ファルスタッフ・ヴェルディのオペラ

ファルスタッフは、ヴェルディが79歳の時に作曲した、最後のオペラで、コメディア・リリカ(叙情的喜劇)と呼ばれます。

ヴェルディの生涯で、二つ目の喜劇でもあります。

ヴェルディの中でも、もっとも音楽とドラマが融合したオペラで

フィナーレの大フーガは見どころです。

 

成立と初演

 

ヴェルディは悲劇のオペラが多いのですが、ファルスタッフは数少ない喜劇オペラです。

  • 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
  • 初演:1893年
  • 場所:ミラノ スカラ座

 

最初の喜劇作品

 

ヴェルディは、生涯で30近いオペラを手がけましたが、そのほとんどが悲劇的ストーリーです。

ヴェルディは喜劇は苦手、書けないとも言われていましたが、ヴェルディ自身としては最後に手がけるくらいですから

必ずしも喜劇的作品を作りたくなかったわけでは、なかったでしょう。

 

長らく作らなかった理由の一つは、最初の喜劇が失敗に終わってしまったことと、

悲劇的な内容が好まれる社会的背景があったのではないでしょうか。

ロッシーニの時代に比べると、ヴェルディ以降の時代は、ヴェリズもオペラも出てきますし、悲劇的なオペラが多く見受けられます。

 

ヴェルディの最初の喜劇作品は、アン・ジョルノ・ディ・レグノ(1日だけの王様)という2幕もののオペラでした。

  • 初演は1840年
  • 場所:スカラ座

ヴェルディが28歳の時のオペラ作品です。

このオペラが失敗した理由としては、ヴェルディ自身が非常に不幸な状況だったこと、

二人の子供が続けて亡くなり、さらに妻も亡くす、という時期であったことが最も大きかったようです。

この時期のヴェルディは創作意欲を完全に失っていた時期でした。

 

加えて、物理的なことでいうと、このオペラを上演するには、スカラ座は大きすぎた

とも言われています。

 

いずれにしても、初演のあと、残りのスケジュールが全てキャンセルになったと言いますから、かなりの失敗であったことは事実でしょう。

 

シェークスピアの作品

そんなヴェルディが最後に選んだのが、2度目の喜劇オペラ、ファルスタッフでした。

ファルスタッフは、シェークスピア

  • ヘンリ−4世
  • ウィンザーの陽気な女房達

に登場するキャラクターで、太った体で、大食いで、ずるくて、お調子者の性格。

一幕でファルスタッフが言う「名誉がなんだ!」という言葉は、かっこいい意味ではなく、

「名誉で、お腹はふくれない」という、

現実的な彼の性格を表す言葉です。

 

他の多くの作曲家同様、ヴェルディがシェークスピアに寄せる思いも強かったようで、

マクベス→オテロ→ファルスタッフ

と、ヴェルディは、生涯で3つのシェークスピア作品をオペラにしています。

 

ボーイトの台本

 

オペラが成功するためには、台本が非常に重要であることは、歴代のヒット作を見れば明らかなところです。

ヴェルディのオペラの中で、もっとも多くの台本を担当したのは

イタリア出身のピアーヴェという作家でした。

 

リゴレット椿姫など現在の人気作品を始めとする多くの台本を、ヴェルディに提供しています。

ピアーヴェは、誠実にヴェルディを支えていたようで、

二人の信頼関係、(主従関係かもしれませんが)は深かったようです。

ところがピアーヴェは、運命の力の上演を最後に、1867年に倒れてしまっています。

 

仕方なくその後、ヴェルディは、アッリーゴ・ボーイトと組んで、オテロとファルスタッフを作り上げているんですね。

実は、ボーイトとヴェルディは、実は最初から、友好関係にあったわけではありませんでした。

 

関係を修復できたのは、楽譜会社リコルディ社の進言、そしてシモン・ボッカネラ復活がありました。

シモン・ボッカネラというオペラは、現在でこそ上演される機会が増えていますが、

1857年の初演が失敗して以来、1881年に復活するまで、なんと24年間も眠っていたオペラだったのです。

そのシモン・ボッカネラの台本を改定し、現在のような人気オペラの一つになったのは、ボーイトの改定のおかげだったと言います。

 

初演とその後

 

すでに巨匠になっていたヴェルディの、6年ぶりの最新作ということで、

ファルスタッフの初演は、当時非常に話題になったようです。

 

チケットの公式の値段は通常の数倍にもなったと言います。

そしてミラノスカラ座での初演は大成功し、拍手は1時間止まないほどでした。

ところが、

その後は、ファルスタッフは急速に、人気が衰えていったのです。

 

原因は、伝統的なヴェルディらしいアリアがなく、コーラスも少なかったからと言われています。

若き指揮者トスカニーニは、ファルスタッフの音楽性を理解し、上演に意欲的だったのですが、

一般の人々が理解するには時間がかかる」と言っていたように、

その後、再び注目されるようになるのは、20世紀も中頃になってから。

カラヤンや、ゲオルク・ショルティが現れてからです。

 

そして日本でも最近ファルスタッフが取り上げられるようになって来ていますよね。

これはとても嬉しい限りです。

 

 

上演時間とあらすじ

上演時間

 

  • 第一幕:約30分
  • 第二幕:約45分
  • 第三幕:約45分

 

それぞれの幕は、1場と2場に分かれていて、合計で3幕6場になっています。

合計で約2時間なので、休憩を入れると約3時間と言うところでしょう。

上演によりますが、第二幕の1場と2場の間で、一回のみ休憩にする場合もあります。

 

簡単あらすじ

 

ファルスタッフは、大食いで、太っていて、ずるくて、適当な性格。

相手の名前だけ変えた、同じラブレターを二人の女性に送りますが、

それに気づいた女性たちが、ファルスタッフを懲らしめる物語。

女性たちの目論見を知らずに焦る夫がいたり、籠に押し込まれて川に投げ入れられるファルスタッフ。

でも性懲りもなく、ファルスタッフはまた女性と会いにいそいそと。

物語には、若い男女の恋愛も絡まって、最後は「世の中全て冗談」と全員で歌い、明るく終わります。

 

 

見どころ

 

ファルスタッフは、ヴェルディのそれまでのオペラの中で、もっとも芝居と音楽、セリフと音楽が融合したオペラです。

そのため、見どころと言える、独立した長いアリアはほとんどなく

アリエッタと呼ばれる短いアリアと

アリオーソと呼ばれる、レチタティーヴォとアリアの中間的な歌唱が多くなっています。

見どころとしては

  • 第一幕:ファルスタッフの「何が名誉だ」と怒るシーン
  • 第二幕:ファルスタッフが亭主の留守を聞いて歌う「行け、老練なジョン」
  • 第二幕:フォードが妻の浮気を勘違いしてあわてる「夢かまことか」
  • 第三幕:若いフェントンが歌う「くちびるから喜びの歌が」
  • 第三幕:ナンネッタのアリア「季節のそよ風に乗って」

などがありますが、

全体としての見どころはやはり、3幕ラストの全員で歌うフーガでしょう。

フーガは同じ旋律を、別の人がどんどん変わって歌っていく形式です。

ファルスタッフから始まって、最後は全員で合唱となる、大フーガは、他のオペラではあまり見ない形式ですが、

ヴェルディはラストをフーガにすることを決めていたようです。

 

多くの悲劇的な作品を残したヴェルディが、最後に作ったのがこの喜劇的オペラで

「世の中全て冗談」と明るく伝えるところは、なんとも巨匠の粋さを感じてしまいます。

レチタティーヴォとその歴史

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