ムツェンスク群のマクベス夫人(カテリーナ・イズマイロヴァ)官能的でショッキング

ショスタコーヴィチの問題作

今回はショスタコーヴィチの「ムツェンスク郡のマクベス夫人」というオペラについて書いてみます。

ショスタコーヴィチは20世紀の大作曲家ということらしいのですが、実は私にとってはオーケストラの演奏で聴いたことがある人っていうくらいの認識しかなく

ましてオペラのイメージなどそもそもはまるでなかったのでした。

ヴェルディのマクベスなら知っているけど、「ムツェンスク郡のマクベス夫人」って一体なんだろう。マクベスのパロディかな?なんて思っちゃってました。

音楽家が聞いたら怒りそう‥。

ショスタコーヴィチって交響曲を始め作品がすごく多いんですけど、オペラに関しては少ないんですよね。

ベートーベンが一曲だけフィデリオっていうオペラを作ったように、オペラはあまり作らない人だったのかなとか‥そんな程度に思ってました。

ところがムツェンスク郡のマクベス夫人っていう作品は、ショスタコーヴィチの問題作でとても物議を醸し出した作品だったのです。(知ってびっくり!)

というのもこの作品は当時スターリンの怒りに触れて、その後しばらくショスタコーヴィチはオペラを作れなくなったのです。オペラが少ないのはおそらくそのせいらしい‥。というのも実に官能的なオペラで‥。

ショスタコーヴィチっていうと私の場合まず「交響曲5番」が浮かびます。と言うかそれくらいしか知らないのが本音。

私はオペラ以外の分野はほとんど知らないのですが、私が知ってるくらいだから交響曲5番はかなり有名なんじゃないかと思います。

この5番がムツェンスク郡のマクベス夫人のあとのショスタコーヴィチの復活作品だったようなのです。

音楽の世界もいろいろあるなあと‥

不倫の話のオペラなら他にもあるけど、不倫を見つけられた舅を殺し、さらに夫も殺しと次々殺してしまう主人公のエカテリーナ。

その残酷さからこのオペラの題にはマクベス夫人の名前が付いているということみたいです。ちなみにムツェンスクはロシアの地名ですね。

原作はニコライ・レスコフっていうロシアの作家の作品です。

オペラの初演が1934年で、小説の方は1865年なので70年ほど前の作品ということになります。

ムツェンスク群のマクベス婦人では、舅が嫁をいびるし、体を持て余している嫁は不倫するし、舅は俺が若ければ満足させてやるのにと言うし、召使の女性を使用人たちがよってたかって強姦するし(過激度は演出によりますが)

スターリンが怒るのも無理はないと言う気がします。

少なくとも立場的にもこれを見て「素晴らしいオペラだ!」とは言えなかったのではないかと‥。

でも当時すごく人気があったらしいのです。これを見てなんとなくベルクの「ルル」を思い出したんですけど、ルルも救いどころのない性格と崩れた生活の主人公の話なのに、なぜか今も紳士たちに人気があるということ。

人間はこういう野卑ともいえる作品、人間の醜い部分を強烈に表現する作品にとてつもなく惹かれてしまうんだろうか‥。

改訂版がカテリーナ・イズマイロヴァ

「ムツェンスク郡のマクベス夫人」っていうオペラには必ずと言って良いほど(カテリーナ・イズマイロヴァ)っていうカッコ書きのタイトルが付いてるんですよね。

もしくは逆で、「カテリーナ・イズマイロヴァ」(ムツェンスク郡のマクベス夫人)ってなってることが多いです。

オペラを見るまでは国によって言い方が違うのかなとかそんな風に適当に思っていたんですけど、そうではなくてムツェンスク郡のマクベス夫人がもともとの作品で、

批判を受けてしばらくしてから改定を加えて題名も変えて、エカテリーナ・イズマイロヴァになったということのようなのです。

スターリンの批判は別名「プラウダ批判」と言われていて、プラウダというのは当時のソ連共産党の機関紙。そこで、ムツェンスク郡のマクベス夫人の批判が載ったのです。

それ以来このオペラは上演禁止になってしまったんですね。

そのためプラウダ批判は文化的なものを弾圧した事件と言われているのです。

ちなみにスターリンが鑑賞したのは初演から約2年後の1936年で、その時までは初演以来大人気のオペラで、すでに5カ国で上演されていたほどだったらしいのです。

で、プラウダ批判でショスタコーヴィチ作品は上演できなくなったのですが、翌年1937年にはショスタコーヴィチは例の私も知っている交響曲5番で名誉を回復したのだとか。

この交響曲5番は有名なのは、ショスタコーヴィチのとりわけ渾身の作だったからということもあるのかもなあと思いました。復活がかかっていたわけですから。

そしてそれからずいぶんたってから、ショスタコーヴィチはムツェンスク郡のマクベス夫人を作り直して1963年に「エカテリーナ・イズマイロヴァ」として発表したのです。

1963年かあ。割と最近のこと‥ですよね。

下品な言葉とか露骨な言葉を止めて、刺激的な音楽も直すとそんな改定だったようです。

今でもロシアでは改訂版が上演されることが多いけど、西側諸国では原典版が上演されることも多いとのこと。

どちらが見たいかといったら、やはり私は原典版が見たいかもしれない。

それにしても文化弾圧といわれるとはいえ、よくショスタコーヴィチは無事だったのねと思ってしまうのですが、どうもそれは彼がすでにすごく人気があったかららしいんですよね。このオペラもロシアだけでなく各国で上演されていたくらいですし。

初演当時若干27歳のはずなんですよね。

ショスタコーヴィチの前作「鼻」に関連するメイエルホリドっていう演出家なんかは処刑されたりしてるのを考えると、よく無事だったって思うのです。

ムツェンスク郡のマクベス夫人簡単あらすじ

では簡単あらすじを書いておきます。

このオペラについてはおそらく歌に聴き入るというより、ストーリーに釘付けになってしまうんじゃないかと思います。だから字幕が大事かも。

主人公はムツェンスク郡の豪商イズマイロヴァ家に嫁いでいるエカテリーナ

いじわるな舅のボリスにいびられつつ、若い体を持て余しているエカテリーナ。

ある日エカテリーナは新しく入った使用人のセルゲイと不倫関係になってしまうのですが、それを舅に見つかってしまったので、

エカテリーナは舅のきのこ料理に毒を入れて殺してしまいます。

何食わぬ顔で不倫を続けているとベッドに舅の亡霊が。

さすがにエカテリーナも怖がっていると、そこへ急に夫が帰ってきて不倫がばれてしまったので、今度は夫も殺し酒造庫に死体を隠します。

セルゲイとエカテリーナは結婚しますが、酒造庫の死体が気になって何度も見ているのを酔っ払いの百姓が酒が隠してあると勘違いし、死体を発見してしまいます。

二人は警察に捕まりシベリアに送られることになりますが、その途中ですでにセルゲイはエカテリーナに興味を失い別の女性に言い寄る始末。

それを知ったエカテリーナは囚人の一行が湖の急流に差し掛かった時に、セルゲイの浮気相手を突き落とし、自分も続いて飛び込んで死んでしまいます。

というこんな簡単あらすじです。

4幕まであり、正味2時間40分程度はあります。

たびたびベッドの官能的なシーンがあり、そこがどんな風に演出されるのか、またアクシーニャが男たちにいたぶられるシーンは一番刺激的なところではないかと思います。

初演の時や、スターリンが見た時はいったいどの程度の過激な演出だったのか、と思います。

ムツェンスク郡のマクベス夫人見どころ

このオペラを見る時にはまず何と言っても題名が

  • ムツェンスク郡のマクベス夫人
  • エカテリーナ・イズマイロヴァ

のどちらになっているのかに注目かと思います。

それによって、原作版か改訂版かがわかると思いますから。

または、場合によっては折衷で上演する場合もあるかも。

ショスタコーヴィチが最初に作ったオペラは「鼻」というオペラで、これはまた全く違ったタイプの鼻が逃げ出すっていうお話なのですが、

個人的にはそちらよりもこのオペラの方がストーリーが緊迫して迫力があるので聴きやすかったしおもしろかったです。

このオペラは何と言ってもエカテリーナ役が出ずっぱりだし目立つので、すごく大変な役だと思います。

声を張り上げるような歌が多く、重い役。濡れ場?も多いので、演技力も大変そう。

そんな中、最初の「ああもう眠れない」のアリアは聴きやすいアリア。

ただ、音楽は終始暗くて異様な感じにすら思えます。不穏な雰囲気の音楽とでもいうのか、何かが起こりそうな音楽です。

ショスタコーヴィチは映画音楽も多く作っているんですけど、これを見ているとなるほどってすごく思います。いかにも怖いシーンとか何かが起きそうな時に映画で流れてきそうな音楽なんですよね。

第一幕2場のアクシーニャが男たちに絡まれるところは、明らかに強姦シーンになり18歳未満禁止ってなりそうな演出の場合もあると思います。

私が見た中にも、これアダルトビデオと変わらないんじゃ‥と思うようなのがありました。

今までそういうのはサロメでベールを全部とって全裸になるとか、

タンホイザーのヴェーヌスの森のシーンで過激なのがあるくらいだと思っていたのですが‥。

改訂版だとそこらへんは多分かなりオブラートに包んだ表現になっていると思います。

舅は意地悪だからそうでもないのですが、夫まで殺されてしまうし、次々殺人を犯していくエカテリーナ。

オペラにはトゥーランドットとかローエングリンのオルトルートとか悪女が結構多いけど、三大悪女にランクインできるんじゃない?というレベルかも。でもセルゲイが好きだからっていうのがあるからちょっとそこは違うかなあ。

とにかく扇情的で刺激的な音楽が見どころ聴きどころ。

そして何よりやっぱりストーリーの緊迫感が見どころですね。

そして最後の合唱はちょっと意外だけど物悲しくて美しいです。

殺人までしたのに好きな人に心変わりされるエカテリーナの絶望と性は悲しい‥。

オペラって本当にいろいろあります。だからおもしろいんですよね。

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