オペラのカーテンコール・かつてはサクラや喝采屋がいた

オペラやオペレッタ、ミュージカルにはかならずカーテンコールというものがあります。

一幕の終わりや、全てが終わった時に、歌手や演出家、指揮者などが拍手・喝采を浴びる時で、

観る方にとっても、オペラの醍醐味のひとつで私も好きな一時です。

 

オペラのカーテンコール

 

カーテン(幕)の種類

歴史のあるオペラ劇場のカーテンは、もともとは中央から分かれていて、両側の上部に、上がる形式がほとんどでした。

赤いカーテンが両側に上がっていったり、下がっていく様子は、いかにもオペラという感じで、良いものです。

新しい劇場や、小規模の劇場などは、

普通の家のカーテンのように、真横にに開かれるものや、

シャッターのように上から下に降りてくるカーテンもあります。

多目的ホールの場合は、上から降りてくる形式が多いように思います。

 

カーテンコールのやり方

 

両サイドに開く挽き割り型の、カーテンの場合は、中央部分で、右と左のカーテンが少し重なっています。

カーテンコールの際は、その重なりのところからソリストたちが出てきます

主な、カーテンコールのやり方としては、

  • カーテンの中央の重なり部分から、ソリストたちが出て、並んで拍手を受ける。
  • 一人ずつ出てきて拍手を受ける。
  • カーテンが全部開いて、出演者全員が拍手を受ける。

大まかにいうとこんな感じでしょうか。

公演によっては、指揮者も呼ばれて壇上に上がったり、

また演出家たちも挨拶に出てきたりします。

やり方に決まりはなく、公演により違います。

 

公演が良かった時は、カーテンコールも長く続きますし、

そうでもない時は、比較的あっさり終わったりとそこらへんはその日の公演の内容によります。

観客の感想が、カーテンコールの長さや拍手の大きさで、表れるところで出演者の人たちも公演ごとに受け取る感じが多分ちがうでしょうね。

見ていても今日は違うなとか、そういうのは感じますから。

自分がどう思ったかが一番ですけど。

 

さてカーテンが挽き割り式の場合は、中央からソリストたちが出たり入ったりしますが

カーテンが上から降りてくるような劇場の場合は、

カーテンを全て開けて出演者全員が出て、

拍手を受ける、アンサンブル・カーテンコールというやり方になる時もあります。

この場合は、合唱隊など、大勢は最初から出ていて

ソリストは、順番に舞台袖から現れて、拍手を受けて、そのまま舞台に並ぶ、

という感じで、

拍手が長く続くと、全員でのカーテンコールと、一歩前に出てソリストに個別のカーテンコール、

というのが繰り返される、というのが、大半のやり方ではないかと思います。

 

また、オペレッタのカーテンコールの場合は、オーケストラが音楽をつけてくれる時があります。

オッフェンバックのオペレッタ「天国と地獄」などは、カーテンコールで、よくそうなるのですが、

拍手が続くと、オーケストラが、サビの部分の音楽をやってくれて、

出演者たちが踊り出し観客が手拍子をするというもの。

これを何回かやってくれる時があります。

 

これはオペレッタのカーテンコールの特徴で、こういうのが私はウキウキして好きなんですよね。

全てのオペレッタに該当するわけではないのですが、

盛り上がるカーテンコールになります。

オペレッタのおすすめ作品

 

カーテンコールのタイミング

 

基本的には、全部が終わった時に、カーテンコールとなりますが、

オペラの場合、1幕終わった時にカーテンコールとなる時もあります。

その幕の主要なソリストだけが、幕の中央から出てきて拍手、となります。

これは、公演により、ある場合とない場合がありますが、

死んでしまう役でその幕しか出番がないような時に、その幕の終わりでカーテンコールを受けていたことがありました。

いずれにしても、カーテンコールは、やはり全てが終わってからがほとんどです。

 

あるオペラでは、いったん降りたカーテンが、すぐにまた上げられると、

最後のシーンのままのポーズで出演者たちが止まっている、という時がありました。

ちょっと劇的な終わり方をするようなオペラの場合は、

効果的な演出だなと思ったことがあります。

 

これはカーテンコールではありませんが、カーテンをうまく使っていると感じたものです。

 

 

拍手とブーイング

 

カーテンコールの際は、必ず拍手だけが起きるとは限りません。

日本の場合は、ほとんどが好意的な拍手なのですが

オペラの歴史が古いヨーロッパでは、拍手に混ざって、ブーイングが飛ぶこともあります。

スカラ座のブーイング

確かに、いろんなオペラを見ていると、言いようもなく感動する時と、そうでもない時があります。

感動の仕方も、全体として感動する時もあるし、歌手に感動する時もあります。

一方、いまいちだなと感じる時も確かにあります。

 

そして、感動した歌手と、そうでない歌手がいたとしたら、

やっぱり感動した歌手に、より大きな拍手を送りたくなってしまうのは、自然の感情ではないかと思います。

ただ、面白いのは、だいたい観客が感じることは、同じような感じらしく、

カーテンコールで、大きな拍手を送りたくなってしまう時は、

大抵、会場全体が拍手喝采の渦になっている時、が多いものです。

 

不思議なのは、歌がうまいからといって、必ず感動するかというとそういうわけでもなく

なぜかわからないけど、とても感動する時があります。

それは、やっぱり演技とか、一生懸命さとか、その人から出る、魅力なのではないかなと思いますね。

それがまたオペラの醍醐味でもあり、カーテンコールの楽しいところです。

 

演出家

 

カーテンコールでは、主に歌手が出てくるのですが、

指揮者や、合唱指揮者、そして演出家や、衣装担当者など、が出てくる時もあります。

オーケストラの指揮者はわかるのですが、それ以外の裏方の人が出てくると

この人誰?教えて、と思う時も、あります。

舞台の人たちはわかっているけど、見ている一般の人はわからない。

あれってどうなのかなと思いますけど、司会が紹介するのも変だし、

名札をつけるのも変だし、まあ仕方ないところなのでしょうね。

 

さて、上演が終わってからのブーイングで、意外に多いのは、演出に対するブーイングではないかと思います。

オペラは、演出家によって、いろんな解釈が生まれます。

古い時代の話だと思っていたら、現代に読み替えての設定になっている、というようなこともあります。

例えばワーグナー作曲の、ニーベルングの指輪という、楽劇と呼ばれるオペラの場合

神話の世界の話が、元になっているのですが、それを現代に読み替える演出もあります。

ワーグナーのオペラ

出演者が、現代風のスーツを来ていたり、または、未来の服?と思えるような衣装だったりするんですね。

そんな、新しい演出の場合、必ず拍手と同時にブーイングが起きるものです。

 

また、ヴェルディの椿姫は19世紀のパリの話なので、

豪華な雰囲気と豪華な衣装にする演出が多いのですが、

現代の女性に置き換える演出もあったりするわけです。

 

そうすると、人によっては、特に保守的な人は、それが好みに合わないんだと思うんですよね。

確かに、好みっていうのはありますから仕方ないのだと思うのですが。

それがカーテンコールの際の、演出に対するブーイングになるわけです。

ヴェルディ椿姫の見どころ

新しいことをやると、必ず拒否反応をする人が出るのは、オペラに限らず世の常だと思うのですが、

演出は見た目ではっきりとわかる分、演出家も評価が分かれて、大変だと思います。

でも良かれ悪しかれ話題になることは、悪くないんじゃないかなと、

私なんかは思ってしまいますね。

 

クラックと呼ばれた集団

 

オペラが盛んなヨーロッパでは、かつてクラックと呼ばれる、オペラの成功を、意図的に左右する集団がいました。

クラック(仏:claque、「拍手する」という意味の動詞claquerより)は、「サクラ」あるいは「喝采屋集団、すなわち演劇・オペラなどの舞台芸術において、特定の公演を成功(時には失敗)に導く目的で客席から賛辞(や野次)を送る集団のことである。ほとんどの場合、興行主、劇作者、作曲者、俳優あるいは歌手からの金銭受領を対価とするプロ集団だった。

(ウィキペディアより)

 

19世紀のフランスでは、グランドオペラという豪華なオペラが流行しました。

オペラにはアリアがつきものですが、アリアが終わった時に絶妙なタイミングでブラボーが入ると、

「ああ、この人うまいんだな」と思うのではないでしょうか。

それをやるプロ集団がいたんですね。

なんとなく、歌舞伎の大向こうからかける

「成田屋!」とか「音羽屋!」など

とかける掛け声をちょっと思いだしてしまいます。

オペラの世界にもかつて、そんな掛け声を絶妙にかけたり、結果の良し悪しに限らず、拍手を助長、促すような、仕掛けのプロ集団がいたんですね。

アリアというのは、余韻があるうちにブラボーを言うと早すぎるし、

ちょうど良い感じで、ブラボーをかけるのは意外に難しいと思いますが、ああいうのがうまかったのでしょうね。

 

グランドオペラは、とにかく費用がかかりますから、おそらく失敗は困るという経済的な、

劇場側の意図もあったと思います。

クラック集団は、拍手をしたり、花を用意したり、アンコールやカーテンコールの要求など

そういうことをオペラ座から雇われて、組織的にやっていたと言われています。

 

そして、それが重要な役割だったことは、組織の長が、高額所得者だったということからもわかるのです。

オペラの公演を成功させるためには、そんな操作も必要だったのは、なんとなくわかる気がします。

ただ、クラック達は、拍手など、比較的良いことだけをしていたわけではなく

時には、公演が失敗するような工作もしていたと言いますから、その影響力は怖いものがあります。

パリのオペラ座では、バレエは2幕か3幕に入るというのが、常になっていたのですが、

オペラの内容が損なわれるとして、そのやり方を拒んだワーグナーの公演において、

クラックのひどい邪魔が入ったというようなこともあったのです。

また、クラック集団は時代とともにまた、場所によってもいろいろで、歌手が事前にお金を渡して、自分のアリアが無事に終わるようにしていたとか、

大きな拍手をお願いしていたとか、

なんとも大変だったのだなと思います。

 

現在ではお金で雇われているクラックは、ほとんどいないと思うのですが、

ただ、熱狂的なオペラファンというのはどこにでもいて、

似たような席で、同じようなオペラをみにいくものなので、

おそらく、顔見知りで、仲間的な集まりは、各地であっても不思議ではないように思います。

何れにしても、カーテンコールは、観客の反応がもっともわかる瞬間だと思いますから、

悪意のないような、自然な拍手や、スタンディングオベーション、ブラボーなど、をしたいですね。

 

 

今から20年位前までは、日本でもカーテンコールの際に、お気に入りの歌手が出て来たら花を投げる

ということが行われていました。

ところが今はそれはやりません。

確か、花が歌手に当たって怪我をしたことがあったので、そういうことが理由かもしれません。

花を投げる風習は確かに危ないかもしれませんが、今はないのがちょっと寂しい気もします。

また、かつては、カーテンコールの際は、急いで1階席の前の方まで走り降りて

歌手たちを間近にみて、拍手を送ったりもしましたが

現在は、年を重ねてしまったので、走り降りることもなくなりました。

でも、それくらいカーテンコールは楽しい時間だと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です