今回はヴェルディ作曲のオペラ・トロヴァトーレです。
ヴェルディは世界中のオペラハウスで、人気の高い作曲家の一人ですが、
その中でも、トロヴァトーレは、もっとも見応えがあると言っても過言ではないでしょう。
ヴェルディらしい音楽が満載のオペラだと思います。
成立と初演
- 初演:1853年
- ヴェルディ作曲
- 初演場所:ローマ・アポロ劇場
- 原語:イタリア語(パリ・オペラ座用に作ったフランス語もあり)
ヴェルディの時代は、オペラの成立は、劇場からの依頼で作るというのが普通だったのですが、
このオペラについては、ヴェルディの意思で作り始めているところが、他のオペラとの成立の違いです。
また、そのことが、もっとも見応えがあり、ヴェルディらしい旋律が多く、魅力のあるオペラになっている所以のひとつでしょう。
もっともこの時期、ヴェルディは郷里のブッセートで、人々の冷たい視線に耐えかねて
ブッセートを離れて農園を借りていた頃です。
そのため、オペラを作る状況も異なっていたという背景もあったのでしょう。
とはいえ、この頃のヴェルディの作品はとても情熱的な作品が多く、
もっとも作曲家として勢いがあったのではないかというのを、作品を通じて感じます。
特にマクベス以降の作品、
リゴレット、トロヴァトーレ、椿姫、の3つのオペラを頂点としてドン・カルロあたりの作品までは、
ヴェルディらしい情熱的な作品ばかりです。
トロヴァトーレは、もともとスペインの劇作家によって作られた物語なのですが、
ストーリーはスペインらしく、非常に熱い物語です。
そもそも依頼されていないのに作ったということは、ヴェルディはよほどこの題材でオペラを作りたかったのでしょうね。
そんな意気込みを感じるオペラです。
現にこのオペラは他の作品に比べても、当時大成功を収めたといいます。
トロヴァトーレの初演は、ローマのアポロ劇場というところですが、アポロ劇場は今はありません。
アポロ劇場は、ヴェルディのオペラ仮面舞踏会の初演の場所でもありますが、現在はテベレ河畔に碑があるのみです。
1853年といえば、今から150年以上前なのですから、さすがに無いのも仕方ないですよね。
さて、ヴェルディのオペラで、アイーダというオペラがありますが、
アイーダはスエズ運河の開通に伴い、依頼されて作ったオペラで、セレモニー色が強いオペラです。
アイーダは洗練された良さがあるとはいえ、この二つのオペラを比べると、情熱の度合いが異なることがよくわかると思います。
トロヴァトーレは、ヴェルディが好きな人なら、絶対に、見逃せない演目ではないでしょうか。
あらすじと上演時間
トロヴァトーレというのはイタリア語で、吟遊詩人のことです。
語源は中世のトロヴァドールで、南フランスの王宮から生まれたと言われており、
詩と曲を作り諸国を回りながら、歌っていた人々をいいます。
吟遊詩人は、時代や地域により呼び方や、形態も異なり、
王宮のお抱えになる者や、諸国を歩く者など様々です。
トロヴァトーレと呼ばれる吟遊詩人の多くは、元貴族など生まれが良い人が多く、
このオペラの主人公マンリーコも、ジプシーに育てられたものの、実は貴族の息子という設定なんですね。
歌を歌うというと現代だと歌手が浮かびますが、中世の吟遊詩人は、自分で詩を作り、曲も作る、プロで
事件や事故を語り継ぐという役目も果たしています。
今のようにテレビもインターネットもなかった時代は、情報伝達の一つの手段だったんですね。
日本だと、琵琶法師がそれに似ているかもしれません。
現代だと、自分で作詞作曲するところはシンガーソングライターにちょっと似ていますね。
<トロヴァトーレの簡単あらすじ>
ジプシーのアズチェーナに育てられたマンリーコは、レオノーラと恋仲。
一方、ルーナ伯爵もレオノーラを愛しており、レオノーラを巡って二人は決闘になってしまいます。
ところが実は二人は離れ離れになった兄弟。
かつてアズチェーナは、兄弟の父に母親を殺された(火あぶりで)ので、
恨んで、マンリーコをさらって殺そうとしたのですが
間違って自分の息子を焼き殺してしまった、暗い過去があるのです。
レオノーラがマンリーコを愛するため、怒ったルーナ伯爵は弟と知らずにマンリーコを処刑してしまう
という、悲劇的なストーリーです。
<上演時間>
全4幕
- 第1幕・・30分
- 第2幕・・40分
- 第3幕・・25分
- 第4幕・・40分
上演時間は合計で約2時間20分程度。
休憩を入れると3時間半弱というところだと思います。
4幕ある割には、上演時間はさほど長くありません。
長くはないのですが、アズチェーナの過去の話が前提となるので、
アリアの歌詞がかなり内容が濃いのが特徴。
特に最初のフェルランドのアリアと、アズチェーナの最初のアリアがそうで、感情を歌うのではなく、過去のストーリーを歌っています。
トロヴァトーレの特徴
トロヴァトーレの特徴は、なんといっても熱くみなぎる情熱的な音楽です。
しかもそれが、最初から最後まで全曲通してずっと、です。
ヴェルディのパワーと魅力を、最初から最後まで感じることができるオペラですね。
ヴェルディという作曲家は、リゴレットといいトロヴァトーレといい、かなり残酷な悲劇を書いています。
リゴレットは父親が娘を殺してしまいますし、トロヴァトーレは母親が息子を殺し、また兄が弟を殺してしまう話ですから。
作曲したヴェルディは生涯で2度、結婚をしていますが、1度目の妻とその間に生まれた二人の子供をいずれも病で亡くしています。
そのことが作品と関係があったかどうかはわかりませんが、ヴェルディの作品には悲劇性が強く、訴えるものが大きいのは、何かしら彼の人生と関係があるのかもしれません。
さて、トロヴァトーレについては、悲劇的なストーリーではありますが、若干理解できない部分も少なからずあります。
特に感じるのはアズチェーナの人物像です。
母親を殺された恨みで、その子供をさらって殺そうとするところまではわかりますが、
誤って自分の子供を火に投げ込むと言うのは辛すぎ、
また、殺すつもりだったマンリーコを育てているのも不思議。
今では、マンリーコに深い愛情を抱いているようにみえるのに、実の兄に処刑されると
「復習した」と最後に叫ぶのは、若干えっ?と思ってしまうところはあります。
とはいえ、トロヴァトーレで、最も重要な役はアズチェーナかもしれません。
ドラマティックなメゾソプラノが歌うことが多いです。
おそらく原作はもっと複雑で、これらの不思議に思えるところも、致し方の無い事情があるのだと思います。
ただ、この複雑な内容を、オペラで表現するで、トロヴァトーレは非常に場面が多く、次々と場面が変わります。
オペラは、愛していますという内容を、延々6〜7分かけてアリアで表現する
ようなところがあるので、結構単純なあらすじのオペラもあるのですが、
トロヴァトーレについては、その点なかなか複雑ですね。
オペラは芝居のように長々とセリフを言うわけでは無いので、設定や状況を細かく描写するのは難しく、通常レチタティーヴォがその役目をしますが、
トロヴァトーレでは、アリアがそれを担っている部分が大きいですね。
トロヴァトーレは、台本をカンマラーノというひとが書いていますが途中で急死しているんですね。
それが何かしら影響があるのか、今となってはわかりません。
とはいえ、ヴェルディのオペラの中で、一番と言っていいくらい、トロヴァトーレは好きなオペラです。
それほど、トロヴァトーレの叙情的な音楽は、魅力にあふれています。
オペラのタイプは全く異なりますが、ストーリーは、納得できないところもあるけど
それを超える音楽の素晴らしさがある、という点では、モーツァルトの魔笛と似ているかもしれません。
トロヴァトーレのみどころ
トロヴァトーレはカンマラーノというオペラの台本作家が台本を書いています。
カンマラーノはドニゼッティのランメルモールのルチアの台本を手がけたことでも有名で、且つ舞台監督でもありました。
10歳以上年上の人で、ヴェルディより、時代的に少しだけ前に活躍しているドニゼッティのオペラの台本を多く手がけた人です。
そのせいか、トロヴァトーレは古い形式とも言える、ナンバーオペラという、アリアや重唱などが独立して番号がつけられている作り方になっています。
前作のオペラ、リゴレットが流れるように、音楽と台本、芝居が融合していて、ナンバーオペラではなく新しい手法だったので
若干元に戻ったのかな、と感じてしまいますが、それでも全ての音楽が素晴らしく、みどころが多いのはヴェルディならではです。
全編通して見どころ、と言ってもいいのですが、特に有名なのは以下のアリアでしょう。
<1幕>
- レオノーラがマンリーコのことを歌うアリア「穏やかな夜」
<2幕>
- アズチェーナが忌まわしい過去のことを歌うアリア「炎は燃えて」
- ルーナ伯爵がレオノーラへの愛を歌うアリア「君が微笑」
<3幕>
- マンリーコが歌う怒りのアリア「恐ろしい炎」
<4幕>
- レオノーラがマンリーコを思って歌うアリア「恋はバラ色の翼に乗って」
- マンリーコがアズチェーナを慰めて歌う二重唱「我らの山へ」
ドラマティックな歌手が担当することが多いオペラです。
特に、最初のフェルナンドのアリアと、アズチェーナのアリアは、歌詞の内容が濃く、ストーリーに関係するので、字幕もしっかり見た方が良いと思います。
また、アリア以外の音楽もドラマティックな旋律が多いので、最初から最後まで楽しめるオペラで、
非常に悲劇的な内容ですが、ヴェルディらしい音楽を満喫できるのではないでしょうか。
コメントを残す