ドニゼッティ作曲のオペラ「ルグレッツィア・ボルジア」についてです。
ルグレッツィア・ボルジアというのは女性の名前で実在の人物。
ボルジア家というのはローマ教皇を輩出している名門貴族でした。
オペラ「ルグレッツィア・ボルジア」の原作はレ・ミゼラブルを書いたヴィクトルー・ユーゴーなのですが、
私が気になったのは、数ある歴史上の人物の中でなぜこの人なのかという点。
そこでボルジア家についてちょっと書いてみます
物語に毒薬がしばしば使われるのもこのオペラの特徴です。
ボルジア家と毒薬
ローマ教皇というのはキリスト教の最高の地位にいる聖職者ですが、
世界史をちょこっとかじった人なら、ローマ教皇や枢機卿(枢機卿っていうのはローマ教皇を補佐するような役です)の腐敗とか堕落した記事があったというのを記憶している人もいるのではないでしょうか。
後の宗教改革を引き起こすことになるわけですよね。
時期で言うとルネッサンス期で、15,16世紀ごろのこと。
中でもひどかったのがアレクサンドル6世というローマ教皇で、元の名前はロドリーゴ・ボルジア。
アレクサンドル6世は、贅沢で浪費家、好色で強欲、賄賂と買収は当たり前という品行の悪さで、息のかかったものを枢機卿に配置し、軍事力まで持ち、不要な人物はしばしば毒殺したという
腐敗と堕落の典型といわれるローマ教皇だったのです。
このアレクサンドル6世と愛人との間に生まれたのがルグレッツィア・ボルジア、
このオペラの主人公なわけです。
当然ながらルグレッツィアは勢力拡大のための政略結婚に使われ、39歳で亡くなるまでに3度の結婚をしていますが
その相手はミラノの王の息子だったり、次はナポリ王の息子だったり。
つまりボルジア一族はイタリア全土の征服をもくろんでいたということらしいのです。
また、ボルジア一族はしばしば毒で用のない人物を毒殺したともいわれ、
ルグレッツィアの夫も用が無くなると兄により毒殺されたらしいと。
何かと毒という文字が出てくるのもボルジア家の特徴なんですよね。
ルグレッツィアは毒の入った指環を持っていたともいわれるのですが
ピントゥリッキオというルネサンス期の画家が描いたルグレッツィア・ボルジアの絵をみると、
左の中指に右手を添えるしぐさは、確かにまるで毒の入った指環を外そうとしているようにも見えるんですよね。
ルグレッツィアについては、生まれが生まれだけに運命を翻弄されたかわいそうな面と、時にローマ教皇の代理としてふるまったという驕り高ぶった人物像など
見方によっていろいろのようなのです。
時代もそれだけさかのぼると、そんなものかも、いろんな見方ができますよね。
そしてオペラの「ルグレッツィア・ボルジア」はどうかというと、
怖いけど苦悩の女性であり母というところ。
自分の息子なのに母だと名乗ることができず息子は毒で死んでしまいます。
オペラでルグレッツィアは毒消しも使いますが、それもむなしく最後はやはり毒で…。
オペラはどちらかというとルグレッツィアに好意的な内容かなと思いますね。
ユーゴーの原作で一悶着
このオペラの原作はヴィクトル・ユーゴー。
ヴィクトル・ユーゴーといえばレ・ミゼラブルとかノートルダム・ド・パリを書いたフランスの文豪で
ルグレッツィア・ボルジアという作品(戯曲)ができたのは1833年でユーゴーが31歳の時の作品です。
ちなみにレ・ミゼラブルを書いたのはもっとずっと後で60歳の時。
ルグレッツィア・ボルジアのオペラ初演が1834年なので、戯曲が発表されたばかりのオペラ化だったわけです。
オペラ「ルグレッツィア・ボルジア」にはいろんな言語版があって、
初演はスカラ座初演でイタリア語だったのですが、その後フランス語版、英語版ができています。
フランス語版については著作権をめぐって原作のユーゴーとの間で問題も起きています。
当時まだまだ著作権がそれほどうるさく言われなかった時代ですがフランスでは比較的早くから著作権制度が出来上がりつつあったといわれるんですよね。
そんな状況とユーゴーの主張もあって、フランスでは上演禁止、題名も「裏切り者の女」に変更、舞台もイタリア→トルコに移動というひと悶着もあったオペラなのです。
31歳にして権利を勝ち取るユーゴーもなかなかのものなのかも。
もっともユーゴーの作品はその後ヴェルディもいくつかオペラ化していて
- エルナーニ
- リゴレット
など。この時はどうだったんでしょうね。
さて、ボルジア家についてはオペラに限らず映画や舞台、ドラマなど様々なものに取り上げられています。
「愛と欲望の教皇一族」とか「ボルジア家の毒薬」とか、題名からもなんとなく予想できるボルジア家という存在。
そして宝塚にもなっているんですよね。
宝塚の題は「チェーザレ・ボルジア野望の軌跡」。
チェーザレはアレクサンドル6世の息子にしてルグレッツィアの兄。
イタリア統一の野望を抱く若者として描かれているのでこちらはかなり美化しているかな。
オペラ「ルグレッツィア・ボルジア」も実在の人物だけど史実にはない物語としてみたほうがいいと思います。
上演時間と簡単あらすじ
毒薬を頻繁に使用したとされるボルジア家だけに
このオペラには毒薬が大きな鍵となっています。
<簡単あらすじ>
ジェンナーロは漁師の子供として育ったのですが実はルグレッツィアの息子。
たまたま宮殿であった二人、身の上を聞いた母ルグレッツィアはジェンナーロが自分の息子であることに気づくのですがそれを言うことはできません。
ジェンナーロはボルジア家の紋章に傷をつけてしまうが、誰がやったか知らないルグレッツィアは犯人を死刑にすると。
ところが連れてこられた犯人がジェンナーロだったため、彼を助けるよう夫に懇願します。
しかし夫は二人が恋人同士だと勘違いしていて、それを許さないので、
仕方なくいったん毒を飲ませられたジェンナーロにルグレッツィアは毒消しを飲ませます。
せっかく生き延びたにもかかわらずジェンナーロは再びとらえられてまた毒を飲むされることに。
再度母ルグレッツィアは毒消しを飲むよう勧めますが、一人分しかないため友人を思いジェンナーロは飲むのを拒みます。
最後に思い余って本当の母であることを明かしますが、時すでに遅くジェンナーロは死んでしまいます。
というあらすじ。
ボルジア家の堕落というより、ルグレッツィアの母の苦悩というところに焦点があてられたあらすじだと思います。
有名なのは最後の
「この若者は私の息子でした」のアリア。
ドニゼッティなので、ランメルモールのルチアのようなアリアです。
ルグレッツィア・ボルジア役は少し前、モンセラート・カヴァリエが当たり役でしたが、
その後はサザーランド、グルベローヴァ、最近だとマリエッラ・デヴィーアなどが歌ってますね。
台本はフェリーチェ・ロマーニという人で、
愛の妙薬、アンナ・ボレーナ、それにノルマも書いているんですよね。
つまり当時の売れっ子台本作家だったということ。
日本ではあまり上演されないけど、一度は生で見たいオペラですね。
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