今回はマスネ作曲のオペラ「マノン」について。
マノンを扱ったオペでは、プッチーニの「マノン・レスコー」も有名で
マノンの人気を二分しているといって良いと思いますが、今回はマスネの方のマノンについて。
一言で言うとマスネの方のオペラはマノンにひたすら焦点があたっているオペラです。
マスネのマノン
マノンの原作はアベ・プレヴォーという人が書いたマノン・レスコーという作品です。
この作品をもとにオペラを作っている作曲家は複数いて、
有名なところではオーベール、マスネ、プッチーニが作っていますし
またバレエや映画も作られていますね。
さて、マノンというとどうしてもプッチーニと比較したくなってしまうのですが
プッチーニと比べると明らかにマスネの「マノン」はマノンという女性が中心です。
- 修道院に連れていかれるうぶなマノン
- デ・グリューとの愛の生活のマノン
- 豪華に着飾ったマノン
- 囚われの身になるみじめなマノン
というように場面ごとにマノンが変化していくので、そこがこのオペラの大きな魅力になっていると私は思います。
演じる歌手にもよりますけど、マノンのこの変化がおもしろいんですよね。
特に第三幕の豪華で美しいマノンは個人的に最もみたいところです。
さて、マスネのマノンの初演は1884年のことで、公演はオペラコミック座によるものです。
マスネは1842年生まれなので、42歳の時ですね。
マスネはどちらかというと内気な性格でカーテンコールを受けない人だったというし
現在のパリ音楽院の先生でもありましたが、生徒に教えるというより生徒の考えを聞くタイプだったのだとか。
マスネが目立ちたがらない性格だったことは確からしく、
パリ音楽院の学長にと言われた時も断ったとか。しかも2度。
っていうかパリ音楽院の学長にと言われるくらいの立ち位置だったということです。
当時フランスの三大オペラといえば
という三つで、それくらいマスネは著名人だったっていうことなのです。
ちなみにオッフェンバックも天国と地獄で有名ですが、彼はドイツの人なんですよね。
特にオペラ・マノンはマスネの作品の中でも最も成功したオペラだったわけです。
内気といわれたマスネですが、彼はナヴァラの娘のようなオペラ、つまりヴェリズモ的で悲惨で熱いオペラも作っているんですよね。
もっというとマノンが最も有名だけど、マスネは30以上のオペラを作っていてロマンティックなものから、ヴェリズモのような激しいものまで、そしてオペレッタも作れば、グランドオペラも作っているしと、かなり多彩。
そういうのを見ても、マスネって内にいろいろ秘めていたタイプだったんだろうなと、これは勝手な想像ですが。
作曲家のカーテンコール云々については、日本では初演のオペラが少ないので、作曲家が呼ばれて拍手を受けるっていうシーンはあまり見ませんが、昔は今よりオペラが作られていたし、
初演の際に作曲家が壇上に呼ばれて拍手を受けるっていうのも普通によくあったんだなと思います。
原作との違い
マスネのマノンは原作をコンパクトにしたストーリーで、
例えば原作でマノンはデ・グリューを3度裏切っていますが、オペラでは1回だけ、しかもマノンは致し方なく別れたと言う設定になっていて、
ちょっとヴェルディの椿姫的な感じ。
原作ではマノンはかなりあっけらかんと、悪気なく3度裏切っているんですよね。
マスネのオペラのマノンの方は割と原作のいいとこ取りで、一途なタイプの女性になっているのですが、だからこそマスネのマノンは魅力的で、またル・アーブルでのマノンがかわいそうに思えるのだと思います。
原作を読んでいると「早くマノンのような女性とは別れなきゃだめだよー!」とずっと思いますもん(笑)。
また、原作でレスコーは実の兄ですが、オペラでは従兄弟と言う設定。
これをなぜ変えたのかはわかりませんが、レスコーというのはゴロツキという感じで、結局よくない輩に殺されるんですよね。(オペラにはありません)
デ・グリューはお金のためにいかさま賭博に手を染めるし(これもレスコーの手引きで)
牢屋にも入っていて、脱獄までしているというかなり波乱万丈なのです(これもオペラにはないです)。
好きだからってそこまでやるかという感じののめり込み様なわけです。
また第三幕のオペラ座のバレエ団がやってきて踊るくだりは原作では無い部分ですが、その代わりにというか、
オペラ座やコメディ・フランセーズはマノンが大好きな場所で、週に数度出かけたい場所となっています。
マノンは、やたらめったら贅沢をしたいわけではないけど、観劇や洋服、宝石など好きなことについてはお金を気にせず贅沢したい、というのがマノンらしさ。(充分贅沢だとは思うけど‥)
オペラでは、ル・アーブルの港町でマノンは死んでしまうのですが、原作では港から二人ともアメリカに渡ります、というか流されて、
そこでもマノンは他の男性に言い寄られるんですよね。
とにかく男性を引き寄せるというかどこに行ってもモテる女性。
で、男とデ・グリューは争いになり殺してしまう(実は死んでいないのですが)、二人は逃げた末に力つきるという結末。
ちなみにプッチーニのマノン・レスコーの方では、アメリカまで渡ってから死んでいますが、かなり急ぎ足感はありますね。
それにしても
椿姫の原作もマノン・レスコーもそうなんですけど、この時代って馬車を確保するっていうのがすごく金銭的に負担だし、だからと言って手放せない交通手段なんですよね。
デ・グリューがどうやって馬車を確保するか、または馬車を手放すかでお金の苦労をするあたりは、時代背景がうかがえます。(オペラには出てきませんが)
電車もないし、タクシーも無いから馬車がどんなにか必要だったんだろうと。
そこだけ切り取っても、世の中ってすごく変わってるんですよね(当たり前って言えばそうなんですけど)
また、ル・アーブルっていうのは、パリの北西の港町です。今もある場所ですね。
マスネのマノン簡単あらすじ
最後になりましたが、マスネのマノンの簡単あらすじを書いておきます。
第一幕では修道院に入れられるマノン。
マノンに一目ぼれしたデ・グリューはマノンと二人で逃げてしまいます。
第二幕では幸せに過ごしているデ・グリューとマノンですが、
デ・グリューは家に連れ戻され、マノンはお金持ちのブレティニと暮らすことになり二人は別れることになります。
第三幕では華やかないでたちのマノンと。マノンの気を引こうとするギヨーはマノンのためにパリオペラ座のバレエ団を呼びます。
マノンはデ・グリューが修道士になっていることを聞いて会いに行き、二人の愛が復活。
第四幕ではお金が底をついたデ・グリューが賭博に手を染めて、捕まるまで。
そして第五幕ではアメリカに流されることになったマノン。場所はル・アーブル。
マノンに会いに来たデ・グリューですが、力尽きてマノンは死んでしまう
という簡単あらすじです。
原作は、娼婦と清廉な女性が一緒になったようなマノンですが、マスネのマノンはとても魅力的な女性に描かれています。
世界の人気オペラの中に入っているのも納得。日本ではあまり上演されませんが、ぜひ生で見たいオペラです。
アベ・プレヴォーの原作「マノン・レスコー」とオペラを比較してみた
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