デュカスは作曲・ミッキーの「魔法使いの弟子」も
今回は「アリアーヌと青ひげ」という日本ではあまり知られていないオペラについて書いて見ます。
このオペラはメーテルリンクの戯曲が元になっているのですが、そのまた元はヨーロッパ各地に伝わる青ひげ伝説です。
メーテルリンクというのは青い鳥で有名な人ですよね。
青ひげのお城に幽閉される女性たちのお話なのですが、似たようなお話はいくつかあって、女性たちが殺されているケースや、生きているケース、逃げ出すケースや逃げられるけどとどまるケースなどいろいろあったようなのです。
日本の昔話も少しずつ違ったお話だったりしますよね。
さて、作曲したポール・デュカスは1865年にフランスで生まれた人です。
オペラはこの「アリアーヌと青ひげ」一作のみ。日本では上演されたことがあるのかどうか(私が知る限りはないです)。
デュカスというとオペラよりもディズニー映画「ファンタジア」の中の「魔法使いの弟子」の方が有名だと思います。
ファンタジアっていうのはディズニーの初期の映画で、まだセリフもない無声映画なんですよね。でもさすがディズニーで音楽はいいものばかりなのです。
デュカスの音楽が使われているのは、魔法使いの弟子になっているミッキーが水汲みの仕事がいやになったので、ほうきに魔法をかけて仕事をやらせるっていうところで、デュカスの音楽が絶妙にぴったりなんですよね。
そんなデュカスですが、完璧主義の人だったらしく気に入らない楽譜はバサバサと捨ててしまったのだそうです。
なので、現在残っているデュカスの作品っていうのは彼の中の納得がいっているものっていうことなんじゃないかと思います。
正直言うと「アリアーヌと青ひげ」っていうオペラは彼の自信作なのかもしれませんが、なかなかに私には難しいというのが本音です。なんども聞いたらよくなるパターンなのかもしれないけど‥。
でもかのトスカニーニは3年続けて取り上げたとか、それだけ気に入っていた作品らしいのです。やはり巨匠にわかっても私には全くわからないということなのかも‥(笑)
初演のアリアーヌはメーテルリンクの恋人だった
「アリアーヌと青ひげ」の初演は1907年のこと。
場所はパリのオペラ・コミック座でした。
デュカスが42歳の時です。
このオペラは青ひげよりアリアーヌがすごく出番が多いのですが、初演でアリアーヌ役を演じたのがジョルジェット・ルブランという歌手でした。
アルセーヌ・ルパンの生みの親であるモーリス・ルブランの妹でもあります。
そしてこの人は台本を書いたメーテルリンクの恋人だったようなんですね。
このオペラを聞くとアリエーヌ役ってなかなか大変そうなのですが、このジョルジェット・ルブランという人はもともと同じくメーテルリンクが書いたペレアスとメリザンド(作曲はドビュッシー)でメリザンド役を逃してしまったのです。
メーテルリンクは彼女を推していたのですが、ドビュッシーが選んだのは別の歌手でした。
で、今回は同じくメーテルリンクの別のオペラでアリアーヌ役を歌ったということみたいです。
メリザンド役は通常ソプラノとなっていて、アリアーヌはメゾソプラノとなっています。
歌ったジョルジェット・ルブランは当時38歳。
ルブランはマスネのナヴァラの娘とかビゼーのカルメンも得意にしていたらしく、これらの役はいずれもソプラノがやることもあるしメゾソプラノが歌うこともあるという役なんですよね。
だからおそらくルブランの声は軽やかなソプラノと言うよりも低音もしっかり出る、暗めのソプラノだったんじゃないかなと思います。
こんな風に今はその声を聞くことができないけど、得意としていた役柄でなんとなく想像しちゃうのも個人的には楽しい妄想です(笑)。
ドビュッシーの旋律が‥
上にちょこっとドビュッシーの名前を出しましたが、ドビュッシーは同じくフランス出身で1862年の生まれです。
つまりポール・デュカスより3歳年上というほぼ同年代です。
二人の共通点はパリ音楽院に入学していることや同じ時期にギローに師事していることなど。
もっともパリ音楽院に入ったのはドビュッシーの方が約10年ほど早かったようなのですが、その後ギローに師事し親しかったらしいのです。
10代でパリ音楽院に入ると聞くと音楽の土壌が日本とは違うなあと感じたりしちゃいます。
ギローっていう名前は聞いたことがあるなと思ったら、ビゼーのカルメンのセリフ部分をレチタティーヴォに変えた人でした。その結果カルメンは爆発ヒットになっていったんですよね。まさにギローのおかげで今のカルメンの人気はあるかもしれないという、そんな人です。
と言うわけで同じ時期にパリ音楽院にいたデュカスとドビュッシーは友人だったわけです。そして
- ドビュッシーはメーテルリンクの「ペレアスとメリザンド」を作曲(初演は1902年)
- デュカスはメーテルリンクの「アリアーヌと青ひげ」を作曲(初演は1907年)
しかも二つのオペラにはどちらにもメリザンドという女性が登場しているんですよね。
初演はペレアスとメリザンドの方が早いけど、内容的にはアリアーヌと青ひげが先で、青ひげ城から逃げてきたのがメリザンドっていうことみたいです。
音楽的にも「アリアーヌと青ひげ」の中でメリザンドが登場するシーンではドビュッシーっぽい旋律が出てくるのだとか。(残念ながら私はわからなかったけど‥)
デュカスは先にアリアーヌを作曲を始めていたけど10年近くもかけたので、後から始めたドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」の方が先に初演になってしまった。
で、ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」をきいたデュカスはそのメリザンドの旋律を少し取り入れたっていうそういうことなのかなと思いました。
バルトークの青ひげのもとになった
さてこの「アリアーヌと青ひげ」というオペラの台本はメーテルリンクの同名の戯曲が元になっていると先にも書きましたが、もともとは中世のヨーロッパ各地で伝わる伝説をペローという人が童話にしたものが元になっています。
ペローは17世紀のフランスの人でデュカスよりかなり前の人です。
中世に伝わる伝説の中には前の妻たちが殺されているパターンと殺されていないパターンがありますが、ペローの原作は殺されているお話です。
原作のペローの青ひげは短い物語であっさりしているのですが、内容はけっこう残酷で、地下の秘密の部屋の床は血だらけで壁には殺された前妻たちがはりつけになっているという陰惨なものなのです。
さらに秘密の部屋を見てしまった新しい妻をも、青ひげは大なたで殺そうとするのですが、兄たちに助けられるという内容。
でもデュカスの「アリアーヌと青ひげ」では前妻たちは殺されておらずまた新しい妻(アリアーヌ)は自ら城を去っていくので内容的にはかなり違います。
そこはメーテルリンクが独自の青ひげを作ったということなのだと思います。
前妻たちは殺されておらず城から出たいのかと思いきや、なぜか城に残るという選択をするのです。
バルトークも「青ひげ公の城」というちょっと不思議なオペラを作っていますがこちらは1918年の上演で、デュカスの「アリアーヌと青ひげ」の影響で取り上げたのだとか。
バルトークの「青ひげ公の城」の前妻たちも死んでいない(ただし歌わない黙役)ところは同じですが、新しい妻(ユディット)は去らずに城に残って前妻たちと同じ運命を選ぶというところが違います。
もっというとペローの童話を元にオペラを作っているのはさらに昔にオッフェンバックも作っていてそちらの題は「青ひげ」。初演は1866年のことでデュカスより約40年前のことです。
オッフェンバックのオペラは青ひげをパロディ化したものでこれもまた内容はかなり異なっているのですが、こんな風にペローの青ひげを題材にしたオペラは有名なだけでも
- オッフェンバックの「青ひげ」
- デュカスの「アリアーヌと青ひげ」
- バルトークの「青ひげ公の城」
- 続編としてドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」
という具合に青ひげのオペラはいくつもあるんですね。
簡単なあらすじと見どころ
ではアリアーヌと青ひげの簡単あらすじを書いておきます。
第1幕ではアリアーヌは青ひげの言いつけを守らず、秘密の部屋にはいって行こうとして、青ひげに見つかってしまいます。
第2幕では閉じ込められたアリアーヌは前妻たちが生きているのを知り、ここから出ましょうとすすめ部屋から出て行きます。
第3幕では青ひげは村人たちにとり囲まれ人殺しとして成敗されそうになるのですが、妻たちはその必要はないと城に連れ込み介抱するのです。
結局前妻たちは逃げることもせず城に残ることを選びますが、アリアーヌだけは城を去っていくのでした。
という簡単あらすじです。
この不思議なオペラの見どころはいったいなんなのか、正直うまく言えないというのが私の本音です。
第一幕が始まると民衆の怒りの場面はなんとなくオラトリオのよう(勝手な感覚です)。
全体にはよくわからない音楽と感じるところが多いのですが、ところどころすごくいいバックのオーケストラや合唱に絶妙にマッチして独唱がのっている時があって、あれ?これはもしやはまるかなとも感じたりします。
だから何度も聞いたらもしかしたらワーグナーのようにはまってしまうのかもしれないです。
とはいえ2幕になると女性だけの歌で声を張り上げている感が否めず‥。
かと思うとずっとレチタティーヴォのような語っているかのような部分もあります。
いずれにしても叙情的なドラマという言葉がぴったりなオペラだと思います。
音楽もストーリーも私には難解ですが、こういうオペラはどんな風に感じるのかを自分で感じながら聞くのがおすすめでそれが見どころなのかもって思います。
そしてこのオペラを見るといったい何を言いたいのかってきっと思うんじゃないでしょうか。
知らない方がいいこともある、なんでも知りたがるのはよくないという教訓なのか
自由は実は重い、誰しも隷属を好むっていうことなのか
そんなことも考えてこのオペラを見るのも良いかもしれないです。
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