ヴェルディが有名だけどロッシーニのオテッロもあった
今回はとても珍しいオペラを見てきました。
ロッシーニのオテッロです。
今では「オテロ」といえばヴェルディのオテロがまず浮かぶのですが、今回はなんとロッシーニの方のオテロ。
同名のオペラがあることは知っていたのですが、見たことはなかったので、最初にパンフレットを見た時は「え?ほんとに!やるんだ」とまずびっくりしました。
珍しいオペラが見られると思うといつも俄然テンションがあがります(笑)
日本初演ではないようですが、このオペラの上演はなんでも15年ぶりとのこと。
これだからオペラって見逃すと次にいつみられるかわからないんですよね。
だから見たいものは絶対に逃さず見ておきたいって私は思っちゃいます。
さて、今回のロッシーニのオテッロは藤原歌劇団を主とした公演でしたが、主役ほぼ全員が海外からの歌手でした。
このところ、新型コロナの影響だと思いますが、日本人のみの公演というイメージだったので、今回は海外の人がこんなに…という印象。
ようやくっていう感じですかね。
フェイスフィールドを付けて歌ったり、マスクで歌ったりとイレギュラーな感じが続いていましたから。よかったよかった。
演出について
今回は2.3幕を続けての上演で、休憩は一回のみ。
演出について私なりに一言でいうなら、今回のオテッロは「ひも(ロープ)の演出」って言うところでしょうか。
舞台は上から下がったたくさんの長いひもで作られた円柱状のものからはじまって、ひもが横一列になったり、幕が上がるように左右にあげられたり、ひもは様々な形に変わっていく演出でした。
イアーゴがオテッロ、デズデーモナ、ロドリーゴの三人をゆるりとひもで縛っていく様はあたかも3人のもつれた関係を表すかのよう。
最後はデズデーモナの絞め殺す道具にもなって…。
演出はオペラの大きな楽しみの一つで、演出を考える方っていつもどういう思考回路なんだろうと常々不思議に思っているのですが、今回はまさにそんな思いでした。
まさかの「ひも」だけでこんなに不思議な世界を作れるものなんだなと感心。
そんなひもの効果を際立たせるためか舞台のセットとしてはひも以外ほとんど何もなく、まるでひもが意思を持っているかのようにさえ見えてきました。
その他、衣装についても上品でとても良かったです。
音楽について
長めの序曲はこの時代らしく(ロッシーニらしく?)他の作品からの転用もあるということですが、もの悲しい旋律は悲劇的な結末を予感させます。
ロッシーニってブッファのイメージが強いけど個人的にはセリアの方が好きかも。
ときどきハッとするような美しい旋律があらわれるからそれが何とも言えず良いし、ストーリーにも引き込まれます。
このオペラをセビリアの理髪師と同時期に作っていたのが不思議な気さえしてしまいますが、2幕終盤あたりはなんかセビリアの理髪師っぽいなあと思ったりしました。
同じ作曲家だからあたりまえかもですが…。
時代的にウェルディよりも少し前の時代だけどバロックほど古くないのですが
ヴェルディの時代のオペラより高音域の歌手が多い印象。
オテッロがテノールなのはわかるけど、恋敵のロゴリーゴも同じくテノール。
しかもどっちかというとロドリーゴの方が高音が多いし、アジリタっていうのかな細かい音符が多くてメチャクチャ難しそう。
どっちが主役?っていうくらい目立つテノールです。
ヴェルディ、ドニゼッティあたりだとだいたい恋敵はバリトンで、テノール二人が目立つってあまりないよねーって思ってみていました。
侍女のエミーリアもメゾじゃなくソプラノだったし。
バロックになるとほぼ全員高い声なんていう時もあるから、そこまでではないにしても、低音域がまだこの時代は少ないんだなと改めて思ったのでした。
あと、それぞれの歌手にしっかりと見せ場がある感じが、のちのヴェルディやプッチーニに比べてよりあるかなと。
その分歌手さんたちの声と歌の技術を十分楽しめちゃうね!と思いました。
オペラも時代によって変化していってますねえ。
歌手について
今回タイトルのオテッロを歌ったのはアメリカ出身のジョン・オズボーンさん、テノール。
美しいけど強めの声。見た目もかっこよくて歌と演技から嫉妬深さがにじみでていました(笑)
声がとてもよく響くのは「これって会場のせい?」「人間の声?」と思うほどすごく響きのある情熱の声でした。
第三幕のオテッロのセリフはシェークスピアの原作に近いのかなと思わせる言い回しでした(読んでないけど)。
かわいそうなデズデーモナをうたったのはレオノール・ボニッシャさん。セビリアの出身は顔立ちからなるほどと思う美しさ。
スペイン舞踊も踊れると書いてあったけどメチャクチャ合いそう。
はかなさと「私を殺して!」という強さにも合う、力強さもある美しい声でした。
この人の高音もどこから出てる?と思うような声がやすやすとでていました。
デズデーモナの柳の歌はやっぱりとてもうつくしい(拍手のタイミングはなかったけど)。ハープとフルートの調べにうっとりでした。
このオペラを見られて生きている幸せすら感じちゃいました(ちょっと大げさ?笑)
ロドリーゴを歌ったのはミケーレ・アンジェリーニさん、テノール。
今回個人的にはこの人がとりわけよかったです。
いかにもベルカントっていう感じの声と技術。
高音も難なくでていて、誠実さが感じられるのびやかで甘い声がとても良かった。
このロドリーゴ役ってもしや一番大変?と思うような歌の連続。
デズデーモナと二人の「私の苦しみを見て…」のところはとりわけ良かったです。
ロッシーニの他のオペラなら主役はこちらの声の方が合ってるような気も…(私の勝手な感想…)。
主役が二人っていう感じのオテロとロドリーゴで、テノール二人の二重唱はちょっと珍しかったです。
終始ひもを持っていたイアーゴ役はアントーニオ・マンドゥリッロさん。
ヴェルディのオテロはイアーゴの悪役ぶりがメチャクチャ目立ちますがロッシーニでは地味目。
そしてこの役もテノールなんだ…と。悪役は低い声っていうイメージをどうしても持っちゃってます。
しかもこのイアーゴにもかなり高い声を要求しているんですよね。この役がこんな高い声を…とそれも不思議。
オテッロと二人で「復讐を…」と歌うところはちょっとブッファっぽかった。
イアーゴのこそこそする感じがなんかヴェルディと違ってておもしろかったかも。
エルミーロを歌ったのはトーニ・ネジチュさん、こちらはようやく低い声のバス。
まだ若そうですがデズデーモナの父親役。
クロアチアの出身でザグレブの音楽院で学んだと書いてありましたが、今回は様々な国の人が集結してますよね。
ザグレブは行ったことがありませんが、聖マルコ教会が有名なところですよね。クロアチアも行ってみたいなあなどと思いを馳せてしまいました。
侍女エミーリアをうたったのは藤井泰子さん。この人の声もとてもよく響いていて、デズデーモナとの二重唱がとても良かったです。
今回ロッシーニのオテッロをみてやっぱりヴェルディなどロマン派オペラはロッシーニのセリアの路線を受け継いでいるところがあるのかなあっておもいました。
とはいえ、ヴェルディとロッシーニでは声の構成が全然違うし、歌い方も違いますね。
同じイタリアオペラでも時代で変化しているのを感じました。
パンフレットに幼いグノーが感動したって書いてありましたけど、その同じオペラを今の時代に私も見て感動できるっていうことは不思議だけどオペラならではかなとも思います。
今回の公演はパンフレットが無料で配られていましたが、細かいこともたくさん載っていて内容がとてもおもしろく勉強になりました。
それにしてもロッシーニってやっぱり天才!って思ったのでした。
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