コシ・ファン・トゥッテは、モーツァルトの中でも人気のオペラブッファです。
ダ・ポンテ三部作と言われる、モーツァルトの人気演目の一つでもあります。
ダ・ポンテというのは台本作家の名前です。
成り立ちと初演
- 作曲:モーツァルト
- 初演:1790年
- 場所:ウィーン・ブルク劇場
(ブルク劇場は今も残っています)
成り立ち
コジ・ファン・トゥッテは、モーツァルトが35歳で亡くなる前の年の作品です。
モーツァルトが34歳の作品。
この作品がつくられるきっかけとなったのは、当時の神聖ローマ皇帝ヨーゼフ二世の言葉でした。
モーツァルト作曲のオペラ・フィガロの結婚を見たヨーゼフ二世が、第一幕でドン・バジーリオが歌うセリフ
「女はみな、こうしたもの」(コジ・ファン・トゥッテ)という部分をみてモーツァルトに、
この言葉をテーマとして次のオペラを作るよう、言ったことがきっかけでした。
おそらくヨーゼフ二世はこの言葉に共感、または思うところがあったのでしょうか。
ヨーゼフ二世はマリア・テレジアの息子、つまりマリー・アントワネットの兄弟にあたる人です。
このヨーゼフ二世という人は、当時音楽はイタリアに限るという風潮が強かった時代に
ドイツ人の音楽やドイツ人のモーツァルトを庇護した人でもあります。
成り立ちのきっかけとなったフィガロの結婚のドン・バジーリオというのは音楽教師の役で、メインのキャストではありませんが、
「女はみなこうしたもの」とか、「長いものには巻かれろ」というような、
教訓めいたことを言うキャラクターです。
フィガロの結婚もそうですが、ダ・ポンテの作品は、
個々の登場人物の個性が立っているところが、モーツァルトのオペラをおもしろくしている所以の一つではないかと個人的には思っています。
ダ・ポンテの台本
ダ・ポンテ三部作と呼ばれるものは
で、この三つのオペラをさして言います。
いずれも、台本はイタリア生まれのロレンツォ・ダ・ポンテが担当していて、
モーツァルト同様、ヨーゼフ二世にかわいがられていました。
モーツァルトのオペラの中でもダ・ポンテが台本を書いたこの三部作はもっとも人気があり、
世界中で、今もなお上演され続けているオペラなんですね。
このダ・ポンテという人ですが、まじめで実直というような性格ではなかったようで、
ヴェネチアで聖職に付いていたにもかかわらず放蕩三昧の生活をし、
女性問題で、ヴェネチアから追放されてしまっている人です。
そんなタイプですから、モーツァルトとのオペラが成功するとさらなる栄光を夢見ていたのですが
彼をよく思わない人も多くいて
庇護してくれていたヨーゼフ二世が死去すると、急に周りはダ・ポンテに冷たくなります。
その後しばらくロンドンにいますが、元来人が良いのか、
今でいうところの、他人の保証人になってしまったため金銭のトラブルから牢屋にも入れられた台本作家です。
そしてその後逃げるようにアメリカへ渡ります。
その後イタリア語やイタリア文学をアメリカに広めることに、多少貢献したものの、
ダ・ポンテ三部作などと言われる割には、生きている当時は不遇な台本作家だったのかなと思います。
音楽と台本の世界では、後の世で価値が見直されるということがよくある気がします。
ヨーゼフ二世の死去
ヨーゼフ二世の依頼によって作曲することになったコジ・ファン・トゥッテでしたが、
ヨーゼフ二世はその初演を見ていません。
なぜなら、コジ・ファン・トゥッテの初演は1790年の1月なのですが、
その翌月2月には、ヨーゼフ二世は病のため死去しているんですね。
亡くなる1ヶ月前はオペラ鑑賞ができるような健康状態ではなかったのでしょう。
ヨーゼフ二世が死去したことも影響して、コジ・ファン・トゥッテは当時10回ほどの上演で終わってしまいました。
その後長きにわたり、特にイタリアではあまり上演されることがなかったようなんですよね。
ヨーゼフ二世が依頼したのに初演を見られずに死去したという因縁のオペラだったからなのか、
それとも、やはりドイツ人が作ったオペラだからなんでしょうか。
ちなみに初演の1790年といえば、1789年に勃発したフランス革命の真っ只中の頃。
そんな世情の中だったからということもあったのかもしれません。
のちに、ヨーゼフ二世の妹マリーアントワネットはギロチンで殺されてしまいますが。
ヨーゼフ二世も、病で亡くならずともフランス革命で生き延びることはできなかったかもしれません。
上演時間とあらすじ
上演時間
コジ・ファン・トゥッテの上演時間は
- 第一幕:約85分
- 第二幕:約85分
1回の休憩を入れて3時間半弱程度になります。
2幕しかない割には長めのオペラと感じるかもしれませんが、
ダ・ポンテの台本とモーツァルトの音楽なので、
それほど長さは感じないのではないでしょうか。
あらすじ
コジ・ファン・トゥッテのあらすじは、女性がいかに浮気心を起こさず、貞操を守るかを恋人が試す物語です。
主な登場人物は二組のカップル。
- フェルランドと、その恋人ドラベッラ
- グリエルモと、その恋人フィオルディリージ
それに加えて、あらすじのキーマンとなるのが老哲学者のドン・アルフォンソ。
そして、浮気をたきつけるなどちょろちょろと周りで動いているのが女中のデズピーナ。
そもそもの発端は、ドン・アルフォンソの「女性は心変わりするものだ」という言葉から
二人の男性が、自分の恋人に限って絶対そんなことはない、
じゃあ賭けよう!ということで始まります。
二人の男性は、変装してお互いの恋人に言い寄ることに。
最初は、拒んでいた女性達でしたが結局は気がよろめいてしまい‥。
でも、最終的にはそれをわかった上で仲良くやればいいじゃないと
楽しく終わるあらすじです。
フィガロの結婚では、ドン・バジーリオが教訓めいた言葉をいっていましたが、
コジ・ファン・トゥッテでは、代わってドン・アルフォンソがその役回りです。
これは、今の時代にも十分通じる教訓かと思うのですよね。
と言うより、女性に限らず男性も同じではないかなと思うのですがどうでしょうね(笑)。
見どころ
オペラブッファなのでやはり楽しむのが一番。
生き生きとした序曲はまず見どころの一つでしょう。
物語の中の旋律も出てきているので序曲をよく聞いておくと良いかもしれません。
また、二人の男性が外国人に変装してお互いの恋人に言い寄るところは、
演出にもよりますが、どんな格好をするのかどんな風に言い寄るのかがおもしろく見どころでしょう。
また、最初は頑なに拒んでいた二人の女性もかなりちゃっかりしている部分があり、
その辺の演技も見どころです。
ちゃっかりといえば女中のデズピーナもいい感じで、ちょろちょろと動いていますね。
このオペラはアンサンブルが多いのが特徴なので、
モーツァルトの美しく軽やかなアンサンブルを聞くのも見どころ聞きどころです。
コジ・ファン・トゥッテは、他愛のないあらすじのオペラですがなかなか言っていることは的を得ている気がします。
どんなに好きでも、愛情というものは3年で一度冷めるとか‥ね。
それをわかった上で、お付き合いしていけばずっと仲良く過ごせるかもしれません。
また、ドン・アルフォンソが、
「大げさに泣いたり、悲しんだりする女ほど心変わりが早い」
というくだりはちょっと笑えるところで、なるほどそうかもと思ってしまいます。
そんな細かいところも気にして見てみると、
コジ・ファン・トゥッテの楽しい見どころになるのではないでしょうか。
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