イタリアオペラの巨匠といえば、ジュゼッペ・ヴェルディ。
ヴェルディは、たくさんのオペラを残しましたが、その中でももっとも劇的で悲劇だけどおもしろいオペラのひとつがリゴレットです。
私が大好きなオペラの一つでもあります。
あまりに好きで、音楽家でもないのにスコアを買ってしまったくらいです。高いのに‥。
分厚いスコアを見てもわかるわけもなく、後で思えばなんで買ったんだろうと(笑)
まあでも好きなところがたくさんあるので、とにかくスコアを見てみたかったんですよね。
リゴレットのあらすじ
リゴレットはせむしの道化師です。そして貴族マントヴァ公爵のお気に入りです。
このマントヴァ公爵は女遊びが大好きで、人妻だろうが無垢な娘だろうが誰彼関係なく関係を持つ領主。
モンテローネ伯爵も被害者の1人です。
娘を弄ばれて怒るモンテローネ伯爵をリゴレットはからかってしまいました。
そのためモンテローネはリゴレットも恨み、呪ってやる!と言います。
さてリゴレットはまわりには秘密にしていますが、16歳になる純粋無垢で美しい娘ジルダがいます。
外出は教会のみのいわゆる箱入り娘。
ところがその教会でマントヴァ公爵に見初められてしまい‥。
マントヴァ公爵はジルダの家に忍び込み、自分は貧しい学生だと身分を偽って言い寄り、ジルダもすっかり好きになってしまいます。
一方マントヴァ公爵の家来たちは、ジルダをリゴレットの愛人だと勘違いして、ジルダをさらってやれと、闇に紛れてリゴレットの家に行きます。
それはちょうどマントヴァ公爵がジルダの部屋から帰った後のこと。
リゴレットの家にやってきた家来たちはちょうどリゴレットに出くわすのですが、うまく言いくるめられ、目隠しされ、まんまと娘をさらわれてしまいます。
一方マントヴァ公爵はそんな家来たちの行為を知らずに、一旦はさらわれたジルダを心配するのですが、
その後家来たちがさらってきたことを知り、結果としてジルダは公爵に弄ばれてしまいます。
すべてを知ったリゴレットは公爵が許せず、殺し屋にマントヴァ公爵の殺害を依頼します。
ところがそのことを知っってしまったジルダ。
心美しいジルダはそれでもマントヴァ公爵を愛しているので、身代わりになり死ぬことを選んでしまうのです。
殺し屋から死骸の入った袋を渡されたリゴレットは、やっと復習が出来た!と思うのもつかの間
死んだはずのマントヴァ公爵の歌が聞こえてきて‥。え、ではこの死体は一体誰?
袋を開けてみると愛する娘が瀕死の状態。そして息絶えてしまうのでした。
リゴレットはモンテローネの呪いだ!と泣き崩れます。
と、こんなあらすじです。
ヴェルディのオペラには悲劇が多いというかほとんど悲劇なのですが、
愛する娘を自分で殺したようなものですから、ヴェルディの中でも悲劇中の悲劇ですね。
さて、もともとこのオペラのタイトルは「呪い」だったのですが、当時の検閲にひっかかり
やむおえず「呪い」→「リゴレット」に変更しているんですね。
もしもタイトルが「呪い」のままだとしたら、リゴレットの演出はもっと呪いに重点を置くのではないかと思うのですが、
現在のリゴレットの演出を見ても、呪いの部分があまりクローズアップされておらず
そのため、オペラの最後にリゴレットが「あの呪いだ!」と泣き崩れても、なんの呪いだっけ?誰を呪ってるんだっけ?
とちょっと思ってしまうのは私だけかな。何度かみると最初のモンテローネのシーンが関係するんだなとわかるんですけど‥。
とはいえ、息もつかせない緊張感たっぷりのこのオペラは、素晴らしい旋律があちこち、ストーリー展開も早いので見やすくて、個人的にも大好きなオペラには間違いないです。
声もテノールあり、ソプラノあり、バリトン、メゾ、バスがあってそれぞれ聞きどころがあるのですごくバランスがいいと思うんですよね。
どの声も楽しめるということじゃないかと。
リゴレットの上演時間と成立
リゴレットは、ストーリーが濃密なわりに、上演時間はそれほど長くありません。
通常これだけの話を2時間にまとめると、薄っぺらくなってしまうことがあると思うのですが、
リゴレットは、音楽とドラマの融合が素晴らしい!これぞ音楽の持つ力なのかと思います。
登場人物の歌による心理描写が絶妙だと思うんですよねー。
だから短い時間でも薄っぺらくなくて濃密なオペラになっていると思います。
<上演時間>
- 第1幕(第1場:マントヴァ邸 第2場:リゴレットの家)・・・約50分
- 第2幕(マントヴァ邸) ・・・約30分
- 第3幕(殺し屋の居酒屋) ・・・約30分
休憩2回の約2時間の上演なので、休憩を長めに入れても3時間弱のオペラです。
2幕、3幕は続けてやってしまうこともあります。
第3幕は殺しのシーンですが、息を止めている間に進んでいくかのような緊張の30分ですね。
<成立>
- 初演・・・1851年
- 言語・・・イタリア語
- 場所・・・フェニーチェ歌劇場(ヴェネチア)にて
成立は、ヴェルディが38歳の時。
ヴェルディはこの後トロヴァトーレ、椿姫、と続いて作品を書いています。
特にトロヴァトーレとこのリゴレットは特に悲劇性が強いのですが、
私の中ではヴェルディの、トップ2のオペラです。つまり大好き!。
この後の「シチリア島の夕べの祈り」から「アイーダ」に至る作品も
ヴェルディらしい情熱的なオペラが続くのですが、
徐々にグランドオペラとしての色が強くなっていくような気がします。
それはそれで劇的でいいのですけど。
フランスからの依頼でグランドオペラを、ということのほか、
もっともっとインパクトがあるものを、という周りの期待もあったのかも。
リゴレットから20年後のアイーダになると、
大掛かりな舞台で華やかさは増す一方、オペラ全体の叙情性は若干薄くなって、ヴェルディの作品も変化しているのを感じます(こんなことを言ったら怒られるか‥)。
要は好みの問題かなと思います。
でもアイーダは人気があるんですよね。
私はリゴレットあたりのヴェルディが好きだけど‥(まだ言ってる笑)。
リゴレットの魅力と聴きどころ
リゴレットの中でもっとも有名なアリアはマントヴァ公爵が歌う「女心の歌」。
「風の中の、羽のように変わる女心、涙も笑いもみないつわりさ
それを信じるのは哀れな人、だけど恋は知らなきゃ‥」
という歌の内容で、全てのオペラの中でももっとも有名なアリアのひとつではないでしょうか。
オペラの公演後、ヴェネチアの街中でこの曲が歌われていたという逸話があるほど覚えやすい曲でもあります。
また、もう一つ注目されるところはクライマックスの第3幕の4重唱です。
オペラには2重唱はよくありますが、4重唱はわりとめずらしいのです。
4人が別々のことを歌うわけで、旋律も異なります。字幕も大変。
アリア(独唱)はそんなに盛りだくさんのことを歌っているわけではないので、字幕の方は意外になんとかなるものですが。
当時一度に4人に別々のことを歌わせるなんてありえない!と言った人もいたようですが、
これがまたいいんですよね。
4重唱は聴衆側も、それぞれが何を歌っているんだろうと神経をとがらせるので、
実はそれが緊張感となって盛り上がっているのではないかと私は思います。
キーシンというピアニストがいるのですが、かつて彼のリサイタルのアンコールでリゴレットを演奏したことがあります。
アンコールで弾くような曲じゃないほど難しそうな曲なのですが(現に他の人のリサイタルではメインの曲になっていました)
キーシンがアンコールでリゴレットを弾いた時の感激は忘れられないです。
オペラが浮かぶような情熱的な演奏だったんですよね、キーシンもこのオペラに興味を持っているのかなあと思いました。
でも、実は個人的にはもっともおすすめしたいのは1幕後半のジルダとリゴレットの父娘の2重唱と、その後のジルダのアリアです。
1幕の後半や2幕最後の親子の2重唱はリゴレットの醍醐味だと思います。
ジルダは清純な若い女性の役。
演技にも声にもそんなジルダの雰囲気が出ていると最高です。それはそれは美しいんですよねえ。
<聴きどころアリア>
- 第1幕・・マントヴァ公がどんな美人もものにすると歌う「あれかこれか」。
帰宅したリゴレットとジルダが亡くなった母のことを聞く2重唱。
ジルダがマントヴァ公を好きになってしまう「慕わしい人の名は」。
最後のグアルティエール・マルデ‥‥(これはマントヴァ侯爵の学生の偽名)と清らかに歌うところは本当に清らかです。
- 第2幕・・リゴレッットが娘を返せと歌う「悪魔め、鬼め」
これはララッララッと歌う、道化の物悲しさが出ているアリアです。
泣きながら出てきたジルダを慰める親娘の2重唱「いつも日曜日に協会で」。
- 第3幕・・マントヴァ公爵が歌う「女心の歌」
リゴレットの渾身の4重唱「いつかお前に会ったような」
また殺し屋スパラフチーレ(バス)もなかなか重要な役で、弱々しいバスではちょっと物足りなく
不気味な迫力が欲しいところです。
オペラはテノールがヒーローになることが多いのですが、
リゴレットではテノールは能天気な役のマントヴァ公爵。
リゴレットのメインはタイトルロールであるバリトンです。
ヴェルディという作曲家は、リゴレットのようにバリトンに良い役を与えているオペラが多いのも特徴です。
女性についてもその傾向があり、トロヴァトーレでは主役ではありませんが、
アズチェーナ(メゾソプラノ)がとても重要な役になっています。
高い声もいいけど確かにバリトンとかメゾって魅力的なので個人的にも好きなんですよね。
おすすめのDVD映像
リゴレットはいくつかDVDで映像が出ていますが、
何と言ってもおすすめは
ウィーンフィルの演奏で、リッカルドシャイーの指揮のDVDです。
ライブではなく映像版で、ジャン・ピエール・ポネルの演出の描写も素晴らしいと思います。
- リゴレット:インクヴァールヴィクセル 雷鳴のようなバスバリトンで声、演技とも素晴らしい
- ジルダ:エディタ・グルベローヴァ 美しく清純清らかなジルダ、高音が素晴らしくでこれもぴったり
- マントヴァ公爵:ルチアーノ・パバロッティ スコーンと突き抜けるテノールの声が能天気な役に合ってます。
- スパラフチーレ(殺し屋):フェルッチョ・フルラネットこの時はまだ若いと思いますが声、雰囲気ともよかったです。
そのほか、レオ・ヌッチというバリトン歌手もリゴレットを当たり役にしていました。
彼の演技も素晴らしいのですがやはりおすすめはこのDVDかなと、思います。
ところで、このオペラは超悲劇なのですが、悲劇の種を巻いたマントヴァ公爵は
結局何にも知らないまま苦労知らずで終わってしまうあらすじなんですよね。
なんともいえませんが、そんなものか‥とつい思ってしまいます。
コメントを残す