好きなオペラは?と聞かれると、迷うことなく
「ベッリーニのノルマ」と答えていた時期がありました。
現在は他のオペラもいいので、一つに絞れなくなっていますが‥。
ただ、ノルマを初めて見た時の感動はやはり特別でした。
こんなにも高貴で優美なオペラがあったとは‥
そんな感動です。
そしてそれは今も変わりません。
アリアが美しいオペラは数多くありますが、最初から最後までずっと美しいオペラは、やはりノルマかなと思います。
ベッリーニのオペラ
ノルマを作曲したベッリーニという人は、34歳という若さで病で亡くなっています。
ショパンは、ベッリーニの影響を受けたと言われているのですが
二人の旋律はちょっと似たような雰囲気を感じます。
ショパンの音楽も繊細で美しいですよね。
そのショパンも残念ながら30代で亡くなっています。
さて、それでもベッリーニは生前に11個もオペラを作りました。
現代のイメージだと34歳までに11個ものオペラを作ることは、すごいことだと思うのですが、
当時としてはペースが遅い方で
ロッシーニやドニゼッティに比べるとじっくりオペラを作るタイプだったんですね。
そんなものか‥と思います。
ベッリーニの時代はテレビもラジオもインターネットも無いので、劇場で見るオペラは、
現代よりも多く、次々と作られていたということかもしれません。
現代とは、全く違うわけです。
ベッリーニの11個のオペラのうち現代よく上演されるのは
- ノルマ
- 清教徒
- 夢遊病の女
あたりだと思います。
と言っても日本で上演されるようになったのは、比較的最近のことだと思います。
この中でノルマはベッリーニが自ら
「すべてを無くしてもノルマは残したい!」
と言ったほど、思い入れが深い作品だったんですね。
そして、私も
「ノルマが残ってよかった」って思います(笑)
ところがノルマの上演というのは、上にも書いたように必ずしも多くはなかったんですね。
私がノルマを生で見たいと思ってから一体何年待ったことでしょう。(日本ではなかなか上演されなかったですね。)
それは歌える歌手がなかなかいないということがありました。
ノルマを歌う歌手達
ノルマに求められる歌唱力
ノルマはイタリアのベルカント・オペラの最高峰と言われるのですが、
歌手にはとても高度なテクニックと強靭な歌唱力が求められます。
実はベッリーニのオペラの初演歌手をつらつら見ているとグリージという姉妹の存在に気がつきます。
姉の方は当代きっての歌唱力を持つメゾソプラノ。
彼女は、カプレーティとモンテッキでロメオ役(男性役)をやって絶賛されています。
女性が男性役を歌うということはかなりドラマティックな歌唱力を持っていたはずです。
一方グリージ姉妹の妹のほうは一応ソプラノだったようですが、
ノルマでアダルジーザという巫女役を歌っているんですね。
このアダルジーザという役は当初はソプラノで→後にメゾに変わっている役なのです。
だから、おそらくグリージ姉妹の妹は、ソプラノだけど、メゾの音域も得意としていたのではないかと思うのです。
また妹の方はベッリーニの清教徒でエルヴィーラという役も歌いました。
これは完全にソプラノ歌手の役なのですが、高い二音(高いレの音)を使う超絶技巧が求められ、
同時に長大なアリアがあり、強い喉も求められる役柄でした。
つまりこれらから推測すると、この妹の方は低い声も得意とし、高い声も出て、しかも超絶技巧までこなしていたのだと思われるのです。
そして、おそらく姉妹の声質は似ていたと思われます。
男性役、メゾ役、高音の超絶技巧までこなしたこの姉妹の歌唱力は
かなり広い音域と、かなり強いドラマティックな喉と、高度なアジリタ(コロラトゥーラ)の技巧と歌唱力を持っていた、貴重な存在の歌手だったのではないかと想像できるんですよね。
通常ドラマティックな声が出る歌手は、コロコロと転がすように歌うアジリタの技巧は苦手としますし、
逆にアジリタが得意な歌手は軽い声質の人が大半でドラマティックな声が苦手なんですね。
つまり、ノルマはワーグナー歌いのようなドラマティックな声と、高音のアジリタの両方を兼ね備えている歌手が必要で
正直そんな歌手はなかなかいないので、上演で回数が少なかったのだと思います。
ノルマとマリア・カラス
戦後ベッリーニのオペラを復活させたのは、マリア・カラスのおかげと言っていいと思います。
マリア・カラスを知っている人も、もう少なくなっているかもしれません。
彼女は低く太い声と、高音の超絶技巧のどちらも兼ね備えた稀有な歌手でした。
見た目もエキゾチックで美しくて、少し影がある彼女の声はとても魅力的です(今でもDVDやCDで聴けます)。
そんなマリア・カラスだからノルマを歌えたのです。
もっとも、私がVTRで最初にノルマを見て感動したノルマ役は、オーストラリアのサザーランドという歌手でした。
彼女はマリア・カラスとは見た目も声も全然違うのですが、
サザーランドはもともとはドラマティックソプラノだった人で、
技術の高さが注目されて、ベルカント・オペラに転向した人でした。
ついでに言うとそれに気づいて勧めたのは、その後夫になるボニングという指揮者です。
サザーランドのVTRを見ると、ほとんどボニングが指揮をしていましたね。
サザーランドは背が高くて180㎝くらいあったと思います。
恵まれた体躯もあったから、この難しい役をこなせたのではないかなと思っています。
ただ、あまりに背が高いので、相手役と背の高さを合わせるのに苦労したんじゃないかなと言う気がします。
ソプラノの相手役はテノールが多いのですが、
テノールってそんなに背が高くない人が多いですから‥。まあ背などはみていると気にならなくはなりますが。
現在のノルマと歌手
日本で最初にノルマを生で見た時の歌手は、確かマリエッラ・デヴィーアだったかと思います。
その頃からエディタ・グルベローヴァもノルマを演じるようになったと記憶しています。
グルベローヴァは声質的には本来はドニゼッティのルチアのような役の方が向いていると思います。
(ルチアはグルベローヴァの当たり役でもあります)
グルベローヴァはチェコスロヴァキアが生んだコロラトゥーラソプラノ歌手で、彼女の声は本当に美しく、天使のようです。
しかも70をすぎてもほぼ変わらない声を維持していました。
さすがに高音は出にくくなりましたが、あれだけ軽やかな声を維持し続けているのは超人的なことではないかと思います。
ただ、彼女はリリックなソプラノ歌手なので、ノルマに本来必要なドラマティックさは残念ながら無いのですが、
彼女は屈指の美声とコロラトゥーラ技巧でこの役をこなしていて、それはそれで素晴らしいのです。
なので、グルベローヴァのノルマは、グルベローヴァらしいノルマと言っていいのではないでしょうか。
最近は日本でもノルマの上演が多くなってきました。
最近のノルマの上演が多くなってきたのは、この傾向をグルベローヴァが作ったのではないかと私は感じています。
最近のノルマはドラマティックさではなく、グルベローヴァ風なリリックなノルマになっているような気がします。
いずれにしてもノルマの音楽は素晴らしいので、上演回数が増えてきたのは嬉しいことです。
最後にベッリーニと同世代のアリゴ・ボイトという作曲家は
「ベッリーニを愛さない人は音楽を愛さない人だ」と言っています。
ノルマは本当に高貴で優美な旋律です。
機会があればぜひ聴いてみてもらいたいです。
ノルマの中でも一番有名でおすすめなのは、ノルマの「清らかな女神」というアリアです。
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