マリア・カラスの名前を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
1923年生まれのマリア・カラスは100年に一度と言われた名歌手でした。
今回はマリア・カラスとともにその前の100年に一度の名歌手にはどんな人がいたのかについて書いてみたいと思います。
現役時代マリア・カラスとデバルディ
マリア・カラスは現役時代は、レナータ・デバルディと比較されることが多い歌手でした。
デバルディは、1922年生まれなので、年齢もマリア・カラスとほぼ同じで
どちらもイタリアオペラを得意とするところ、演技のうまさや、見た目の美しさなど
どちらも魅力的な歌手だったのです。
マリア・カラスがギリシャ系のエキゾチックな顔立ちで、情熱的な演技やオペラが向いているのに対し、
デバルディは清楚で品のある見た目で、その役のイメージはヴェルディのオテロの
王妃デズデモナです。
悲恋の王妃の役はまさにぴったりのイメージです。
対するマリア・カラスはノルマや、アンナ・ボレーナのような
美しい中にも情熱のある役どころ、そしてコロラトゥーラが得意なベルカント歌手でもある、そんなイメージではないでしょうか。
共にイタリアオペラを得意としていますが、デバルディはイタリア出身だったので、よりファンに恵まれていたのではないかと言う気はしています。
現に、マリア・カラスについては物議が多いのに対し、デバルディについては、あまりスキャンダラスなことはなかったのではないかと思います。
もちろん二人の性格の相違もあると思いますが。
マリア・カラスはマリア・マリブランの再来
よく、歌手のことを誰々の再来、と言うような例え方をします。
パヴァロッティが亡くなってからは、若手の歌手をパヴァロッティの再来とか
ちょっと昔だと、カルーソーの再来とか、
そのような言葉はオペラ界ではよく聞かれます。
マリア・カラスの登場の際に言われたのは、マリア・マリブランの再来、という言葉でした。
マリア・カラスは100年に一人の逸材と言われた歌手なのですが、
マリア・マリブランが生まれたのは1808年で、マリア・カラスの約100年前なんですね。
まさに二人とも100年に一度の逸材なのかもしれません。
ただ、マリブランは28歳という若さで、落馬事故により亡くなっていますから活躍したのは1836年までです。
録音技術もままならない、100年以上も前の歌手を、知っていて比較できる人など
いるはずが無いと思うのです。
ではなぜ比較されるのかと考えると、その声質とレパートリーにあるのではないかと思います。
マリア・マリブランとマリア・カラスの共通点
マリア・マリブランとマリア・カラスについて、二人に共通点としてあげられるのは、まず
声域の広さではないでしょうか。
プリマドンナというと、ソプラノ歌手が浮かぶ人が多いと思います。
ところが、マリア・マリブランはメゾソプラノ歌手だったんですね。
メゾソプラノだけど、声域が広いので、アルトもソプラノの声域も全てこなせるという歌手だったようです。
その点、マリア・カラスも、ソプラノでしたが、高音から低音まで安定して出すことができる歌手だったので共通点と言えるのではないでしょうか。
またマリブランは情熱の国スペインの人で、そのエキゾチックな美貌と、激しい感情表現、演技も、マリア・カラスと被るところがあり、これも共通点かもしれません。
最も声質については、マリブランの方は、明るく生き生きとしたという表現もあり
それについては、若干暗めのマリア・カラスとは異なっていたのだろうと想像します。
マリブランは、ジュディッタ・パスタという、やはりこちらも100年に一度と言われた歌手の代役として
センセーショナルな人気を集めまたのですが、
その時の演目は、ロッシーニのセビリアの理髪師のロジーナ役でした。
オペラというのは病気などいざという事態に備えて、サブの人が待機しているものですが、
代役で急遽出て成功を収めるという例はとても多くあり、
彼女の場合もそうだったんですね。
マリア・マリブランは、ロッシーニや、ベッリーニを得意としていたようで、
この二人の作曲家のオペラは、コロラトゥーラなどの技巧が入るベルカントオペラで、
マリア・カラスも広い声域と共に、確かなベルカントオペラの技術を得意としていたことも、二人の共通点で、比較される所以ではないかと思います。
中でもベッリーニのノルマは、難易度が高い演目なので、その成功は語り継がれていたのではないでしょうか。
低音に強いソプラノ歌手
マリア・マリブランを見ても、マリア・カラスを見てもそうなのですが、
天才と呼ばれる歌手たちの共通点として
- 声域が広い
- 強い喉
- 演技がうまい
- 見た目が美しい
ということがあるのではないかと思います。
高音が得意な歌手や、技術に長けた歌手というのは、ソプラノ歌手には比較的多いと思うのですが、
ソプラノ歌手は、どうしても低い声になると声が細くなり、聞こえづらくなるのは仕方のないことなのかなと思っています。
そもそも、個人的にもメゾソプラノの声が好きなのですが、それは、メゾソプラノの人たちの中音の声は、
ふくよかで厚みがあるベルベットのような味わいがあるからです。
通常、コロラトゥーラなどの技巧は、一部のソプラノ歌手が得意とするのですが、
ほとんど軽い声質の人が多いです。
中低音に強い歌手が、高い音域まで出すことができ、かつソプラノが得意とする技術にも長けているとなると、通常なかなかありえないわけです。
だから、それができる歌手は、100年に一人の逸材になるのではないでしょうか。
ジュディッタ・パスタの存在
もう一人、100年に一人の歌手と言われた人に、ジュディッタ・パスタの存在があります。
マリア・マリブランが一躍有名になったのは、ジュディッタ・パスタの代役として出たことが
大きかったのですが、そのジュディッタ・パスタも、メゾソプラノで、ロッシーニや、ドニゼッティ、そしてベッリーニといった
ベルカントオペラを得意としていた歌手でした。
1797年生まれのパスタは、時代的にもぴったりと当てはまっていたのでしょう。
数々の著名なオペラの初演を演じているわけです。
そして、彼女もやはりメゾソプラノなのですが、
広い声域と高い技術を持っていたようで、それはレパートリーからも想像できます。
ジュディッタ・パスタは
- ドニゼッティのアンナ・ボレーナ
- ベッリーニの夢遊病の女
- ベッリーニのノルマ
など。
強い声と、広い声域と、それに加えて、表現力がなくては、なかなかできない難役をこなしていたわけですね。
特にアンナ・ボレーナについては、ジュディッタ・パスタのためにドニゼッティが作曲した、と言われるほど、
彼女を使いたいと思う作曲家が多かったということではないでしょうか。
そしてやはりここにも出てくるのがベッリーニのノルマ。
ノルマを完璧にこなせる歌手というのは、やはりなかなかいなかったということでしょう。
ただ、ジュディッタ・パスタについては、比較的早い時期に声が出なくなったとも言われていて
それは、ちょっとマリア・カラスを思い浮かべてしまいます。
やはり、広い声域と、強い声は、喉に負担がかかったのでしょうか。
パスタはかなり早い段階で、一線から引いてしまっていたようです。
何れにしても名歌手には、メゾソプラノが多いというのは、興味深いことではないでしょうか。
コメントを残す