影のない女/リヒャルト・シュトラウス

R・シュトラウスとホーフマンスタール

今回はリヒャルト・シュトラウス(R・シュトラウス)の「影のない女」というオペラについてです。

影がないってまずなんだろうって思います。

これについては最後までわかったようなわからないようなちょっと不思議なオペラです。

これは私の勝手なイメージなのですが、R・シュトラウスのオペラが好きという人は音楽家かそうでなければかなりオペラ通なのかなとそんな気がしています。

私にとっては難しいと感じる作曲家で、正直なところ気軽に見られるタイプのオペラではないからです。

なのでこれが好きっていう人はすごいなあとちょっと思いますね。

ただR・シュトラウスの中で「ばらの騎士」だけは別で、あれは好きです。「エレクトラ」になると正直よくわからないです。

影のない女は、ストーリー的にはちょっとおとぎ話風でもあります。

でもそこはR・シュトラウスなので音楽が重厚で、歌手も声量のある人が歌うことが多いと思います。

なのでおとぎ話の雰囲気は全くなく‥。「影影‥」っていったい何を言ってるんだろう、「影を取る」って影が子供になるっていうこと?など、不思議なオペラだと思います。

特に染物屋の女房については申し訳ないのですが、叫んでいるようにしか聞こえず、オペラを見始めた頃のオペラの印象ってこれだったよねえ、と思ったりしたのでした。

お話としては霊界の大王の娘と人間界の皇帝の夫婦愛、それに人間同士の夫婦という二組の夫婦がでてきます。

あと、このオペラを聴いていると「ワーグナーの影響を受けているんだなあ」というのを素人ながらに感じてしまいます。

ところどころワーグナー?と思うような音楽が出てくるし、人間界と霊界が出てくるところはやっぱり「ニーベルングの指輪」を思い出しちゃいますね。

ニーベルンゲン叙事詩とワーグナー

さて、この影のない女というオペラの初演は

  • 作曲:R・シュトラウス
  • 初演:1919年
  • 場所:ウィーン国立歌劇場
  • 台本:ホーフマンスタール

です。

ここで注目したいのが台本のホーフマンスタールという人です。

R・シュトラウスの作品にはこの人の台本がとても多いです。

私の好きな「ばらの騎士」もその一つ。そのほかに「エレクトラ」「ナクソス島のアリアドネ」「アラベラ」などなどいろいろあって、

R・シュトラウスといえばホーフマンスタールかなと思うくらい多いです。

ホーフマンスタールが先に亡くなっちゃうんですけどずっと一緒に仕事している、そんな印象です。

オペラの中には台本がいまいちっていうものもかなりあります。

有名なオペラって必ずと言っていいほど台本も良いと思うのですけど、このオペラも音楽は難しいけどお話の流れはわかりやすいって思います。

さらに余談ですけどこのホーフマンスタールっていう人はオーストリアの生まれなのですが(R・シュトラウスはドイツ生まれ)、ザルツブルク音楽祭の戦後の開催第一回目の舞台がこの人の作品。

夏のこの音楽祭は世界的に有名なのですが、その第一回がこれだったのねというのも私には興味深いというか、さすが音楽の国だなあとそんなことも思いました。

影のない女あらすじ

3幕までありますが、各1時間以上かかるので、正味3時間以上で休憩を入れると4時間以上になるので、かなり長いオペラです。

ただ、最近は2幕の途中で分けて2部にするなど、あまり長くならない公演もあるようです。

では簡単あらすじを。

子供が授からない二組の夫婦が軸になります。

霊界の大王カイコバートの人間の皇帝と結婚して今は皇后になっているという設定から始まります。

二人の出会いはオペラの中でも説明されますが、

鹿に化けていた娘を皇帝が捕まえると、鹿は美しい人間にもどって皇帝は一目惚れ(さらにいうとエクスタシーを感じ)して結婚しており、皇帝の娘への愛情はかなり深いです。

ところが二人にはなかなか子供ができません。冥界の娘にはもともと影がないからです。

子供ができなければ皇帝は石になる運命でその期限はあと3日だけ。二人に子供ができるためにはどうしても影が必要で、それを得るためには人間の女性から影を奪わなければいけないのです。

その標的になったのが染物師バラクとその女房。

この二人にもなかなか子供ができないでいます。

いかにも貧しそうな家で、バラクは人が良さそうだけど、女房は子供もできないし夫と今の生活に嫌気がさしています。

そこに皇后と乳母が降りてきて女房に対して「良い暮らしができるから」「良い男と遊べるから」その代わり影が欲しいと誘惑するわけです。

そしてバラクの女房は誘惑に負けて、影を失ってしまいます。

しかし女房は夫を裏切りきれず後悔し、バラクもそんな妻を慰めるのです。

一方心優しい皇后は影を得ることができる状況になっているのですが、他人の幸せを奪ってまで影を得ることがどうしてもできません。

かといって夫である皇帝はすでにほぼ石になりつつあり、皇后は悲嘆にくれて一緒に死にましょうといい、生命の泉(影が得られる水)を飲もうとしません。

するとそのとき泉は止まり、皇后の美しい心で全てが救われます。

バラクと女房も救われ、遠くからはこれから生まれてくるであろう子供たちの「早く私たちを世に出して」の声が聞こえてくるのです。

そんな簡単あらすじです。皇后の美しい心で救済されるところはワーグナーのさまよえるオランダ人や、タンホイザーをちょっと思い浮かべちゃいますね。

影のない女見どころ

R・シュトラウスの音楽は全体にとても重厚。

そして私にとっては聞きにくいと感じるところととてもすんなり入ってくるところがあります。

全体としてのイメージは不思議とオーケストラだけの演奏の時は聞きやすく、歌手の歌の時は難しく感じるのはなぜなのか…私だけかもですが‥。

まず第一幕1場の最後のオーケストラだけのところはとても聞きやすくて好きなところ。

設定はおとぎ話風でもありますが、「12ヶ月間皇帝は毎夜かかさず彼女の元に訪れて求めている」とか「初めて会って絡みつかれて恍惚感を感じた」とかかなりきわどい表現があるなあというのはオペラにしてはちょっとおもしろいところ。

まあサロメを作ったR・シュトラウスなのでそうかなとも思います。

第一幕2場バラク家のシーンで夫婦の会話の途中の音楽もすごくよくて見どころ聞きどころ。

一方同じ場のバラクの歌は感動的。妻への思いが伝わってきて、ちょっとトリスタンとイゾルデの官能的な旋律を思い出します。

バラクの女房が乳母に幻を見せられるシーンも音楽が美しく、そして演出も見どころ。

乳母が「魚よ鍋に入れ!」「火よ、起きよ」「ベッド現れよ」と呪文をいうところは急におとぎ話風でこちらもブンブンとなる低音の音楽がおもしろく、演出も見どころ。

おとぎ話風なストーリーなので、全体にどんな演出になっているかは見どころで、地味にも派手にもできると思うので注目かな。

第三幕の霊界の場面などもどんな舞台にするのか楽しみな見どころだと思います。

第二幕1場は女房の歌がとても多く大変なのだと思うものの、ここはどうしても叫んでいるように私は聞こえてしまう‥。

一方で第二幕1場の最後にみんながバラクを讃えるところはとても良い音楽なので見どころ聞き所。

第二幕2場は物悲しい弦楽器の響きがなんとも切ない予感。鷹なのか鳥らしい声もします。そして皇帝の「再び見つかった鷹よ‥」はまたまた良い曲なのでおすすめ。皇帝の苦悩を感じます。

第二幕5場の「いつも平然としている人間がいる」もこのオペラでは注目したい歌で見どころ聞き所。

第三幕になるといったいどうなるのかとおそらくオペラにのめり込んでしまうと思います。どんな演出なのか、もっとも注目したいところです。

そして美しい夫婦の愛情のお話なんだなとほんわかした気持ちになるのか、影って何?もやもやした感じで終わるのかその辺もおもしろみじゃないかと思います。

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