今回はオペラ「ドン・カルロ」についてです。
ドン・カルロはジュゼッペ・ヴェルディが作曲したオペラなのですが、有名な演目であるにもかかわらず椿姫のように頻繁には上演されないんですよね。
話はすごくおもしろいし、見ればきっと感動すること間違いなしだと私は思うのですが、
そのくせ上演されない理由はグランドオペラであることと、ヴェルディには他にも名作がいっぱいあることじゃないかと思っています。
それでも初演から150年以上経った今でもなんだかんだ言って世界で上演され続けているのは
一度でもこのオペラを見たら、決して忘れられないほど印象に残るオペラだからだと思うんですよね。
一言で言うなら「ドン・カルロ」は心に深く感動をよぶオペラで、それは登場人物たちの人間としての尊厳や正義、そして愛と友情が深く関係していると思います。つまり壮大っていうのかな。
グランドオペラとして
- 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
- 初演:1867年パリオペラ座
- 原作:シラーの同名小説
ヴェルディはイタリアのオペラの巨匠で、オペラ界では知らない人はいないという作曲家なのですが
このヴェルディという人は生きていた当時から超有名人だったので、イタリアのみならず他国からの依頼でもオペラを作曲しているんですね。
例えば
「群盗」というオペラはロンドン王立歌劇場からの依頼で作られたオペラ、
「運命の力」というオペラはロシアからの依頼、
また「アイーダ」というオペラはエジプトからの依頼で作ったオペラなのです。
そしてヴェルディはフランスのパリ・オペラ座からも依頼されてオペラを作曲しており、その一つが今回のドン・カルロです。
なので、初演のドン・カルロはフランス語なのです。
オペラって何語でできているのかってそれだけ見ても意外におもしろいんですよね。
パリ・オペラ座というところはフランス語による上演にこだわっていたので、当時パリ・オペラ座で上演される演目はフランス語だったんですね。
時代的に19世紀中頃のパリ・オペラ座といえばグランドオペラの時代です。
このオペラはグランドオペラの形式で作られているわけです。
グランドオペラの特徴を一言で言うなら大掛かりなオペラといっていいでしょう。
5幕まであり、絢爛豪華なオペラの舞台、バレエもあり、壮大な合唱がありなど。
グランドオペラはとにかく上演するのに費用がかかり、それが廃れた原因の一つなのですが、
それは現代において上演されにくい要因にもなっているんですね。
しかしながらこのオペラはそんな上演の難しさを乗り越えていまも世界中で、それほど回数は多くないとはいえ上演されているオペラなのです。
それはひとえにこのオペラの魅力がそれだけ大きいということだと思うんですね。
ヴェルディのオペラとあって悲劇的な内容のオペラなのですが、
そこには登場人物の人間としての魅力が満載で、中でもポーザ侯ロドリーゴは正義感に満ちた深みのある人物でこのオペラの中心人物といってもよく
個人的には数あるオペラの中で、「最もかっこいいバリトン役」じゃないかと勝手に思っています。
原作と複数の版
原作は文豪シラー
そんなドン・カルロの原作はドイツのシラーという作家です。
シラーといえば一番有名なのはたぶんベートーベンの第九じゃないかと思います。
歓喜の歌と言われている部分ですね。
第九の第4楽章の歌詞はシラーの詩が元になっているのです。
それ以外にも実はオペラの世界ではシラーの作品は意外に多くあって
- オペラ:オルレアンの少女(チャイコフスキー)
- オペラ:ウィリアム・テル(ロッシーニ)
- オペラ:群盗(ヴェルディ)
- オペラ:ルイザ・ミラー(ヴェルティ)
- オペラ:ジャンヌ・ダルク(ヴェルディ)
など。
チャイコフスキーのオルレアンの少女とヴェルディのジャンヌ・ダルクは、どちらもジャンヌ・ダルクを扱ったオペラで、原作は同じシラーの作品なんですよね。
これについてはヴェルディよりチャイコフスキーのオペラの方(オルレアンの少女)が有名かも。
というわけで、ロシアオペラにはよくプーシキン原作の作品が出てくるように
シラーの作品もオペラには結構たくさんあるのね、と思いました。
ドン・カルロはいくつかの版がある
オペラというのは、作曲家が生きているうちに書き直したために、いくつかの版があるオペラが少なくありませんが、ドン・カルロもその一つです。
最初に作ったのがパリ・オペラ座用の5幕からなるフランス語のドン・カルロ。
その後イタリア語にして、4幕にした改訂版はミラノのスカラ座で初演されましたが、
日本で上演する時は、このイタリア語4幕版もしくはイタリア語の5幕版ではないかと思います。
ただし、イタリア語の5幕版というのは初演のフランス語版をイタリア語に訳しただけのものではなく、あちこち改定されたものです。
実際の上演を見て作曲者自身があれこれ直したくなるのも考えてみたら当然ですよね。
おそらく細かいところをいえばキリがないんじゃかと。
というわけで、ドン・カルロの公演を観るときは、
- 何語(イタリア語かフランス語か)による上演なのか
- 4幕までか5幕までか
というのをちょっと気にして見るとおもしろいのではないでしょうか。
上演時間・簡単あらすじと見どころ
上演時間
版がいくつかあるのですが、リコルディ社の5幕版です。
- 第一幕:約25分
- 第二幕:約50分
- 第三幕:約35分
- 第四幕:約50分
- 第五幕:約25分
正味優に3時間以上の時間がかかる上に、第二幕〜第四幕は各々1場、2場と場面が変わるので、
上演するには本当に大変なことだと思いますが、それこそがグランドオペラなんだなとも思います。
簡単あらすじ
時は16世紀のスペイン。
皇太子ドン・カルロの愛する婚約者が、こともあろうに父王の妻となることに変更というショックな運命から始まります。
義理の母になってしまったエリザベッタへの思いを断ち切れないドン・カルロ
これに新教徒の弾圧をめぐる政治問題が絡み、
カルロは父を裏切ることになってしまう。
新妻に愛されず、息子にも裏切られたカルロの父スペイン王フィリップ2世の苦悩と、
カルロと固い友情で結ばれながら、父王にも厚い信頼を向けられるロドリーゴの勇気と苦悩、
それにエボリ公女の嫉妬もからみ、壮大なストーリーになっています。
見どころ
このオペラには人間味あふれる情の厚い人物が多く、特にそれはロドリーゴ役のバリトンとフェリペ二世役のバス。
何しろこの二人がかっこいいのですが、それはその上演にもよると思います。
ドン・カルロが本来タイトルにもなっているくらいですから、彼の演技と歌も見もの。
そしてエボリ公女はオペラの三大悪女にも選ばれるような役ですが、
最終的には自分の犯したことを悔いるという救いのある役でもあり、これも重要な役どころで注目したい役です。
また、皆を死に追いやる宗教裁判長というバス担当の役がかなり不気味で、このオペラの実は最も悪役です。
最後のカルロ5世の墓が開くシーンはどんな演出になるかも楽しみ。
墓が開くとか、何かが倒れるといったあたりはスペクタクル性を好むグランドオペラならではという感じがします。
個人的にはやはりロドリーゴが最も好きなので、
他のオペラをみていて素晴らしいバリトンに出会うと、ついついこの人がロドリーゴをやったら合うんじゃないかなんて思ってしまいます。
オペラは同じ演目を劇場でなんども観ることはなかなかできないので、一生かかっても全く時間が足りない趣味だと常々思っていますが
中でもドン・カルロは見たいのになかなか見られないオペラの一つです。
でも時々珍しいオペラの公演があるとワクワクしてしまうので、それもオペラの楽しみの一つだと思いますね。
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