ジョン・ゲイの乞食オペラ(ベガーズオペラ)を見てみました。
今回このオペラを見てみてちょっと衝撃でした。
乞食オペラは1728年頃にイギリスで爆発的に流行したのですが、オッフェンバックの天国と地獄みたいな感じなのかと単純に思っていました。
くだけた台詞が多いオペレッタみたいな感じなのかなと。
ところが実際に見てみると、天国と地獄よりかなり言いたい放題というか、皮肉たっぷりの風刺オペラです。
登場人物は社会の底辺の人たちだし、盗み・だましが仕事といういわゆる荒くれ者の集まりで、台詞もオペラとは思えないようなセリフ。
それなのに音楽はきれいなバロック音楽なんですよね。
ヘンデルはこのオペラのせいでオペラを作らなくなった?
ヘンデルのことを読んでいると必ず出てくるのがこの乞食オペラ(ベガーズオペラ)のことです。
ヘンデルってドイツ生まれで→イギリスに渡って→イギリスでイタリアオペラを広めた人っていう大まかな感じだと思うんですけど
パタッとオペラを作らなくなるんですよね、その時期とこの乞食オペラ(ベガーズオペラ)の人気の時期が確かに同じ頃なのです。
18世紀前半のことです。
オペラ関係の書物って、どれを読んでもわりと上品に書かれているんですよね。
たぶん上品な人が書いているのかなあって思っているんですけど。
そのせいか何でもかんでも上品な感じに思えてしまいます。
だから乞食オペラについても、ちょっと庶民的なオペラが出てきたのかなっていう程度に思っていました。
「庶民的なベガーズオペラの人気が出てくると、ヘンデルのオペラは次第に人気がなくなり・・」
っていう具合にやんわり書いてあるわけです。
でも実際に乞食オペラを見ると、
これはオペラセリア(イタリアオペラ)にはっきりいって喧嘩をふっかけてるよねと思いました(笑)。
乞食オペラ(ベガーズオペラ)を見ると、当時のイタリアオペラ(オペラセリア)がどんな風だったか、どんな特徴があったのか、どう思われていたのかっていうのもよくわかるんですよね。
っていうか正直言ってそんなにまでオペラセリアはイギリスでは毛嫌いされていたのかと改めて思いました。そういう意味でもすごくこのオペラはおもしろい。(おもしろいと言っちゃうと語弊があるかもですが‥)
乞食オペラは最初と最後に序幕(口上)と、最後にも役者と乞食の台詞があるんですけど、そこからすでにイタリアオペラの揶揄がはじまっていて
- 当世の名高いオペラ(イタリアオペラのこと)には決まって登場する比喩の表現は入れてるよ
- ご婦人方が大好きな牢獄のシーンもちゃんと入れてるよ
などのせりふがあって。
だからこれだってちゃんとオペラだぞ!って言ってるんですよね(笑)。
こっちの方がおもしろいぞっていうところだと思います。
ちゃんと3幕仕立てにしているところも当時のオペラの幕数に合わせたらしいです。
そしてこうも言ってるんですよね。
- だけど目下流行のイタリアオペラと違ってわざとらしく仕立てるのはやめた。
- レチタティーヴォは入れずに台詞にしたよ。
と。確かにオペラセリアって、結構ワンパターンで必ず偉い王が徳を見せて最後はめでたしめでたしっていうストーリーが多くて、のちにイタリアでも飽きられていくんですよね。
異国のイギリスではなおさら受け入れられなかったんだろうなあと。
ちなみに比喩の表現っていうのは4つ目のアリア(歌)とか6個目のアリアがそうで
4個目のアリア→若い未婚の女性を「蛾」にたとえて無邪気に炎と戯れているうちに名誉が焼け焦げる。(そもそも蛾に例えることに毒気を感じる‥笑)
6個目のアリア→これも若い娘を花にたとえて、
今を盛りと咲き誇るが、花を巡ってミツバチや派手な蝶々が飛び回り、摘まれたらもうおしまい、コヴェントガーデンに送られてみる影なし。
っていう感じです。いずれも若い女性の身持ちのことを言ってるんですけど、毒気を感じるとともに比喩がなかなかおもしろいなと思ってしまう‥。
ちなみに、なんでコヴェントガーデンなの?コヴェントガーデンといえば名門オペラハウスがあるじゃないって私などは思うのですが、当時は娼婦の溜まり場だったのだとか。なるほどね。
ちなみに乞食オペラの内容って最後に絞首刑がなぜか免除になるんですけど、それについて最後にエピローグみたいなのがあって
- オペラはハッピーエンドって決まってるんだ、だから物語の進行がいかに荒唐無稽だろうと全然構わないだろう!
って言ってるのもオペラセリアへの完全な当てつけなわけで、そこまで当時のイタリアオペラってイギリス人の鼻につく存在だったの?と思いましたね。
そして上層階級への皮肉も多くて
- 上層と下層の人間の行いはすこぶる似てる!どちらも追い剥ぎのような真似をしてる。
- 下層の人も金持ち同様悪徳に染まっているけど結果として下層の人はちゃんと立派に?(笑)罰を受けてるよ
っていうような社会風刺もあるんですよね。結構痛烈です。
イタリアオペラへの反感も多分こんな感じかな↓
「何よ、あのイタリアオペラって、イギリスでやるのになんでイタリア語なの!
有名だかなんだか知らないけどなんでわざわざイタリアの歌手を呼ぶの
しかもバカみたいに高額な報酬を払って!
イタリアオペラときたら毎度王とか君子とか出てきて徳がある、ありがたやーみたいなハッピーエンドに無理やり話を持っていくし、あれはなんなの!とか、
イタリアオペラがそんなに偉いのか!」
みたいなね。そんな感情があったのかなかったのか。
これらはほとんど私の想像の言葉です‥笑
乞食オペラみたいなオペラが人気になってしまうと、そりゃあヘンデルはオペラを作りにくくなるだろうなと思いました。
だって、作ったらこのオペラみたいに速攻パロディ化されそうですもん。
乞食オペラって音楽はパクリだった
というわけで乞食オペラって上に書いたような辛辣な序幕から始まるんですよね、
で、台詞がやたら多いので、これって歌芝居かなって思ってると音楽がやたらに美しいのです。
あれれ?ちゃんとしてる‥みたいな感じです。
泥棒、殺人、娼婦、毒をもる、絞首刑‥などなど掃き溜めみたいな人たちの話だし言葉は汚いし、というか正直下品なんですけど
アリアになると途端に上品になっちゃって、オペラだわ!と思ってしまいます。
ただ、やけにアリアが短いです。短いから聞きやすいというのはあるかもですが。
で、わかったのは乞食オペラって当時のオペラセリアの音楽をパクって作っていたらしいんですよね、ヘンデルとかの。
だから音楽が美しいわけなのです。
美しい音楽に替え歌で俗っぽい歌詞をつけたっていうところかな。
当時は著作権とか無い時代だから、そういうこともあるんですねえ。
今では考えられないことですが。
ちなみに私が見た作品では主役のポリーやマックヒースはオペラ歌手がやっていて
父と母は普通の俳優さんかなという人たちが演じていました。
つまりオペラ歌手と普通の俳優さんが混在。
このオペラはそういうやり方もありだと思いました。
このやり方だとオペラ歌手の歌がすごく映える感じはしますね。
全員俳優さんでミュージカル形式でもできるし、全員オペラ歌手でもできるしいろいろできそうなオペラではあります。
個人的には混在がおもしろいなと思いました。演技力もすごく必要だと思うから俳優さんがいるというのはやはり演技のうまさが魅力ですよね。。
オペラって後宮からの逃走で「歌が無い役」に俳優さんを起用したりすることはあるけど、歌もありで俳優さんを使うオペラってそんなにないんじゃないかな。
明らかに歌唱法が違うので歴然と違いがわかると思うんですけど、それがまたおもしろいというか。
というわけでざざっと書きましたけど、乞食オペラには、これはなん百年経った現在も同じだよねと思える辛辣な台詞が多くて、それも個人的にはおもしろいです。
長くなっちゃうので、それは別にしますね。
乞食オペラは、オペラセリアをいくつか見た後に見るとよりおもしろいような気がします。(特に前口上と最後のところは。)
とはいえ、それ以外は男女の三角関係とか絞首刑っていう本来暗いはずの話が、やたら明るくなっているので、楽しめるオペラだとも思います。
アリアが短くて聞きやすいのもいいですね。
荒っぽい言い方ですけど、まずは乞食オペラは下品と上品のアンバランス(笑)を楽しむといいんじゃないかなと思っちゃいました。
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