ユグノー教徒はフランスで生まれたグランドオペラの一つです。
初演当時は絶大な人気のオペラだったらしいのですが、現在では(特に日本では)あまり知られていないオペラになってしまいました。
私がこのオペラを見たのもオペラを見はじめてから随分経ってからだったんですよね。
そもそも日本ではほぼやってないし、オペラの演目とあらすじがたくさん載っている本の中には載ってさえいないこともあります。
だから正直言ってたいしておもしろくないオペラなんだろうと思っていました。
ところが違ったんですよね。
グランドオペラの代表作
- 作曲:マイアベーア
- 台本:スクリープ&エミール・デシャン
- 初演:1836年
- 初演場所:パリオペラ座(サル・ル・ペルティエ)
グランドオペラの全盛期っていうのは1800年代の主に前半で、グランドオペラの代表作の一つと言われているのがこのユグノー教徒なのです。
作曲したのはマイアベーアという人で、
マイアベーアはフランスの生まれかと思うとそうではなく、生まれはドイツでイタリアでも修行し、それからパリに来ている人なんですよね。
世代的には私の好きなウェーバーとほぼ同じで、モーツァルトより少し後に生まれている人です。
というかモーツァルトが亡くなった年にマイアベーアは生まれてます。
また、ユグノー教徒には台本に二人の名前が載っていますが、そのうちの一人スクリープという人はグランドオペラにはとてもよく名前が出てくる人です。
この時代ってどうも作曲者より台本作家の方が注目されていたのでは?という感じなんですよね。
現代では作曲家の方が目立ちますけど。
で、台本のもう一人エミール・デシャンという人はマイアベーアの希望でかかわった人です。
台本に二人というだけでも台本に力を入れていたのがわかる気がしますが
加えて、ユグノー教徒は歴史的な事件がもとになっているので、そこら辺をちゃんと掘り下げて作りたいというマイアベーアの意思もあったらしいんですよね。
この3人って皆1791年生まれで、初演の時は45歳でした。
やっぱり仕事をするのは同年代がやりやすいのかもしれません。
初演の歌手たち
ユグノー教徒はマイアベーアの中でもっとも成功したオペラと言われていて、なんとパリオペラ座だけで1000回以上も上演されているオペラらしいです。
いつの時点で1000回かというのはありますが、いずれにしてもすごい数字なわけです。
なのに日本では‥
ちゃんと上演したことはおそらくないのではないかな?
そもそもこのオペラはヨーロッパですら今はそれほど上演される方では無いと思います。
理由はいろいろ考えられますが、一つにはユグノー教徒を歌える一級の歌手を揃えるのが難しいというのがあると思います。
ちゃんと歌える一級の歌手が7人だったかな、確かそれくらい必要なんですよね。
ユグノー教徒はグランドオペラなのでそもそも時間が長いです。
グランドオペラって5幕のものが多いんですが、ユグノー教徒もそうで、
5幕まであって正味4時間近くもあるのです。しかも超難しそうな歌ばかり。
私はこのオペラは映像でしか私も見たことがありませんが、見てるとよくまあこんなに大変な曲をしかも長く歌えるなと歌手の人には感心しちゃいます。
でもって、初演の1836年の時はいったい誰が歌ったのかというと
- ジュリー・ドリュグラ
- コルネリー・ファルコン
- アドルフ・ヌーリ
- プロスペル・ルヴァッスール
など。
この人達って知る人ぞ知る当時のパリオペラ座のスター歌手なんですよね。別の記事でも書いてますけど。
今と少し違うのはスター歌手の年齢がかなり若いっていうこと。
今ってオペラ歌手がもっとも脂がのるのは40代あたりじゃないかと思いますが当時のスター歌手って若くて
たとえばコルネリー・ファルコンなどは初演当時若干22歳なのです。
この若さでこの難役を、しかもオペラ座の大舞台で歌うなんてびっくりで今ならあり得ないことです!
もっとも…
喉を酷使したせいか、ファルコンはのちに声が出なくなってしまって歌手人生は短かったんですけど‥。
あと、ついでに言うと(別の記事でも書いてますけど)アドルフ・ヌーリっていう歌手も30代で自殺しちゃうんですよね。
いろいろあるオペラ座の歌手たちです‥。
ユグノーって?
さて、タイトルのユグノーっていうのはキリスト教のプロテスタントの一派のことです。
カトリック側の人たちがそう呼んだのだとか。
世界史を少しかじった人ならユグノー戦争っていう言葉は聞いたことがあるかもしれません。
カトリックとプロテスタントの間の16世紀の約40年にわたる内戦のことです。
オペラを見るにつけもっと世界史をちゃんとやっておけばよかったとよく思います。まあやってないよりはいいし、あとから勉強はいくらでもできるんですけど…
ユグノーの内戦のうち1572年に起きた「サン・バルテルミの虐殺」という事件がこのユグノー教徒というオペラの元になった事件で、
簡単に言うとカトリックがプロテスタントのユグノー教徒を大量虐殺したのです。
史実の中では国王の母(カトリーヌ)が二つの宗派の争いをなんとか収めようと、ユグノー派の指導者とカトリック派の王女マルグリットを結婚させようとするのですが、
オペラの中でもやはり仲をとりもつ王妃役がいて、また宗派が違う恋人同士がいるという設定になっていて
オペラにもマルグリットという名前が出てきます。
ただし、オペラのマルグリットは王女ではなく仲を取り持とうとする王妃の名前になっていて、史実の方のマルグリットかなと思える女性の名前はヴァランティーヌという名前になっていますね。
両宗派の一触即発の雰囲気や、罪のないユグノー市民が殺されたことなども(実際に数万の命が亡くなったらしい)オペラにはでてきます。
なので、ユグノー教徒を見る時は、「サン・バルテルミの事件」少し読んでから見ると、また深いものを感じると私は思います。
と同時にこの壮大で暗い史実を、若干設定は違うけど、よくこんなオペラにしたなあと思うのです。
日本の歌舞伎でも史実に基づいた演目ってありますよね。
そして微妙に名前を変えたりしているのは、古今東西同じなのかなと、そんなこともちょっと思ったりしました。
ヴェルディ、ドニゼッティが好きなら絶対みるべし
私も結構オペラを見てる方だと思っていたんですけど
このオペラを見たのはかなり遅かったです。
そもそもオペラの解説本にはユグノー教徒は載ってなかったりするし
だから知らなかったというのが正直な所です。
初演当時はすごく人気があっても今はそれほどメジャーじゃないからオペラ本に載っていないのだと思いますが、
正直なところ私は、現代まで残っていない(上演され続けていない)オペラっていうのは基本的につまらないから残っていないのだろうって勝手に思っていました。
ところがこのユグノー教徒をはじめとするグランドオペラの類を見て、まず思ったのはこっちを見なくては、ヴェルディとかドニゼッティが好きとか言えないんじゃないかということ。
見て感じたのは
え?!ドニゼッティっぽいじゃない、ロッシーニっぽさもある!、ヴェルディみたい!何ならワーグナーにも似てる!
という驚き。
というかマイアベーアの方が古いんだから実はこちらが元なんじゃないの?という発見。
後の有名なロマン派たちはマイアベーアをお手本にしたのかな?ということ。
実はそんなような話は、ワーグナーか誰かの何かを読んだ時に書いてあったような気もしました。
何はともあれ、つまりすごく音楽が良いのです。
どうしてこんなにいいのに今まで知らなかったんだろう、今上演されないんだろうという驚きと発見でした。
とはいえ、アリアがちょっと長いなあ、こんなに長くなくてもいいんじゃない?と思う場面もなくはないです。
でもとにかく思っていたより良くてびっくりだったのと、こんなに難しくて長丁場のオペラを歌うのはそれは大変だろうなということ。
とはいえ最近もちゃんと上演はされているんですよね。
サザーランドっていう長身の有名なソプラノ歌手がいたんですけど、その人なんかは引退公演でこれをやったとか。
ほんとに?!と思います。
60代だったらしいけど、全部歌ったんだろうかという疑問すら‥。
それくらい大変そうなオペラなのです。
いろいろカットはできそうだし、実際カットして上演したりするらしいです。
グランドオペラにはお決まりのバレエもカットしたりするらしいし。
同じくマイアベーアの悪魔のロベールのバレエ(ゾンビの尼僧の踊り)は見せ場なのでカットできないと思いますけど、ユグノー教徒の場合はカットできそう、と勝手な意見ですが。
この長大なグランドオペラはフランでの上演の後、ヨーロッパでは次々とあちこちの国で上演されているんですよ。
そして遠くアメリカのメトロポリタンでも1884年に上演しています。
日本とはやっぱりオペラの土壌が全然違うのは仕方ないですね。
まあ、日本には日本の良いものもたくさんありますしね。
というわけでロマン派オペラが好きな人ならきっとマイアベーアは好きだと思います。
グランドオペラが現在19世紀のように復活するなら絶対に好きになっちゃうだろうなあと私なんかは思いますね。
何しろ音楽が良くて豪華なんですから。
長くなったのでユグノー教徒のあらすじと見どころは別で書きます。
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