サンサーンスと言えば、動物の謝肉祭という曲が有名です。
中でもチェロが奏でる白鳥の音楽は、とりわけ美しいメロディー。
そんなサンサーンスは、オペラも作っています。
旧約聖書から題材をとった、オペラ「サムソンとデリラ」。
このオペラは、ドラマティックなテノールとメゾソプラノが、情熱的に歌うオペラです。
誰にも負けないはずの勇者が魔世の美女に骨抜きにされてしまうお話。
メゾの素晴らしいアリアとバッカナールという有名なバレエのシーンもあります。
成立と初演
サンサーンスという人
1835年、フランスのパリに生まれたサンサーンスは、早くから音楽の才能あふれる神童でした。
2歳でピアノを弾き、3歳ですでに作曲をしたといわれ、早くも10歳で演奏会を開いています。
パリの音楽院を出ますが、非常に頭の良い人で、
音楽に限らず詩人としてまた天文学にも通じる、知識人でもありました。
若干嫌な性格でもあったと書かれたりもしていますが、正確なところはわかりません。
嫌な部分は誰でもありますし年を重ねればでてきます。
断片をとってもわからないと思うんですよね。
サンサーンスの音楽から見えるのは、美しい旋律だけです。
さて、サンサーンスという作曲家は10個以上のオペラを作曲したのですが、現在世界中のオペラハウスで上演されているのは
サムソンとデリラだけと言っていいでしょう。すごくきれいな音楽なので残念な気がしますが。
今後は他のオペラも上演されるようになる可能性は、もちろんあると思いますけどね。
サンサーンスの作曲の特徴は、オペラだけではなくあらゆる音楽を作っていたことです。
交響曲、協奏曲、交響詩、室内楽、ピアノ曲、映画音楽まで。
やはりサンサーンスも、天才と呼べる一人だったのでしょうね。
初演
- 初演:1877年
- 作曲:サンサーンス
- 場所:ワイマール宮廷歌劇場
サンサーンスはサムソンとデリラについて自国フランスでの初演を望んでいましたが、パリ・オペラ座での全曲上演は叶わず、
全曲の初演はサムソンとデリラの出来上がりから、3年後のことで、
場所もフランスではなくドイツのワイマール宮廷歌劇場においてでした。
パリ・オペラ座で全曲上演できなかった理由は、内容が旧約聖書をもとにしていたこと、
すでに下火だったグランドオペラ風だったことなどがあげられています。そうなのかなとよくわからなかったのですが、確かに最後に柱が壊れるというスペクタクル性があるし、合唱が重要なのでグランドオペラっぽい気もします。
そして、ワイマールで上演できたのは、
もとワイマール宮廷歌劇場の楽長だった作曲家リストの推薦のおかげでした。
そして念願の地元パリでの初演は、それから15年も後の1892年のこと。
自国でなかなか上演できなかったことは同じくフランス出身のベルリオーズと似ています。
ベルリオーズもフランツ・リストと親交があり悩み事で手紙を書き送ったりしています。
いろいろ見ているとリストという人はやはり人格者だったのかな、というのが垣間見えるのも興味深いところです。
映画音楽の作曲
さて、サムソンとデリラを作曲したサンサーンスはオペラに限らず交響曲や室内楽など多くの音楽を作曲しました。
その中でも「ギーズ公の暗殺」という映画の音楽を作ったことは、特筆すべきことかと思います。
なぜなら、現在でこそ映画というのは映像とセリフと音楽が一体となっていますが、
もともとは無声・無音で、映像のみのサイレント映画でした。
フィルムに音楽まで焼き付けるのは技術的に無理だったんですね。
とはいえ、映画も音楽とともに発展しており、
映像の上演時に、ピアノ伴奏を生で演奏するとか、
またはピアノを録音しておいて映像と一緒に流すとか
また、のちには管弦楽のような規模まで大きくなって、それがピアノの代わりになるなどしながら発展してきたのです。
ただ、初期には映画用のオリジナル曲はまだなく効果音的に
悲しいときはこの音楽、驚くシーンはこの音楽という具合に同じ音楽を使いまわしているだけでした。
「ギーズ公の暗殺」は約10分程度の短い映画ではありましたが、
クラシック界のサンサーンスが、映画のために、オリジナルの映画音楽を作曲したということは映画界にとっても大きな変化だったのです。
上演はサイレントの映像に合わせて、サンサーンスが作曲した曲を、楽士達が演奏したといいます。
現在では、映画の音楽はとても重要ですよね、というか音楽がないなんて考えられないと思います。
映画によって、ワーグナーやプロコフィエフの曲の一部が突如有名になった、ということもしばしば起きるほど映画にとって音楽は重要な要素のわけです。
サンサーンスによって映画の音楽が映画にとっていかに大切かを、当時の人々も感じたのではないでしょうか。
上演時間とあらすじ
上演時間
- 第一幕:約45分
- 第二幕:約45分
- 第三幕:約35分
合計125分です。
2回の休憩をいれると約3時間というところでしょう。
サムソンとデリラは、オペラとしてはそれほど長く無いと思いますが、
終盤はスペクタクルなシーンもあり、合唱も多くグランドオペラ的なところがあるオペラです。
オラトリオ的なオペラ
サンサーンスはサムソンとデリラを、もともとはオラトリオとして作曲し始めました。
オラトリオというのは題材を聖書からとっています。
物語的に進んでいくところはオペラと似ているのですが
演技は無く、個性に合わせた衣装などもありません。
サンサーンスは、リストの勧めによりサムソンとデリラを3幕のオペラとして作ることになったのですが内容的にはオラトリア的なところをかなり感じます。
オラトリオは聖書の中のセリフが多く取り入れられ独唱や、合唱で進んでいきます。
サムソンとデリラは旧約聖書の中から題材をとっていますし合唱も大事な意味を持っていることなど
オラトリオ的な雰囲気のあるオペラなんですね。
でも、個人的には劇的なクライマックスがあり、
また、美しいアリアもあるサムソンとデリラが
オペラとして作られて良かったあ!と。
サムソンとデリラ簡単あらすじ
旧約聖書・裁判官の章・第16章サムソンとデリラの話が元になっています。
舞台は紀元前のパレスチナ。
奴隷の身となったヘブライ人たちの救いの希望は、怪力を持つサムソン。
サムソンの怪力に敵も恐れをなすほどだったのですが、
サムソンは、デリラの色仕掛けに惑わされてデリラの罠にはまり捕らえられてしまいます。
サムソンの怪力の秘密は、実は彼の長い髪に有ったのですが、それも切られ怪力は無くなり、
今やサムソンは敵の神殿に鎖で繋がれています。
サムソンは神に懺悔をし、最後の願いを込めて再び力をと祈るのです。
すると神殿の巨大な2本の柱は崩れ落ち、神殿もろとも崩れ去るという劇的なラスト。
こんなあらすじです。
見どころ
アリアと見どころ
サムソンに色仕掛けをする女性デリラは、メゾソプラノが担当します。
メゾソプラノの中でも低めの音が多く、誘惑する役なので魅力的な雰囲気と、情熱的な歌唱が求められる役柄です。
メゾソプラノの中でも難しく、歌手にとってはやりがいのある役ではないでしょうか。
フランスオペラとしては、メゾソプラノが主役ということ自体当時としては珍しいことでした。
またサムソンはその役柄から、ドラマティックなテノールが担当することが多く、
ワーグナーを歌うヘルデンテノールが歌うこともあります。
その力強い歌唱も見どころの一つです。
デリラのアリアは魅力的で単独でもしばしば歌われます。
そしてアリアのほかバレエのシーンも有名ですね。
- 第1幕のデリラのアリア「春は目覚めて」
- 第2幕のデリラのアリア「あなたの声に私の心は開く」
- 第3幕のバレエ、バッカナールのシーン
中でも、第2幕のデリラのアリアは抒情的で素晴らしい曲です。
そして、ラストの神殿が崩れるシーンは、どんな演出なのかと、それも見どころです。
サムソンとデリラ歴代の歌手たち
サムソンとデリラのサムソンは怪力を持ち人々を救い出す役なので、
力強い声が欲しい役です。
また、デリラは美しくしたたかでこちらも強い女性。
映像やCDで出ているものではドミンゴや、カレーラス。
最近ではホセ・クーラもやっています。
少し前の映像だと、ジョン・ヴィッカーズ。
ジョン・ヴィッカーズはワーグナーも歌うヘルデンテノールです。
またデリラは、最近ではワルトラウトマイヤーや、アグネスバルツァ、オリガ・ポロディナなど。
ワルトラウトマイヤーもワーグナーを歌う歌手です。
やはりデリラはドラマティックな声の人が歌っていますね。
サンサーンスのサムソンとデリラは、一度見たらとても印象に残るオペラだと思います。
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