今回はドン・パスクアーレというオペラ・ブッファについて書いてみたいと思います。
作曲したのはドニゼッティというイタリアの作曲家。
ブッファというのは喜劇的なオペラのことを言います。
ブッファなので確かに内容的には笑えるのですが、私の感想としては正直なところドン・パスクアーレが気の毒すぎて笑えない感じもするオペラです。
オペラって自分が見た時に演じていた人によって好き嫌いができてしまう時があると思うのですが、
このオペラを見たときがそうで、実はノリーナの声があまり好きな声質じゃなかったので、
うーん、なんかねえ、と思ったものです。
でもあらすじはおもしろいし、19世紀のブッファの傑作の一つになっているんですよね。
確かに言われてみればこの後のオペラにはこういうタイプのブッファって無いなあと気付いたのも確かです。
そんなわけでこのオペラの見どころ、その特徴はなんなのかを考えてみました。
ドン・パスクワーレとドニゼッティ
- 作曲:ドニゼッティ
- 初演:1843年
- 場所:イタリア座(パリ)
ドン・パスクアーレはドニゼッティが作曲したのですが
ドニゼッティというと日本ではランメルモールのルチア、中でもルチアの狂乱の場が有名なので
切なく美しいメロディのオペラというイメージが強いかもしれませんが、
ドニゼッティって明るいブッファ作品もたくさん作っているんですよね。
日本ではなぜランメルモールのルチアが有名なのかなと思うと
これって佐藤美枝子さんがチャイコフスキーコンクールで優勝した頃から?とちょっと思うのですがどうなのかな。
あのとき、日本人でルチアをそんなにうまく歌える人がいるんだ!?と私は驚いたものですが
今ではランメルモールのルチアの公演をしばしば見かけるので
あれ?、歌える人が実はいっぱいいたの?と思ったりしています。
それだけ日本のレベルが上がったっていうことでしょう。
さて、それはさておきドニゼッティという人は非常に筆が早いことでも有名でした。
つまり作曲するのが早いということです。
一年に2曲は当たり前、多いときは4曲も書いていたというすごい人なのです。
オペラってそんなにチャカチャカと書けちゃうもんなのでしょうかね。
その中でドン・パスクワーレは後期のブッファ作品です。
初演はドニゼッティが45歳のときで
まだ若いといえば若いけど50歳で亡くなっているので後期になってしまうんですね。
ドニゼッティは悲劇のヒロインだけを書くのがうまいわけではなく、ブッファもたくさん作曲していて
かくいう私はドニゼッティのオペラの中で最初に見たのが「愛の妙薬」
そして次に好きになったのが「連帯の娘」だったので、ドニゼッティ=楽しいオペラ
というイメージの方がどうしても強いです。
なので、楽しい方の公演をもっとやってくれないかなと常々思っています。
ドン・パスクアーレもあまり上演されないですね。
このドン・パスクアーレはロッシーニのセビリアの理髪師と並べられたりしますが、確かに両者はちょっとタイプが似た感じのブッファです。
そしてこういうタイプのブッファはこの後無いといえば無いかも‥。
その後のドニゼッティはグランドオペラとかまじめ系のオペラを作っているし、
ヴェルディはブッファの作曲家とは言い難いし。
ヴェルディの最後のオペラ「ファルスタッフ」を最後のブッファと呼んだりもしますが
ヴェルディのファルスタッフはずいぶん重厚で、気軽に見られるオペラとはちょっと違います。
つまりタイプが違うというか。
ヴェルディのブッファはロッシーニや今回のドン・パスクアーレとは違うので、
ドン・パスクアーレがロッシーニに代表されるようなブッファとしては最後ということなのだと思っています。
なぜパリのイタリア劇場なのか
ドン・パスクアーレの初演はパリのイタリア劇場です。
当時のパリには現在のガルニエ宮と呼ばれるオペラ座の前身のパリ・オペラ座の他
オペラコミック座、それにイタリア劇場が主としてあったと思います。
リリック劇場はまだできていなかったかと。
パリ・オペラ座は新興資本家が出資し楽しむ豪華なオペラが主で
コミック座はセリフがあるオペラコミックが主。
そして純粋なイタリアオペラを好む人はパリのイタリア劇場に通っていたようです。
そもそもドニゼッティってイタリアの特にナポリで活躍していたのですが、
いろいろごちゃごちゃもありパリに活動の場所を移すんですよね。
そのきっかけとなったのがポリウートというオペラ。
ナポリの検閲に引っかかったのがきっかけだったと言われています。
それが1839年。でもってその翌年パリでさっそく「連帯の娘」という楽しいオペラを発表しています。(このオペラはとても楽しいのですごくおすすめ)
連帯の娘はセリフ入りのオペラで初演場所はオペラ・コミーク座でした。
というかドニゼッティがオペラ・コミーク座の形式に合わせて書いたということでしょうね。
ドン・パスクアーレはセリフではなくレチタティーヴォになっているし、グランドオペラ形式でもなくイタリアブッファらしいオペラです。
なので当時のイタリア劇場のイメージにぴったりだったということかなと思います。
とはいえドニゼッティが初めてイタリア劇場のために作曲したというわけでもなく、実は遡る8年前にも
「マリン・ファリエーロ」というオペラをイタリア劇場で初演しているんですよね。
1835年のことです。
この1835年の同じ年には同じイタリア劇場で
ベッリーニの清教徒というオペラが初演されているんですよね。
なんかごちゃごちゃ書いて自分でも分かりにくいんと思うんですけど、とにかく
同じ年にパリのイタリア劇場でベッリーニとドニゼッティの初演があったのね、ホオー!っと私なんかは思っちゃうのです。
しかも同じ年の1月と3月という近さ。
この上演演目を見るだけでイタリア劇場がいかにイタリアらしいオペラの上演を目指していたんだなというのがわかる気がします。
それにしてもドニゼッティという人の初演場所を見ていくとイタリアのスカラ座をはじめ
ナポリのサンカルロ劇場、ローマ、ヴェネチア、ウィーン、そしてパリでも大活躍と
当時いかに引っ張りだこだったのかがわかります。
現在上演され続けている作品の数もとても多いし、まさにオペラの天才作曲家だったのだと思います。
まだ見ていないオペラがたくさんあるので、これからも楽しみな作曲家でもあります。
上演時間と簡単あらすじと見どころ
上演時間
- 序曲:6分
- 第一幕:約35分
- 第二幕:約30分
- 第三幕:約40分
正味二時間弱。そんなに長くないオペラですね。
各幕が短い上に、第一場、二場と場面も変わっていくので飽きないしあっという間に終わる感じではないかと思います。
気楽に見たいときにおすすめですね。
簡単あらすじ
登場人物は少なめです。
タイトルロールになっているドン・パスクアーレは裕福な独身老人。
ドン・パスクアーレは、当初は甥のエルネストに財産を譲ろうとしていたのですが、
勧める縁談をエルネストが拒んだため、
だったら財産はやらない、自分が結婚して子供を作る!となります。
エルネストは他に好きな人がいたんですね。それがノリーナ。
そこでノリーナの兄マラテスタは二人の為に一計を案じます。
ノリーナとドン・パスクアーレをまずは結婚させて
その後ノリーナを悪妻に変貌させて離婚にもっていき、改めて二人の結婚を認めさせ、財産ももらうという筋書き。
ノリーナが実は甥のエルネストの恋人とは知らず、パスクアーレは完全に騙されてしまうわけですが、最後はまあいいかとハッピーエンドのあらすじです。
見どころ
若い二人の恋を実らせるためとはいえ、結果としてノリーナは3度も結婚をするわけでそれってあり?と思ったり
妹のためとはいえ財産をもらえるように策略を立てるところは、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」を思わせる狡猾さも感じる話。
ドン・パスクアーレが気の毒すぎてひどいなあと思っちゃいます。
中でもノリーナは修道院を出たばかりのウブな女性を演じたあと豹変するので、悪女ですよねえ。
でもそのあたりの変わりぶりがおもしろいところで見どころだと思います。
ノリーナは歌う場面も多く声を張り上げるところが多いので、個人的には好きな声質の歌手に歌ってもらいたいです。
でないとオペラって声を張り上げるやつだよねって揶揄されるのはこういうオペラを見て思っちゃうのではないかなとつい思っちゃうんですよね。
あと、あまりに悪女に見えちゃうとやっぱり見ていても後味が悪いので、
ちゃっかりしているけどどこか憎めないノリーナ、そんなノリーナだったらいいなとそこも見どころかなと。
つまり楽しいけどノリーナってそういう意味で難しい役だと思うんですよね。
またドン・パスクアーレがノリーナにワクワクしたり、困惑したりするのも見どころです。
バスが歌うというブッファならではの低い声が主役のパターンなので、ドン・パスクアーレの演技も見どころですね。
あと一つこのオペラはレチタティーヴォがオーケストラ伴奏になっているのも見どころ聴きどころになっています。
レチタティーヴォはチェンバロとかチェロなど簡単な楽器だけが伴奏するパターンが主流だったのに
オーケストラ伴奏になるという進化が見られる演目なんですね。
そこにも注目してきいてもらいたいオペラです。
いずれにしても気軽に見られるオペラブッファなので、ドニゼッティの楽しくて美しい音楽とかわいそうなドン・パスクアーレをぜひ一度見て聴いてもらいたいですね。
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