、それでもこうやって名前が残るんですから。
ちなみにこの人の出身地チェントというところにはボルガッティ劇場と呼ばれる劇場もあるんですよね。
ついでに言うと、ジョルダーノ劇場っていうのも別のところにあります。
イタリアは本当に劇場が多いんですよね。
アンドレア・シェニエ簡単あらすじ
さて最後にアンドレア・シェニエの簡単あらすじを書いておきます。
時はフランス革命のパリ。
主な登場人物は、
- 伯爵家の令嬢マッダレーナ
- マッダレーナと恋に落ちる詩人のアンドレア・シェニエ
- 伯爵家の従僕でのちに革命家、マッダレーナに思いを寄せるジェラール
この3人。
1幕は革命が始まる前です。
マッダレーナとシェニエの出会いと、革命前の少し不穏な雰囲気。従僕のジェラールは家を飛び出して革命家に。
2幕ではフランス革命が始まり、貴族は断頭台へ連れて行かれている状況。
身の危険を感じているマッダレーナがシェニエを頼ってやってくるのですが、ジェラールたちが現れ一悶着。
ジェラールが結構いい人で、シェニエに刺されても「マッダレーナを守ってくれ」と行ってシェニエを逃すんですよね。まだマッダレーナが好きなんですね。
3幕は法廷のシーン。ジェラールはマッダレーナの苦しい生活やシェニエへの愛に打たれ、シェニエの弁護をするも、死刑の判決がでてしまいます。
4幕ではシェニエと一緒に死のうとやってきたマッダレーナ、またもジェラールはロベスピエールに助命を頼みに行くのですが、間に合わず断頭台へ。
という悲劇のストーリーなのです。
劇的な内容なので、強い声の歌手がいいですよね。
まだ映像でしか見たことがないので、生で見てみたいオペラです。
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