オペラ「ドン・ジョヴァンニ」(または「罰せられた放蕩者」)
はモーツァルトの代表作の一つです。
一応喜劇となっている割には、最後のシーンはドンジョヴァンニが
亡霊によって地獄に引きずり込まれるというオペラ。
喜劇にしてはちょっと怖いオペラかもと私は思います。
成立と初演
- 作曲:モーツァルト
- 初演:1787年
- 場所:プラハ エステート劇場
- 初演の指揮:モーツァルト
モーツァルトのフィガロの結婚の初演が1786年で、ドン・ジョヴァンニはその1年後の初演です。
フィガロの結婚の初演はウィーンだったのですが、その時の聴衆の反応は今一つだったのにその後のプラハでの上演では大成功となりました。
その結果、モーツァルトに次の作品も作って欲しいと、
プラハが依頼して作られたのがこのドン・ジョヴァンニというオペラです。
モーツァルトにとってプラハは相性が良い場所だったんですね。
初演のエステート劇場は現在も存在する劇場で、
今でもモーツァルトを主なレパートリーとしている劇場でもあります。
プラハのエステート劇場です
さてドン・ジョヴァンニというオペラは、ドラマジョコーゾまたはブッファ(喜劇)と呼ばれるオペラです。
ジョコーゾというのは、18世紀のナポリオペラを中心に流行した一形式。
ヴェネチア出身の劇作家のカルロ・ゴルドーニを主とする形式で
ゴルドーニという人は作品に斬新な喜劇シーンを取り入れていきましたが、
保守的な派閥に攻撃され、イタリアを離れて行った人です。
特徴としては終盤に劇的なシーンが挿入されることで、
ドン・ジョヴァンニでいうと、石像がドン・ジョヴァンニを地獄に引き摺り込むあたりでしょう。
このラストは喜劇と呼ぶにはあまりに怖いシーンで、ぞっとするようなところがあり、石像が歌うアリアも耳に残る曲です。
ドン・ジョヴァンニというオペラは、フィガロの結婚が明るいストーリーであるのに比べると、
喜劇的な要素と、悲劇的な要素のどちらも備えた作品と言えます。
実は個人的にはあまり喜劇的な印象は無いのですが‥。
ちょっと笑えないよね、という感じ。
モーツァルトは作曲が早いことでも有名なのですが、
ドン・ジョヴァンニについては書きかけの状態でプラハに入り、
楽譜を最終的に提出するぎりぎりの前日に、徹夜で序曲を書きあげたという逸話があります。
一夜で書き上げた序曲というわけですね。
序曲を書き上げた場所は、プラハのデュシェクという人が持っていた別荘で
その家は今でも博物館として存在しています。
もし旅行に行かれた際は、寄ってみるのも良いかもしれません。
上演時間とあらすじ
ドン・ファンの伝説
ドン・ジョヴァンニというのは17世紀にスペインに伝わる
伝説の放蕩者ドン・ファンの物語がもとになっています。
ドン・ファンというとプレイボーイの代名詞ですが
この伝説をもとにした作品は多く、
- モリエールの喜劇「ドン・ジュアン」
- リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」
あたりが有名ではないでしょうか。
上演時間
ドン・ジョヴァンニの上演時間は
- 序曲:約6分
- 第一幕:約85分
- 第二幕:約80分
となっています。二幕ものですが、一幕が比較的長いので、
正味の上演時間の長さは3時間程度。
休憩をはさむと、全部の上演時間は、約3時間半というところでしょう。
あらすじ
女たらしのドン・ジョヴァンニがさんざん放蕩三昧遊んだ末に、罰を受けて地獄に落ちるというのがおおまかなあらすじです。
ドン・ジョヴァンニが最初に言い寄るのは、ドンナ・アンナという高貴な女性。
ところがあいにくドンナ・アンナの父親に見つかってしまい、すったもんだの末父親を殺してしまいます。
次に言い寄ったのは、ドンナ・エルヴィラというこちらも気品ある女性ですが、
エルヴィラが実は自分がかつて捨てた女性だったとわかり、逃げるドン・ジョヴァンニ。
3人目は村娘ツェルリーナ。結婚するところなのに性懲りもなく言い寄るドンジョヴァンニ。
全く反省のかけらも無いドン・ジョヴァンニのもとに、
殺されたドンナ・アンナの父親が亡霊の石像となって現れて
地面が割れてドン・ジョヴァンニは地獄に落ちていくというあらすじです。
登場人物
主役以下、それぞれの人物の多くはペアになっていて、
- ドン・ジョヴァンニには召使のレポレロ
- ドンナ・アンナには婚約者のドン・オッターヴィオ
- ドンナ・エルヴィラには美しい召使い
- ツェルリーナには新郎のマゼット
が付いています。
ドン・ジョヴァンニはバリトンで召使いのレポレロはバス歌手が担当するのもちょっと変わっているところ。
召使い役は通常もう少し軽く、高い声質の人がやるイメージがあるんですよね。
どうして低い声にしたのかなと、思ってしまいますが、そこが一応ブッファなのでおもしろくて重要な役所は低い声にしたというところなのかもしれません。
台本
ドン・ジョヴァンニの台本はダ・ポンテという詩人で劇作家がかいており
いわゆるダ・ポンテ3部作、と呼ばれる3つのオペラの中の一つです。
モーツァルトのオペラの中でも、ダ・ポンテが台本を手掛けたオペラは秀逸で
モーツァルトの音楽のすばらしさに加え、台本の良さもあって、現代までずっと人気のオペラとなっています。
オペラには台本も重要という証でもあるとおもいます。
これについては、
- プッチーニ(作曲)
- ジャコーザとイッリカ(台本)
という組み合わせで(こちらは3人ですが)、成功していることと似ています。
プッチーニも多くの作品を作っていますが、
中も人気なのは、3作品で
そしてこれらの台本には上記のジャコーザとイッリカという、二人が関わっているんですね。
見どころ
石像の亡霊のシーン
最大の見どころはドラマジョコーゾならではである、
最後の石像の亡霊が登場するシーンでしょう。
このオペラがデモーニッシュ(悪魔的)という言葉で言われるのは、このシーンがあるからだと思います。
騎士長の亡霊役はバス歌手が担当。
この役が轟くような太くかっこいい声で、ドンジョヴァンニを成敗してくれるとちょっとスッキリ。
騎士長には迫力ある声が欲しいです。
またそのシーンで、石像が歌うアリアも一度聞いたら忘れられない旋律。
「ドン・ジョバーーンニ!」と石像が歌い始めるところは、演出ともども見どころです。
踊りのシーンの音楽
ドン・ジョヴァンニにはみんなで踊りを踊るシーンがありますが、その踊っている人と音楽の組み合わせがみどころです。
登場人物に合わせた3つの踊りの音楽が出てくるんですね。
- ドンナ・アンナとオッターヴィオが踊る宮殿風のメヌエット。3/4拍子
- ツェルリーナとドン・ジョヴァンニが踊る庶民的なコントルダンス2/4拍子。
- 男同士で踊るドイツ風の舞曲。3/8拍子。
それぞれの人物の特徴を示す音楽を、作っているんですね。
これがすごい!
しかもこの3つの音楽が同時に流れていて、違和感が無いところが、モーツァルトのすごいところです。
なかなか難しいと思いますが、これらの音楽を聴き分けながら踊りを見るのは楽しいですし、見どころだと思います。
3人の女性の違い
ドン・ジョヴァンニには、3人の主要なソプラノが出てきます。
- ドンナ・アンナ
- ドンナ・エルヴィラ
- ツェルリーナ
この3人は役柄に合わせた声質のオペラ歌手が担当することが多いです。
ドンナ・アンナは貴族の気品があり、強く優等生的な女性。
ドンナ・エルヴィラも美しく身分が高いのですが、なんとかしてドン・ジョヴァンニを立ち直らせようとする、もっとも情のある女性です。
リリックな、抒情的な雰囲気を持つ声があっていると思います。
ドン・ジョヴァンニが死んでしまった後、修道院に入ろうとすることからも
ドンナ・エルヴィラの悲しみがわかります。
またツェルリーナは村娘で、上記の二人に比べると軽めの声のことが多く、
ツェルリーナは性格的にもちょっと浮気性でちゃっかりしたところがあります。
そのあたりの性格の差と声の質の違いを感じながら見るのもおもしろく、
見どころだと思います。
そのほか一晩で書き上げた序曲も聴きどころ。
こんな曲を一晩で作ってしまうとはと思うのではないでしょうか。
余談ですが、最後にドンナ・アンナとオッターヴィオが1年後に結婚することになりますが、
これは喪に服すというより実はドンナ・アンナはドン・ジョヴァンニとの子供ができていないか確認するためともいわれています。
そこらへんは、当時の聴衆の反発をなくすためにオブラートに包まれていると言われています。
エステート劇場(魔笛のポスターですね)
コメントを残す