オペラの世界にシュトラウスと名前が付く人は二人います。
一人はウィンナーワルツで有名なヨハン・シュトラウス。
ヨハン・シュトラウスはオペレッタ「こうもり」が有名です。
美しく青きドナウを作曲した人でもあります。こっちの方が有名ですね。
そしてもう一人のシュトラウスは
リヒャルト・シュトラウス。
今回書くのはこちらのシュトラウスです。
リヒャルト・シュトラウスは作品が多いので、
音楽が好きな人なら知らない人はいないと思うのですが、
実は私は、オペラを見るまでリヒャルト・シュトラウスの存在を知りませんでした。
初めてリヒャルト・シュトラウスを聴いたのは彼のオペラ「ばらの騎士」でした。
正直言って最初は難しかったです。
ワーグナーのオペラを初めて聞いた時と似たような印象でした。
その頃の私は、はっきりとアリアが独立しているロッシーニやモーツァルトのようなオペラが聞きやすかったんですよね。
ところが、このばらの騎士が、今では最も好きなオペラの一つになっています。
「ばらの騎士」の成立と特徴
オペラ「ばらの騎士」の成立
- 初演:1911年
- 原語:ドイツ語
- ドレスデン宮廷歌劇場
初演の時はなんと「ばらの騎士」を観るための臨時列車が出たのだそうです。
当時のリヒャルト・シュトラウスが人気の度合いがわかりますよね。
またオペラがどれだけ人々に注目されていたのか、というのもわかる気がします。
さて、オペラの題名の「バラの騎士」というのは何かと言うと、結婚の際に花嫁の家に「お嬢さんをください」と言いに行く仲人のような役で、
若い男性が相手の家に銀のバラを持って行くんですね。
でもこれはこのオペラだけのお話です。
最初、オペラばらの騎士を見た時、ヨーロッパではそういう風習があるのかと思ったのですが、そういうわけではないのです。
あくまで劇中のお話です。
舞台がウィーンの貴族の恋愛で、厳かに箱に入った銀のバラを正装した男性が持ってくるので
まるで本当にあったならわしのように見えるんですよね。
そう見せてしまうのもこのオペラのすごいところですが。
リヒャルト・シュトラウスという作曲家は、マーラーと友人でワーグナーが大好き、イタリアオペラが嫌いという人だったのですが、
シュトラウスはワーグナーのことが好きだったというだけあって、その音楽はワーグナーを思わせるところがあります。
でもこのオペラの見た目は、舞台や設定や衣装などが、モーツァルトのオペラのようでもあります。
シュトラウス自身、モーツァルトのようなオペラを目指したと言っているのですが、
それはばらの騎士に限ったことで、彼のその他のオペラは全く違います。
前衛的で激しいオペラなんですね。
リシャルト・シュトラウスはエレクトラというオペラも作っているのですが、それなんかは恨みしかないような怖いオペラです。
シュトラウスの中では、ばらの騎士だけがどちらかというと特殊で、ロココ調で昔風のオペラと言われています。
その特殊なばらの騎士が、後世では彼のオペラの中で最も人気のあるオペラになっているんですよね。
本当はどちらのタイプのオペラを作りたかったのかなと時々思うんですよね。
たくさん作ったのは前衛的なオペラだったけど
シュトラウスは亡くなる時、ばらの騎士の3幕の音楽を流してほしいと頼んでいるんですね。
ちなみに前衛的と言われるその他のオペラも、やはりリヒャルト・シュトラウスの音楽なので、
ストーリーは怖いけど私はそれほど大きな差や違和感をを感じないのが正直な印象なのですが‥。
ところどころにばらの騎士のような優美な旋律が出てきますから。
ただ、舞台とか設定とかそういうのは全く異なりますね。
オペラ「サロメ」などは生首を持って、サロメが踊ったりしていますから、おどろおどろした設定です。
ばらの騎士の特徴
ばらの騎士は3時間20分という長いオペラです。
休憩を入れると4時間半、
終わった後の拍手を入れるとさらに、かかってしまうんですね。
オペラって本当に長い。
だから敬遠されてしまうんでしょうか。
でも好きなオペラだと時間の長さを感じないから不思議なんです。
ちなみに私の頭の中では
- ワーグナー、
- マーラー
- リヒャルト・シュトラウス
と言うのは、似たような部類になっていて、好きな作曲家グループなんですね。
似ていないけど似てる、同じような分類です。
音楽が途切れなくうねるように、感動的に進んでいくという感じでしょうか。
同じく情熱的で感動的ですが、イタリアのヴェルディの音楽とはまた別のグループなんですよね。
さて、ばらの騎士の特徴は
- 上演時間が長い
- 音楽的に難解
- 1〜3幕の舞台が全く異なるのでセットが大変
- 歌手の歌唱、個性、演技ともに難度が高い
- テノールがいない珍しいオペラ(ちょい役ではあり)
- 単独のアリアが少なく重唱が多い
といったところでしょうか。
いかに、水準の高い上演をするのが難しいかということなんですね。
そのためか日本で上演されるようになったのは他のオペラに比べ遅かったと思います。
それでも日本でも人気が出てきたのか、最近は少しだけ上演が多くなってきました。嬉しいことです。
ストーリーが日本人好みだし、もっともっと人気が出てもいい演目だと思うのですが、
やはり上演時間の長さはネックでしょうね。
ばらの騎士の魅力とは
ストーリーの魅力
オペラ・バラの騎士にはズボン役と言って女性が男性をやる役がでてくるんですね。
ばらの騎士役のオクタヴィアン、がその役なのですが、このオペラの花形はやっぱりオクタヴィアンだと思います。
ゾフィーに一目惚れしたオクタヴィアンは、セクハラ男のオックス男爵からゾフィーを守るというヒーローのような存在なんですね。
日本には宝塚歌劇団がありますが、宝塚のトップスターといえば、男役です。
あの人気は昔も今もすごいものです。ファンクラブは熱いですよね。
なぜ女性が男性役をやると人気があるかというと、男性のいいとこ取りだからだと思うんです。
むさくるしくなく、見た目が美しいし、かっこいい。
紳士的で勇敢で、女性を守ってくれる王子様のような存在。
悪いところが一つも無いわけです。
そんな男性、普通はいませんよね。
ばらの騎士のオクタヴィアンはまさにそんな王子様の役どころです。
テレビも映画もなかった時代に、このオペラを見た女性たちは、このストーリーにうっとりしたんじゃないかと思うんですよね。
ワーグナーのオペラでいうと、ローエングリンも少し似たところがあるストーリーで、
女性に人気があるのと同様だと思います。
そしてオクタヴィアンにやっつけられるオックス男爵という役は
肩書きとお金が大好きな、にわか成金のような男で
粗野で下品で見ていてその一言一言がとてもイラっとする嫌なやつなんですね。
それをオクタヴィアンがやっつけるので、非常にスカッとするストーリーなわけです。
よくぞやってくれた、という感じですね。いやホントおもしろいお話です。
また、オクタヴィアンの元恋人である公爵夫人(元帥夫人)は
下品なオックス男爵が足元にも及ばないような高貴な女性で、これがまた優雅。
喋り方(歌い方)から立ち居振る舞いまで全てに品がある夫人です。
オペラの冒頭はこの元帥夫人とオクタヴィアンのベッドシーンから始まるのですが(つまり今でいう不倫ですね)
決して嫌な女、としては描かれていないのです。
最終的には若いゾフィーに一目惚れしたオクタヴィアンのために身を引くという奥ゆかしさもあり、
いい感じで終わります。
という感じでばらの騎士の魅力はストーリーのおもしろさも大きいと思いますね。
一方、その分歌手に求められるものは大きいのではないでしょうか。
できればオクタヴィアンは見た目が美しく、男らしく、若々しく、凛々しく血気盛んで歌と演技が上手い人。
元帥夫人はとにかく品があること。見た目も歌も。
オックス男爵は歌がうまく嫌な男を演じる演技力。
ゾフィーにはとにかく初々しさ。
中でも公爵夫人の役はオペラ歌手の最高目標とも言われます。
滲み出る品って難しいですよね。
見た目は良くても、歌い方がなんとなく品が無いっていう場合もあったりするんです。
音楽の魅力
オペラ・ばらの騎士は最初から最後まで優雅で耽美、そして時に官能的な陶酔のオペラです。
前奏曲から甘美の渦で、その流れで冒頭の元帥夫人の豪華な部屋のベッドシーンから始まるんですね。
1幕の聴きどころは
元帥夫人が時の流れを憂うるモノローグのアリア。
2幕では、お互いに一目惚れとなるオクタヴィアンとゾフィーの二重唱
「地上のものとは思えぬ薔薇」のところ。キラキラした音楽です。
同じく若い二人の愛の二重唱「溢れるばかりの涙」
3幕は居酒屋シーンで、歌よりもほとんど喜劇のような感じで楽しむ場面が多いのですが、
最後にオクタヴィアンと、元恋人の元帥夫人、新しい恋人ゾフィーの3人で歌う三重唱があります。
この三重唱が歌の中では最も聴きどころではないかと思います。
リヒャルト・シュトラウスが自分の葬儀で流してくれと頼んだのはこの三重唱の部分ですね。
ちなみに実際にシュトラウスが亡くなった時、ショルティという指揮者がこれを演奏しています。
(ショルティは椿姫で有名になったソプラノ歌手ゲオルギューを見出した指揮者です。)
カルロス・クライバーとばらの騎士
シュトラウスのバラの騎士を語る時に、切っても切れないのはカルロス・クライバーの存在ではないでしょうか。
カルロス・クライバーはカリスマ的な指揮者でしたが、残念ながらすでに亡くなっています。
指揮をする回数が少ないのに、指揮をすると伝説的な演奏になったので、
まさにカリスマ指揮者だったんですね。
私がシュトラウスのばらの騎士の虜になったのもこのクライバーの指揮の映像です。
バイエルン国立歌劇場のライズ映像で
- 元帥夫人:ギネス・ジョーンズ
- オクタヴィアン:ブリギッテ・ファスベンダー
- ゾフィー:ルチア・ポップ
でした。
通常、指揮者はそれほど映らないのですが、クライバーだったからなのか、この映像VTRではかなり指揮の様子が映っています。
ライブ映像だったので、その流麗な指揮ぶりとそれに答える活き活きとしたオーケストラ、
終演後の出演者全員とクライバーの喜ぶ様子も映っていて、感動が伝わってくる素晴らしい映像なのです。
このカルロス・クライバーは指揮の回数が少なかったにもかかわらず、日本でもこのばらの騎士を指揮しているんですね。
1994年のことです。
私はこの時はまだオペラに未熟で、見逃してしまいました。
本当に残念なことをしたと、今でも思います。一目クライバーを見たかったなと。
伝説的なオペラを見損なったと言う気持ちです。
こういうことがあったので、オペラって見逃したくないって思う気持ちが強くなったかもしれないですね。
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