今回はマイアベーアが作曲したオペラ「悪魔のロベール」についてです。
悪魔ってつくと私などは題からなんとなくワクワクしてしまうのですが、悪魔のロベールはどんなオペラかを一言で言うなら、「グランドオペラの王道!」といっていいのではないでしょうか。
これこそがグランドオペラだった・悪魔のロベール
これはどこか別の記事でもちょっと書いた気がするんですけど、私は最初のうちグランドオペラの意味が全然わかっていなかったんですよね。
単に大きいオペラかなと思ってました。
同じオペラでも派手な演出でやればグランドオペラというんだろう?くらいに思っていたのです。
広義にはそれもありだと思うのですが、オペラの世界でいうグランドオペラってかなりちゃんと区別されているんですよね。
時代も形式も演目も。
パリのオペラ座で上演されたもの(今あるオペラ座の前身)で、時代は19世紀の前半から後半にかけて作られたもののみ。
初演がフランス語の上演と決まっていたのも特徴の一つです。
5幕まであるものが多いですね。
グランドオペラと言えるオペラはそれほど多くはなく、その中で「悪魔のロベール」は代表的な作品、そして当時とても人気だった作品の一つなんですよね。
マイアベーアの中で「悪魔のロベール」や「ユグノー教徒」はグランドオペラですが、同じくマイアベーアでも「北極星」というオペラはグランドオペラではなくオペラコミックの部類です。またちょっと違うのです。
グランドオペラかどうかというのはオペラによって作られた時から決まっていたと言って良いと思います。
私がこれに気がついたのはかなり遅かったです。そもそもグランドっていうのは汎用的な言葉だから紛らわしいですよね(笑)
そんな私も一応グランドオペラのことがちょっとだけわかってきて、グノーのファウストとかヴェルディのシチリア島の夕べの祈りをみてこれがグランドオペラだ!って思ってはいたのですが‥
マイアベーアの「悪魔のロベール」を見たら、こっちの方がほんとの王道では?と思い始めたわけです。
あれ?他に大御所があったのねという感じです。
実はマイアベーアという人は知っていたけど、たいしたことないんだろうと勝手に思ってました。(まったく‥)
現在ほとんど上演されないっていうことは、バロックオペラの多くがそうだったように、
- マンネリ化
- つまらない
があるんだろうと思ってしまっていたんですよね。
ところが実際にみてみると想像と違っていたのです。何が違うかというと。
- ストーリーが思っていたよりずっとおもしろい
- 歌手のアリアが思っていたより超絶難しそう
- 音楽が良い(思っていたより重厚)
音楽についていうと、ロッシーニとヴェルディとワーグナーがあちこちに出てくるような感じです。
ヴェルディとワーグナーについては彼らの方が年下なので、彼らが影響を受けたのかもしれないのですが‥。
中でもちょっと驚いたのはちょっとワーグナーっぽい感じがする音楽があったこと。
そんなわけで、私の中では悪魔のロベールを見てからマイアベーアのイメージがすっごくあがりました(偉そうに言ってます笑)。
あとグランドオペラ特有の派手さ、これってやっぱり良いんですよね。せっかくなら私は派手なのを見たいですから。
悪魔のロベール簡単あらすじ
- 作曲:マイアベーア
- 台本:スクリープ、デラヴィーニュ
- 初演:1831年
- 場所:サル・ル・ペルティエ(パリオペラ座の前身)
今ってオペラは作曲家の方が注目されると思うんですけど、当時は台本作家の方がどうも強かったらしいのです。
そのせいなのか、書物によっては作曲家より先に台本作家の名前が出ているんですよね。
台本が誰なのかなんて今はほとんど気にしないですよね。
でも当時はオペラは台本ありきで、作曲家を含めた共同制作っていう感じだったみたいなのです。
悪魔のロベールの台本のスクリープっていう人はこの時代の台本作家の大御所だったようです。
<簡単あらすじ>
主人公のロベールは人間と悪魔の間に生まれた若者で、現在は故郷を離れシチリアにいます。
ロベールとシチリアの王女イザベルは恋仲。
ロベールは御前試合で勝利を納めてイザベルと結婚したいと思っています。
ところが友人のベルトラム(実は悪魔でロベールの父)はロベールを悪魔の世界に引きずりこむために、御膳試合を阻止し、ロベールを悪魔の山で誘惑します。
一方故郷で亡くなったロベールの母の遺言書を持ってきた乳兄弟のアリス。
遺言書には「父の言うことは聞いてなならない」と書いてあるのですが、ロベールがその手紙を見るのは最後の最後なのです。
父の思惑と母の遺言の中で揺れ動くロベールですが、真夜中の鐘が鳴り、ベルトラムは炎に包まれて消えてしまい、ロベールはなんとか救われる、
という物語。そんな簡単あらすじです。
悪魔のロベール・見どころ
墓からよみがえる尼僧・挑発的なバレエ
悪魔のロベールはオペラなのですが、一番気になる見どころは第三幕のバレエのシーン。
第三幕は悪魔の山のシーンで、中でも第三幕第2場でロベールが悪魔の杖を取るために修道院に行くところ。
墓からよみがえる尼僧たち、尼僧たちはロベールを挑発するバレエを踊るのです。
尼僧というとイメージが良いけど尼僧姿のゾンビの踊りなわけで、それだけでセンセーショナルですよね。
画家のドガが踊り子の絵をいろいろ書いてますがこれはまさにこのオペラの踊り子たちだと言われています。
それくらい当時も話題になったシーンだったということでしょうね。
悪魔の山でよみがえった尼僧たちの誘惑のバレエというだけで、なんとなくワクワクしません?
実際に音楽を聞くと、思ったよりかわいい曲だなという印象なんですけど、どんな衣装でどんなバレエになるのかは最大の見どころじゃないかと思います。
マイムバレエが必須だった
今はバレエというとバレエ団が華麗にさわやかに踊るイメージなんですけど
当時のオペラ座のバレエっていうのは、マイムバレエと踊りのバレエの2種類が必須だったらしいんですよね。
マイムバレエっていうのはパントマイムのことで、確かにバレエも体でいろいろ表現していますよね。
今のオペラを見る限りバレエシーンでパントマイム的な要素はあまり無い気がしますが、当時はリアルに無声で踊り子が表現していたのかなと思います。
バレエを見たことがある人ならわかると思いますけど、バレエって言葉がなくても何を言っているのかちゃんと分かりますもんね。それがオペラの中におそらくふんだんにあったのだろうっていうのはおもしろいなと。
特にフランスではパントマイムバレエがかなり発達していたみたいですし。
そういえば、同じくフランスの作曲家でシャルパンティエのオペラだったかな、を見たときに
バレエはないけどパントマイムの人が出てきたことがあったんですよね。
そのときはなんとなく不思議な気がして、どうしてパントマイムを使うんだろうって思ったんですけど、今思えば、フランスオペラでパントマイムは大いにありだったのかもと思いました。
難易度が高いアリアの連続
悪魔のロベールっていうオペラには突出した有名なアリアとか重唱は無いと思うんですけど、一通り聞くと、どれもそれなりに良いというか、メリハリもあるし変わった音楽もあるし、良い曲だなと思います。
一度聞いただけで「これいい!」と思うアリアはなかったですが‥。
だけど驚くほど難しいアリアの連続で、それが見どころだと思います。
ロベールはもちろんですが、イザベルもやたら大変そう。
まず出番が多いし、難易度が高そうなアリアばかり。そもそもグランドオペラなので時間が長いんですよね。
コロラトゥーラと高音の連続で、いや難しそう。
特にイザベルはワーグナー歌手じゃないと無理じゃない?と正直思いました。
乳兄弟のアリスもメゾソプラノと書かれているものもあるけど、超高い音が頻繁に出てきていてこれメゾ?と思いました。
おそらく当時のパリオペラ座には、スター歌手がいて歌手ありきの役だったと思うので、音域の広い歌手がいたんでしょうね。
悪魔役のベルトラムがどんな不敵な声を聞かせてくれるかも見どころ。
主要な役のアリアと重唱はすべて見どころと言って良いかもしれないくらいです。
そして、これらの重厚な役を歌える歌手をすべて揃えるのは至難なことじゃないかと思います。
作曲したマイアベーアを「雷神のような劇的天才」といった人がいたらしいしけど、すごくぴったりな言葉だと思います。
そしてグランドオペラはオペラの頂点といわれることがありますが、それも悪魔のロベールをみるとわかる気がするのです。
贅を尽くした豪華な舞台と、最高の歌手やバレエが見られるなんてやっぱり素晴らしい!。だからグランドオペラはできることならもっと見たいオペラです。
そして悪魔のロベールが現在ではあまり上演されない理由が、音楽がつまらないからという理由で無いことだけは確かです。
もし一定の期間マイアベーアが世間から忘れられてしまった理由の一つが、ワーグナーのマイアベーアに対する酷評だったとしたら、ワーグナーも大好きなだけにちょっと悲しい気がしてしまう。
そんなわけでグランドオペラがすっかり好きになってしまいましたが、だからと言って簡易的にピアノ伴奏と簡素な舞台で見たいかと言うと、やっぱりそれはないなと思ってしまうのも事実。
やっぱりグランドオペラは華やかであってほしいです。
↑これは銀座のクリスタルカフェという喫茶のチーズケーキとカフェラテ。とても落ち着くお店でした。
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