オペラはあまりわからないけど、椿姫だけは知っているという方もいるのではないでしょうか。
椿姫はフランスの作家デュマの小説が原作です。
フランス語の原作を訳すと「椿の花をつけた淑女」。
このオペラはイタリア語で書かれているのですが、
オペラの題は「ラ・トラヴィアータ」で、これを訳すと「道を踏みはずした女」となるんですね。
実は、椿姫は高級娼婦のストーリーなのです。
日本ではどうかというと、小説もオペラも「椿姫」と呼ばれています。
微妙にニュアンスが違うんですよね。
これは私としてはちょっと気になるところでもあります。
ヴェルディと椿姫
椿姫の成立
- 作曲者:ジュゼッペ・ヴェルディ
- 原語:イタリア語
- 初演:1853年 イタリア・ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場にて
椿姫の初演はヴェルディが40歳の時なのですが、
椿姫の初演と同じ年のたった2ヶ月前にはトロヴァトーレの初演も行っています。
トロヴァトーレも椿姫もヴェルディの中でとりわけ人気のある作品なのですが、
その二つの作品を並行して創作していたことは驚き。まさに天才だなと思ってしまいます。
オーケストラの演奏だけならまだしもオペラの場合は
オーケストラと歌手と舞台と芝居があるのですから、準備の方もすごく大変だったと思いますし。
ただ、当時は今に比べるとオペラを上演する環境がいろんな意味で整っていたということもあると思います。
さて、同じ年に二つのオペラを成立させたヴェルディでしたが、
実はトロヴァトーレは成功したものの、椿姫の初演の方は残念ながら失敗でした。
その理由は、初演の公演で主人公のヴィオレッタが、
病気で死んでしまう役なのに太りすぎていたこと。
高級娼婦の話というのが良くなかったとか、全体的に時間が無く練習不足、などと言われていますが、
これは想像ですが、
オペラ歌手が太っているのは、歌がうまければあまり気にならないことなので、
おそらく準備と練習不足だったのではないかと。
それともそんなにまで太っていたのか‥。
確かに現代の椿姫の上演を見ると、あまりに太ったオペラ歌手は、ヴィオレッタを演じていないように思います。
原作を見ると背は高いようですが、ぽっちゃりとは書いてないですね。
そこらへんは初演のジンクスがあるのかもしれません。
オペラの世界はジンクスとかそういうのが尾を引きますから。
マリアカラスの呪いなどという言葉もスカラ座にはずっと残っていましたしね。
椿姫とヴェルディの妻
椿姫のストーリーは、高級娼婦の主人公が純朴な青年と本物の恋に落ち、周りの反対にあい最後は死んでいく悲しいお話なのですが、
ヴェルディはこの作品を自分の妻と重ね合わせていたのではないかと言われています。
ヴェルディの妻ジュゼッピーナ・ストレッポーニはイタリアのスカラ座のプリマドンナでした。
ジュゼッピーナは、恋の噂も絶えなかったようで、私生児を3人産んでいます。
恋多き女性と言うことですね。
今なら週刊誌ネタがたくさんあったのでしょう。
そんな生活が影響したのか、歌い方に問題があったのかはわかりませんが、とにかくジュゼッピーナの歌手としての寿命は短かく、
その後は、ヴェルディの妻として彼の作品の創作に生涯協力していくことになります。
ところが妻のジュゼッピーナは、ヴェルディの故郷ブッセートという街では、人々の反発が強く、ブッセートを離れて農園のある田舎暮らしをすることになります。
華やかな生活を捨てて、田舎暮らしをするところは、椿姫と共通していますね。
ヴェルディの最初の妻はブッセートの娘で、病気で亡くなっているのですが、
ヴェルディは若いころから義父に経済的支援もしてもらっていたんですね。
だから街の人はジュゼッピーナに冷たかったわけです。
新しい妻は恋多き女性で、
しかも私生児を3人も産んでいるということで、街の人々の目は厳しかったのです。
その後結局二人は引っ越しすることになるわけです。
現代でもありそうな話で、時代が違い、大作曲家とはいえ、こういうことはあったんだなと思います。
と言うより、結構多いというか、プッチーニなども女性問題を起こしていますしね。
ジュゼッピーナは高級娼婦ではありませんが、でも椿姫の主人公となんとなく似ていますね。
余談ながら、
日本のオペラの椿姫という題が付いているのは、原作で主人公が自分の体調により、白い椿や赤い椿をつけていた(というか劇場の桟敷席に置いていた)ことからつけられたのですが
日本においては姫というと、白雪姫、親指姫、人魚姫など清純無垢なイメージがあります。
なので、この椿姫という題については最初の頃から、若干違和感を覚えてしまいました。
エッ高級娼婦!そういう設定だったの?お姫様のお話じゃなかったんだ…、という感じです
ラ・トラヴィアータという原語の題は、道を踏みはずした女ですしね。
違いすぎるでしょう、と思ってしまったわけです。確かに原作でも娼婦にしては気品のある女性だったとなっていますが。
椿姫の見どころと魅力
1幕の「乾杯の歌」はもっとも有名で見どころでしょう。
NHKのニューイヤーコンサートの最後でしばしば全員で歌うのはこの曲です。
何より一度聞いたら忘れない覚えやすいフレーズですね。
椿姫の中の曲だということは知らなくても
曲は知っている、聞いたことがあるという人が殆どではないでしょうか。
その他のアリアとしては
1幕のヴィオレッタが歌うアリア「花から花へ」とか
2幕でジェルモンが歌うアリア「プロヴァンスの海と陸」
3幕のヴィオレッタのアリア「さようなら、過ぎ去った日」など。
その他にも美しい二重唱が各幕にありますが、いずれも聞けばわかるかというとそこまで有名ではないと思います。
個人的には乾杯の歌の次に見どころだと思うのは、1幕のヴィオレッタのアリアではないかと思っています。
ヴィオレッタの歌はかなり長くて、もう終わりかなと思うとまだ続くという感じで、かなりボリュームがあります。
オペラを見ていると、大抵の歌手は2幕以降から良く声が出ることが多く、1幕冒頭から朗々と声が出るという人はあまりいないんですね。
そんな状況の中、椿姫の1幕のヴィオレッタのアリアは美しいけど長くて難しい。
それをいかにこなすかはまさに「歌手の力量の見どころ」ではないかなと私は思います。
また、2幕、3幕も演技力を要するので、ポピュラーな割りには椿姫のヴィオレッタという役は
難しい役柄だと思っています。
ヴィオレッタには、贅沢を言えば、ですが
- 強い声と、高く美しい弱音の両方を兼ね備えていて
- コロラトゥーラの技術と
- 見た目の美しさ、演技力があり
- 清純なだけではなく、妖艶さもできれば欲しい
ところです。
確かに言葉にすると難しいのですが、
実際には、みて感動するとこういう項目はどうでもよくなるのが本当のところかもしれません。
歌がすばらしいなら、容姿とか演技不足など
大抵のことはカバーしてくれるのがオペラではないかと思うので。
そして主人公ヴィオレッタの次に重要な役は、
恋人アルフレードの父親ジェルモンだと思います。
ジェルモンは怒りと苦悩と情といった複雑な心の変化を歌っていきますから、こちらもとっても難しい役どころだと思うんですね。
ジェルモンはベテランのバリトンが歌うことが多く、
ジェルモンを歌う歌手によって、オペラ椿姫の印象はかなり左右されるのではないかと思います。
まさに椿姫の引き締め役といったところでしょうか。
映画と日本の椿姫上演
椿姫はアイーダの演出でも有名なゼッフィレリ監督でオペラ映画も作られています。
主要なキャストは
- 椿姫役:テレサ・ストラータス
- アルフレード:プラシド・ドミンゴ
- ジェルモン:コーネル・マクニール
ドミンゴがかなり若い頃の映像です。
オペラ映画については、テレサ・ストラータスが魅力的です。
彼女はそれほど強い声ではないのですが、
美しさの中に奔放さ妖艶さ、そして寂しさがあって、清純無垢なだけではない感じが合っていると思います。
テレサ・ストラータスはとてもかわいらしい人で、
多くのオペラ映画に出ています。
道化師のネッダやリヒャルト・シュトラウスのサロメも演じています。
どれもちょっと通じるものがある役柄ですね。演技派なのだと思います。
彼女のネッダも良かったです。
発売されているDVDとしてはアンジェラ・ゲオルギュー主演の椿姫が出ています。
この時のジェルモンはレオ・ヌッチという有名なバリトン歌手です。
レオ・ヌッチは度々ジェルモンをやっているので、彼の当たり役の一つでした。
このDVDはイギリスのコヴェントガーデンというオペラハウスでの録音で、
ゲオルギューはこのDVDの指揮者でもあるショルティという人に見初められて有名になった人です。
ゲオルギューはルーマニア出身なのですが、センセーショナルに登場した時、ルーマニアの人はやっぱり美しいと思ったものです。
彼女の容姿やたたずまいからは娼婦という言葉はどうしても浮かばないのですが
陰影のあるビブラートが強めの声質は、ヴィオレッタの役に合っていると思います。
その後彼女はロベルタ・アラーニャという世界的なテノール歌手と結婚しています。(後に離婚しますが)
二人そろって有名なオペラ歌手のカップルの誕生は、
少し前のニコライ・ギャウロフ(バス)とミレッラ・フレーニ(ソプラノ)を思わせました。
2018年の秋には日本でローマ歌劇場の引っ越し公演がありました。
こちらは衣装もこだわった公演で、よかったです。
2019年はトリエステの引っ越し公演もありました。
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