今回はロッシーニのオペラ「チェネレントラ」についてです。
チェネレントラはイタリア語でシンデレラのことです。
フランス語だとサンドリオン。
フランスの作曲家マスネもシンデレラをオペラにしていてそちらの題名は「サンドリオン」となっています。
シンデレラはオペラにもなっているんですよね。
ロッシーニのチェネレントラ
- 作曲:ロッシーニ
- 初演:1817年
- 場所:テアトロ・ヴァッレ(ローマ)
シンデレラのお話は元は民間伝承で、それをもとに童話になったものなんですね。
そのためペローの童話や、グリム童話などいくつか版があるのですが、ロッシーニのチェンレントラの元になっているのはペローの童話です。
ちなみにマスネのシンデレラ(サンドリオン)も同じく原作はペローの童話なのですが、
同じシンデレラでもロッシーニとマスネは雰囲気もストーリーも違っていて
子供のときに読んだ童話のシンデレラと似ているのはマスネのサンドリオンの方だと思います。
ロッシーニのチェネレントラはブッファでおもしろおかしくしたイメージで、マスネの方はどちらかというとしっとり系です。
シンデレラのキャラクターは健気でどちらも似ていますが、違うのは父親の存在で、
マスネの方の父はシンデレラを愛する優しい父親なのに対し、
ロッシーニのシンデレラの父親は欲に目が眩んで、シンデレラを死んだことにするような能天気で駄目な父親なのです。
またチェンレントラの方は、ガラスの靴も出てこないし、
王子と従者が入れ替わっているのも違うところですが、これについてはブッファらしくておもしろいところだと思います。
ロッシーニは1792年生まれなので、チェンレントラ初演当時は25歳という若さです。
当時は著作権などの縛りもないこともあって、ロッシーニはやたら過去の自分の曲を使い回すタイプの人だったようなのですが、
このチェネレントラについてもガゼッタというオペラから曲を転用しています。
ガゼッタからの転用
ロッシーニは転用が得意で、しばしば別のオペラの曲を使っていたのですが、
チェネレントラについては「La Gazetta」(ラ・ガゼッタ)というオペラから一部を転用しています。
La Gazettaというのは「新聞」という意味でこちらはチェネレントラの前年1816年にナポリのフィオレンティーニ劇場で初演されて何度か上演されていました。
今みたいにテレビ放映はないし、ナポリで数十回上演したからといって、ローマでその曲を知る人はいないだろうということなのか、
確かに実際わかる人なんてそれほどいないとは思うものの、
前の年の曲というすごく最近の曲を使っていたことはちょっと驚きではあります。
もっと聞いてもらいたいと思ってのことだとしたら素人ながらすごくわかる気もします。
もっと言うと、ラ・ガゼッタも過去のいくつかの作品からの転用があったみたいなので、当時は本当にすごく普通のことだったっていうことみたいです。
ラ・ガゼッタ(新聞)というオペラは、父親が娘のために新聞広告を出して結婚相手を探すという変わった設定のオペラだったようですが(残念ながら見たことはないです)
結婚相手を探すというところはチェネレントラと通じるところがあるので、使いたくなるフレーズがあったんでしょうね。
テアトロ・ヴァッレという劇場で初演
さてチェネレントラの初演はローマのテアトロ・ヴァッレという劇場です。
2018年にはローマ歌劇場の引っ越し公演がありました。
豪華な舞台で、チケット代もS席54000円という高値でしたが、ローマ歌劇場ができたのは1880年のことなのでロッシーニの頃にはまだできていません。
アルジェンティーナ劇場(同じくローマ)の方はすでにできていて前年ロッシーニの「セビリアの理髪師」はそちらで初演されています。
ちなみにアルジェンティーナ劇場は現在も存在しますが、オペラには使われていないようです。
アルジェンティーナ劇場は700名ほど入るこじんまりした劇場だったようですが、当時としてはちゃんとオペラができる良いオペラハウスだったようで、
それより前にローマでよく使われていたのが、カプロニカ劇場とヴァッレ劇場だったらしいんですよね。
このヴァッレ劇場がチェネレントラの初演の場所です。
カプロニカ劇場ができたのは18世紀の後半、ヴァッレ劇場は1726年。(今もヴァッレはあるけどオペラには使ってないです)
二つの劇場は共にローマの貴族カプロニカにより作られました。
アルジェンティーナも700名だからかなりこじんまりした劇場だと思いますけど、これら二つの劇場はさらに狭い劇場だったらしいんですよね。
もちろん空調とかエアコンとか電気の照明もまだない時代ですし‥。結構環境はよくなかったらしい。
そういう環境でオペラを見ていたんだなと、なんとなく今では想像しにくいのですが。
だから夏は公演をやらないって決めたんじゃないかって、これは私の想像ですが。
チェネンレントラはそんなヴァッレ劇場で初演されたわけですけど、この劇場で結構いろんなオペラが初演されているんですよね。
ロッシーニだけじゃなく、ドニゼッティとかメルカダンテも。
でも現在まで有名なオペラはなぜかあまりなくてチェネレントラくらいです。
だからかヴァッレっていう劇場の名前もずっと知らずにいました(普通は知らないか‥)
ちょっと興味深いのは、このヴァッレっていう劇場で初演された
- デメトリオとポリビオ
という作品です。
ロッシーニって最初にちゃんとした劇場で上演されたオペラは「結婚手形」っていうオペラで、こちらが上演されたのは1810年のこと。場所はヴェネチアです。
デメトリオとポリビオの方は1812年初演なので2年後なんですね。
でもこれを作ったのは1808年でロッシーニが若干16歳の時なんですよね。
デメトリオとポリビオは最初は学校の発表会のような形で作られたらしいんですけど、4年後にオペラとしてちゃんと発表されたわけです。
いわば彼の最初の作品っていうことなのですが、それを上演したのがこのヴァッレ劇場だったんですよね。
それにしても16歳ですでにオペラを作っていたのはすごいです。
チェネレントラ簡単あらすじと見どころ
ではチェネレントラの簡単あらすじと見どころについてです。
あらすじは基本的には日本人なら多くの人が知っているシンデレラのお話ですが、少し違うところもあります。
チェネレントラ簡単あらすじ
チェネレントラの本当の名前はアンジェリーナ。
アンジェリーナは3人姉妹の一番下ですが腹違いの娘なので姉たちにいじめられ、さらに父親にも無下に扱われています。
父親は貧乏貴族で、なんとか二人の姉妹のうち一人を王子に嫁がせて裕福になりたいというところ。
一人の浮浪者が入ってくると姉たちは冷たくしてもアンジェリーナは優しくパンと水をあげます。
この浮浪者が実は王子の先生のアリドーロで、この人がいわゆる魔法使いのおばあさんにあたるキーマンの役で、アンジェリーナを舞踏会に連れて行ってくれるのもこの人。
一方王子は従者と入れ替わって行動するので、姉妹たちは従者に一生懸命に愛想を振り撒きますが
アンジェリーナはたまたま会った従者(本当は王子)の方を好きになります。
チェネレントラにはガラスの靴は出てきませんが、かわりにアンジェリーナはブレスレットを王子に渡して私をさがしてと。
最後は王子と従者が入れ替わっていたことがわかり、王子とアンジェリーナは再び出会い結婚することになります。
アンジェリーナは父親と姉たちも許し、めでたしめでたし。
という簡単あらすじです。
チェネレントラ見どころ
ロッシーニのチェネレントラは楽しいオペラブッファで、ストーリーもわかりやすくハッピーエンドなので気軽にみられるオペラだと思います。
チェネレントラ役はメゾソプラノかアルトが担当するのでかなり落ち着いた声になると思います。
メゾソプラノは思慮深い感じで私は好きですが、お姫様役はソプラノというなんとなくのイメージがある中でメゾというところがおもしろく見どころの一つだと思います。
一方姉たちがソプラノなんですよね。
これが逆で、姉たちがメゾやアルトで意地悪な役をやると重すぎる感があるので、確かにソプラノで明るく歌った方がいい気はします。
ちなみにマスネのサンドリオンもシンデレラ役は低めの声で、姉たちがソプラノなんですよね。
また、チェネレントラにはバスが二人出てきます。
- アリドーロ(王子の先生で舞踏会に連れて行ってくれる人)
- 姉妹の父親
このバス役が対照的でアリドーロは浮浪者に変身したり、舞踏会に連れて行ってくれたりと、
アンジェリーナを幸せに導いてくれるまじめで重要な役どころで、この人の存在がかなり重要でふくよかなバスの声がとても合っていると思います。
一方父親の方もバスなのですがこちらは能天気な落ちぶれた貴族で、いわゆるブッファに出てくるおどけた役柄の典型的なバス役。
バス歌手がこんな風に良い役とおどけた役で活躍するのは、18世紀のオペラセリアの時代にはあまりなかったことじゃないかと思います。
同じバスでも全く違うキャラクターが出てくるのは見どころだと思います。
父親が最初に登場して歌うアリア「拙者の娘たち‥」はロッシーニらしく楽しい歌でいいですね。
そしてアンジェリーナの最後のアリア「悲しみと涙のうちに‥」は長めのアリアでメゾにしてはソプラノ的な難しさがあって、こちらも見どころじゃないかと思います。
マスネとロッシーニの二つのシンデレラを比べてみるのもおもしろいと思います。
コメントを残す