金鶏/リムスキー・コルサコフ単なるおとぎ話じゃない

金鶏ってどんなオペラ?

今回はリムスキー・コルサコフの「金鶏」というオペラについて書いてみます。

  • 1909年初演
  • 作曲:リムスキーコルサコフ
  • 原作:プーシキン

リムスキー・コルサコフっていう人はロシアの五人組と呼ばれる中の一人で1844年の生まれです。

ロシア五人組はイーゴリ公を作曲したボロディンや、ボリス・ゴドゥノフを作曲したムソルグスキーなどもいて、当時ロシアの民族主義的音楽を目指した作曲家たちのこと。

リムスキー・コルサコフはその中でもオーケストレーションがうまいと言われた人で、ボリス・ゴドゥノフの補筆や修正をしたのもリムスキー・コルサコフなんですね。

リムスキー・コルサコフというと私などは「クマンバチの飛行」のイメージが強かったのですが、「シェヘラザード」とか「禿山の一夜」の方で知っている人も多いのかなと思います。これらはずいぶんイメージが違いますけど‥。

オペラの分野では今回の「金鶏」が最も有名ですね。

同じくロシアの作曲家ストラヴィンスキーがちょっと似たような題名の「夜鳴きうぐいす」というオペラを作っています。

これは師匠であったリムスキー・コルサコフの「金鶏」の影響を受けて作ったといわれていて、どちらも一見おとぎ話風なのですが、金鶏の方は実は風刺が強くてかなり個性的です。

金鶏っていう鳥は実際に中国の岩山などに存在するキジ科の鳥で

オスの金鶏は色彩が豊かな美しい鳥で、私がみたオペラ映像の金鶏も本物にちょっと似せた鳥の衣装になっていましたね。

声も金属的な声らしく、オペラで「キリキー!キリーココー!」と叫ぶのもちょっと金属的といえばそんな感じでした。

おとぎ話かと思うと‥

金鶏は王様や鳥、異国の女王など設定はおとぎ話風なのですが、実は帝政ロシアの批判つまり風刺色が強い作品で、そのせいかかなり奇妙な話です。

そのため当時上演するにあたってかなり検閲があり修正が入ったようです。

リムスキー・コルサコフが亡くなったのは1908年なのですが、金鶏の初演は1909年なので亡くなってからなんですよね。

生きている間に初演が見られなかったのはそんな経緯があったようですが、オペラの歴史をいろいろ見ていると作曲家本人が初演を見ていないっていうのはちょいちょいありますね。

カルメン(レチタティーヴォ版)を見られなかったビゼーや、トゥーランドットを見られなかったプッチーニとか‥。

そんなわけで金鶏はリムスキー・コルサコフの最後のオペラなのです。

金鶏というオペラには愚かな王様がいて、お互いに殺し合う愚かな王子達もいて、または好きな女性に腑抜けになって踊れと言われればへたな踊りを踊り、歌を歌い国まであげちゃうという始末。

かなり王様達を馬鹿にした内容とも言えるのですが

でもなんかおもしろいんですよね、金鶏って。単なるおとぎ話じゃないし。

「キリキー!」となく鳥も、馬鹿な王も、そして不気味なシェマハの女王も。すごく強烈な個性があって。

検閲で歌詞を修正したとかそういう経緯を知らずにこのオペラを見れば、ただの愚かな王様がいるおとぎ話で、風刺とかそんなことも感じないと思うのですが、

一方検閲後でこの揶揄だと思うと、修正前はかなり辛辣だったんだろうかとそんなことも感じました。

原作はプーシキン

金鶏の原作はアレクサンドル・プーシキンで1834年の「金のコッカレルの物語」が元になっています。

プーシキンが原作のオペラってロシアには多くて「エウゲニー・オネーギン」とか「スペードの女王」などいろいろあります。

オネーギンは美しい韻文小説だし、スペードの女王はちょっと怖い短編小説、一方で「マゼッパ」のような軍記物もあるのですが、

プーシキンっておとぎ話も結構書いているんですよね。

37歳という短い人生の中で本当にいろんな作品を書いた人なんだなと改めて思います。

リムスキー・コルサコフの音楽って

シェヘラザードとかクマンバチの飛行は曲が有名だから知っている人も多いと思うのですが、リムスキー・コルサコフっていう名前は音楽をやっている人以外にとってはそこまで有名な作曲家でもないと思うんですよね。

少なくとも私なんかはそうでした。

モーツァルトのようにはイメージが湧いてこない作曲家っていうか。

金鶏についてどんな音楽かを私なりに一言でいうなら、「不思議だけど華やかな音楽」っていうイメージです。

思ったよりずっと聞きやすい音楽っていうのかな。

特に金鶏では「キリキー!」のところ。

鳥役の歌手さんはソプラノで「キリキーココー!」くらいしか歌(というかセリフ)がないんですけど、めちゃくちゃ目立っていて、このオペラを見ているうちに

「次はいつ鳴くんだろう」ってちょっとワクワクすらしちゃうんですよね。

金鶏が鳴くと必ず何か起きるし。

私が見た金鶏は見た目もちょっと悪そうな鳥なんですけど、羽をバッサバッサしたりして皆を翻弄するのがなんともおもしろかった。

このオペラってよくできてるなあって思うんですよね。台本がうまいのか、リムスキー・コルサコフがすごいのかそこらへんはよくわからないけど‥。

ちなみに台本を書いたのはウラジミール・ベルスキーという人で

この人はリムスキー・コルサコフの別のオペラ「皇帝サルタンの物語」とか「見えない都市キテズ」も書いているみたいですね(まだ見たことはないけど)。

あとちょっと気になるのは当時の人でイヴァン・ビリビン。この人はイラストレーターだったらしいのですが、バレエやオペラのの舞台をイラストにしていて金鶏の舞台もあるんですよね。

それがすごくカラフルで鮮やかなのです。

それに似せた舞台や衣装になっていることもあると思うので、金鶏を見るときはちょっと彼のイラストをチェックしてみるのもおすすめです。

金鶏の見どころ

金属的な音から始まるオーケストラの音楽は、金鶏の鳴くイメージなのかなと思います。

そしてちょいちょい出てくる異国っぽいエキゾチックな旋律はシェヘラザードっぽいなと。それも心地よい感じです。

金鶏にはプロローグがあり、これは占星術役のテノール。最後に重要な役で出てくるしたたかな占い師なので、プロローグから注意して見たい人物です。

最初のうち感じるのはおとぎ話にしてはかなり勇壮な音楽だなということ。

そして何と言ってもやっぱり注目したいのは、金鶏がどんな鳥になっているのかということでしょう。

衣装とそして声と。声はソプラノですが、鳥だけ別の人が踊っている場合もあるかもです。

登場の仕方とか鳥の仕草とか、その辺は見どころだと思います。

衣装は全体に楽しみですね。イヴァン・ビリビンのイラストを見ると、よりそう思います。

題は金鶏ですが、物語の中心人物はダドン王(バス)。次にシェマハの女王だと思います。

ロシアのオペラはバス歌手が主役のオペラが多いイメージがありますが、このオペラもそうですね。

第二幕はダドン王とシェマハの女王がほぼ歌い続けで、結構大変そうな役でもあります。

また、王がシャマハにたぶらかされて歌ったり踊ったりと王が腑抜けになっていく様、特に王の踊りのあたりはちょっと注目したいです。

この2幕終盤の「踊りましょう」のところは、変な音楽かと思いきや意外にすごくきれいな曲が流れてきますので、それも見どころ聴きどころ。

次にシェマハの女王ですが、こちらはまず登場に注目。ダドン王に「国をあげちゃう」とまで言われるくらいの妖しい魅力ですから、どんなシェマハなのかは見どころです。

シェマハはちょっと不思議で妖しい歌を歌いますが、エキゾチックでアラビアンナイト風の曲も聴きどころかと。不思議と引き込まれる歌で、王がメロメロになるのもちょっとわかる‥。

そしてサロメの7つのベールの踊りさながらのシーンも見どころで、洋服を脱いでいっちゃうかも。色っぽさに注目かな。

バレリーナがはいるのか、歌手自身が歌いながら演じるのかも見どころです。

2幕最後は女声合唱で、なんとなくこの場面でこの音楽?と違和感も感じたのですが、結構美しい曲です。金鶏全体に言えるんですけど合唱が異質のように美しい気がします。

第三幕冒頭は一瞬運動会?と思うような楽しい行進曲のような音楽にワクワクしますね。

皮肉たっぷりのこのオペラが私はかなり好きです。

最後に金鶏はロシア語のオペラなのですが、世界に知られるようになったのは1914年のパリでのフランス語上演だったといいます。

フランス語だとLe Coq d’or。

パンフレットなどにフランス語のこの題名が載っているのはそんな経緯があるからなんですね。

まだ舞台で見たことはないのですが、ぜひ生で「キリキー!ココ〜!」を聞いてみたいものです。

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