今回は「指揮者セミナー」に行ってみました。
場所はびわ湖ホールで講師はびわ湖ホール芸術監督の沼尻竜典さんです。
びわ湖ホールとオペラ指揮者セミナー
オペラ指揮者セミナーはその名の通り指揮者のセミナーで今年で6回目とのこと。
公開セミナーなので、一般の人もチケットを買えば、セミナーの様子を見ることができます。
私は指揮者でもないし、音楽のプロでもないのですが、今回行ってみようと思ったのは他でもなく演習の曲がフンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」だったからです。
このオペラ大好きなんですよね。
オペラって良いアリアがところどころあったり、全体としてはちょっと退屈とか、いろいろあるんですけど、最初から最後までくまなく好きなオペラをあげるなら、「ノルマ」「ヘンゼルとグレーテル」「トロヴァトーレ」と思っていた時期があります。(好みはいろいろ変わっていきます笑)
そんなわけで指揮者セミナーに行ってみることにしました。
セミナーは3日間で、プロの歌手も出るし2日目以降はオーケストラもちゃんといて、ヘンゼルとグレーテルを生で聞けるというだけで私にとっては魅力的!。
しかも料金も破格の安さで1日2000円。
3日通しなら5000円!。
受講者は選ばれた5名の指揮者の方達です。
会場はソーシャルディスタンスを考えて、2席以上空けて座り、舞台のソリストたちも大きく離れてのポジション。
初日はオーケストラはいなくてピアノ2台による練習でした。
それにしても席を2人分も空けると、通常の1/3しかお客さんが入れないですよね。今回はセミナーだからそもそも観客は少ないけど、普通だったら無理ですよね。
1つ開けるだけで良いんじゃない?と思ったんですが‥。
それはさておきびわ湖ホールは思った通り、眺めは良いし素敵なホールですねえ。
観客の中には分厚い楽譜を持ってきいている人が何人かいました。音楽関係者なのでしょう。
ヘンゼルとグレーテルは難しいオペラだった
グリム童話の中にあるヘンゼルとグレーテルというお話は、子供向けのイメージがありますが、上演するのが難しいオペラなのだそうです。
オーケストラは厚いし、きちんとした歌手も必要だし、音楽も難しいからサッとできるわけじゃない、だけど子供向けのイメージがあるから値段設定が普通のオペラと一緒くらいだと高いからと売れないのだとか。
どうりで、簡易版のヘンゼルとグレーテルはあるけどちゃんとしたのはあまり日本では上演されないですよね、ドイツ圏だと毎年必ずやっているイメージなのに。
難しいオペラで初心者がやると制御不能になりやすいということで今回はかなり経験のある人が受講者として選ばれているというのもおもしろい話でした。
とはいえ受講者には21歳という若い方もいましたけど、彼は歌がない部分のみでしたね。
確かにベテランの風格の人が多かったかも。
講師の沼尻さんもちらっとおっしゃってたDVDなんですけど、このヘンゼルとグレーテルというオペラは、私はグルベローヴァがグレーテルで出ているDVDを散々見ていたんですよね。
何度も好きな部分を繰り返し聞いて(しつこい性格かも笑)。
ヘンゼル役はファスベンダーで、お父さん役がヘルマン・プライ、さらに魔女がユリナッチというすごい配役で、確か指揮がショルティだったかな。
そのDVDと比較しちゃいけないのはわかっているけど、講師の沼尻さんにあちこち注意されて音楽が良くなっていくたびに、そういえばあのDVDはそんな感じだったなあと、思い出しながら聞いていたのでした。
何気なくワクワクしながらあのDVDを見ていたけど、やっぱりあれはさすがの演奏だったのねと。あたりまえか笑。
指揮ってちゃんとコミュニケーションしてる
セミナーの形式は5人が順番に指揮をして、講師の沼尻さんが気がついたことを注意していくというやり方。
最初からストップがかかりそれはテンポに関すること。
テンポはそれで良いの?と。最初に頭の中でテンポを考えてみたら?という指導。
時々指揮台に立ってからちょっと間がある指揮者っていますけど、あれは心を集中しているんだと思っていたけどテンポを確認している場合もあるのかなと思いました。
何れにしても冒頭はテンポの指示出しは必要らしい。(そりゃそうですね)
初日ということもあってか全体に遠慮がちの指揮だったようで、最初からオケに任せるつもりなのかとか、信頼してるわけ?とか、どこまで指示するつもりなのかと結構厳しい言葉が飛んでましたけど
素人目には指揮棒の振り方をみてオケに任せるつもりとかそもそもわかるの?とそっちにびっくりしてました。笑
申し訳ないけど、素人なら指揮って必要なの?誰でもできそうって思ってる人が少なからずいると思うんですけど、実は私も以前はそう思ってました。
今回セミナーを見ててわかったのは、指揮者とオケ、歌手はめちゃくちゃコミュニケーションとってるんだなということ。もちろん一方通行になったり、無視されたりはあるみたいですけど。
特に歌手はかなり指揮を窺ってるという印象だし、指揮者もちゃんと何気なく合図を出してるのねということ。
今回指揮者の表情や指揮の振り方を前と横から写した様子が大きなスクリーンに映し出されていたので、そういうのがすごくよくわかっておもしろかったんですよね。
普通は背中しか見えませんから。
素人の私なんかでも、なんか単調だなあって感じてると沼尻さんの注意が飛んでくるんですよね。
ただ刻んでるだけだ!と。やっぱつまんないなあって感じる時はつまんないのねとこちらも再認識させてもらいました笑。
一瞬で歌手が敵になるという怖さ
怖いなって思ったのは、一瞬で歌手が敵になるよっていう言葉。
変な指揮をすると、歌手は「あーあ、あと1時間半この人と付き合わなきゃならないのか」と思う場合もあると。
やりにくいでしょうねえ。そうなると、お互いに。
時々すごく歌いやすい指揮者って言われる指揮者がいたりしますけど、やっぱりそういうのはあるわけですね。
小澤征爾さんなんかもそう言われていた気がします。
それにしても一瞬でそうなるという言葉が怖すぎ笑。
舞台でそんな攻防があったりするとは。
セミナーでは歌手やオケの人たちにも、諸処で今の指揮ぶりがどうだった?って聞くんですけど
そんな時に良く出てきていた言葉が、どこに向かっているのかわからないという指摘。あとフレーズをどう感じればいいのかということ。
その辺は意識をまとめておかなきゃいけない所なのですね。
これでいいと思っても指揮者の自己満足の時が多いというのもなんか納得。
どうしたいのかがわからないとダメということらしいけど、だからといって大げさもダメ、任せるのもダメ、出すべきところに指示をしないのもダメと
ダメダメ尽くしで私なら泣く( ; ; )
そうそう、あと難しい箇所ほどクールを装う冷静さも必要とか。でないとオケに余計力が入ってしまうからと。
まるでトラブルになった時にどんと構えてなきゃならない社長みたいな感じですよね。
指揮者って企業の社長みたいなもんかも、それも毎日顔を合わせてる社員じゃないし、数日で社長にならなきゃいけないから超難しいと思います。
アクセルとブレーキを同時に踏まないということ
アクセルとブレーキを同時に踏むなっていう言葉も何度か出ていました。
オケの人たちの頭に?マークが浮かんでしまったら、関係が悪くなる。敵にはならないにしても不信感に繋がるみたいです。
でもって「もう指揮は見ないどこ〜」ってなっちゃうと。
これって悲しい!
ちょっとした手の動きで、アクセルかと思うとブレーキを踏まれたように感じるみたいです。確かに私が見ていてもそうだなと感じる時がありました。
スクリーンで指揮者を見てるからそういうのも私なんかでもわかってくるんですよね。
だからって技巧的にやればいいかっていうとそうじゃないみたいなんです。
いやいや指揮者って大変なお仕事だと思いました。
また、オケ全員がちゃんと練習してきているとは限らないから、拍とかタイミングをちゃんと見せなきゃいけないところは見せるとか。
つまり予防も大事だよと。なるほどねえと感心。
オケの人たちの中にはクスッと笑っていた人も。練習してこない人とか、タイミング間違えちゃう人とかおそらく経験がある人、いるんでしょうね。
あちオケって暴走しちゃうことって多いらしいんですよね。
だから基本的にはあおっちゃダメで、手綱を締めることの方が多いような話もされてました。
特にオペラの場合オケがガンガンなりすぎちゃったり速くなると、歌手の声が全く聞こえなくなって口パクになるし、言葉が入らなくなる。
速度によって言葉が入らないというのは、沼尻さんは何度か気にしてあげていました(歌手の人に)。そういう気配りも指揮者はしなきゃいけないわけです。
ただ、それってあるよねえーと、私なんかもみていてよく思います。歌手が歌ってるみたいだけど聞こえないなあ、いいのかなあってちょいちょい思いますもん。
まあワーグナーとかは仕方ないのかもしれないけど。
以前バーリ歌劇場だったかなの公演を見た時に、やり慣れてる感を感じたのはそういうところもあって、歌手の声がどのシーンでもちょうどいい感じで聞こえてくるなあって感じたんですよね。
何度もやっているあうんの呼吸なのかなとその時は思ってましたけど。
手綱の引き締め方が絶妙だったということなのかなと思いました。
どう押さえるかっていうのは一つの腕の見せ所みたいです。
また、オペラの場合ピットに入るので、指揮者を横から見る演奏者の方が多いというのもなるほどな感じで、要するに横からでもわかるように指揮をしなさいってことらしいです。
聞けば聞くほど指揮って大変でしょ!
棒を振らずに指揮をしてみる
5人の受講者の中には指揮棒を持つ人と持たない人がいましたけど、
講師の沼尻さんから手を使わずに指揮をしてみたら?という無謀な注文が出た時はさすがにおどろき。
ところが本人の沼尻さんがまずやって見せるんですけど、ちゃんとできるんですよね。
顔の表情とか動きとか、体のちょっとした動かし方とか、そういうのを見てると確かにこうしたいのかなっていうのは私なんかにも伝わってくるのです。
オケもちゃんとそれに合わせて強弱、緩急でてましたし。
特にヘンゼルとグレーテルのお母さんのシーン、貧乏で食べ物がなく疲れたお母さん、スーパーの前で倒れそうになるイメージを体で表現した時はさすがに笑いそうになりましたけど
雰囲気はすごく伝わってきました。
講師の沼尻さんっていう人は、音楽のためにはなりふり構わずっていうのかなあ、こういう風にしたいっていうのを全身で表してるんですよね。
でもって、受講生の方達にも何度か殻を破ってごらん!っていうこと
をおっしゃってましたけど、結局指揮者って格好つけても仕方ないし、技巧に走っても意味ないし、人によって表現方法は色々だとは思うけど
一度なりふり構わず自分を出し切っちゃうくらいのことができなきゃ、たくさんの演者さんやオケの人たちの心をつかむのは難しいのかなあとちょっと思いました。
受講者の方達も手を使わずに頑張ってやってましたけど、それなりに伝わってくるものがあって、それはそれでちょっとすごいなと思いました。
でもあれって恥ずかしいって普通思っちゃうだろうなあ。殻を破るって大事だと思うけど難しそう。
長くなってしまったので今回はここまで。
次回は棒の振り方の癖(びわ湖ホール指揮者セミナー2日目)はこちら。
3日目成果発表(びわ湖ホール指揮者セミナー最終日)はこちら。
それにしても、改めてヘンゼルとグレーテルは音楽がいいです。全部いいけど今回改めていいと思ったのは、眠りの精のあたり。聞けば聞くほどいい部分だなと。
当サイトオペラディーヴァの「ヘンゼルとグレーテル」もよければどうぞ!
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