ボローニャ歌劇場の引っ越し公演、ヴェルディの「リゴレット」を見てきました。
正直言って会場の入りは半分程度で少なめだったのですが盛り上がりは過去最高レベル。
行かなかった人は残念だったかも、と思うような公演でした。
ボローニャ歌劇場
ボローニャ歌劇場は1763年にグルックのオペラでこけら落としをした歌劇場。
ドイツ生まれのグルックを採用していることからも少しわかりますが、
タンホイザー、ローエングリンといったワーグナー作品をイタリアで初演していて
昔から積極的にドイツものを取り上げている劇場だということがわかるんですよね。
現に劇場内にはワーグナーとヴェルディの像もあるとか。
そんな歴史と由緒ある劇場の引っ越し公演ということで、行ってきました。
今回の公演はイタリアものでリゴレット。
ところが平日の18時半開始という時間的なことが原因か
S席34000円という高額なチケット代のせいか、ホールは半分入っているかどうかの入りでした。
かくいう私も行くかどうか悩んだのですが、その理由は渋谷という立地も‥。
渋谷のスクランブル交差点とかあの人ごみの中をくぐり抜けてオーチャードホールまで行くのは、私にとってはなかなか厳しいというか‥。人ごみきらい。
でも終わってみれば大歓声と大拍手で、今まで見た中でも最高級の満足度。
第二幕終盤の親子の二重唱ではなんと珍しくアンコールが。
私が日本のオペラの舞台上で、劇中に生のアンコールを聞いたのは確かほんの数回のみ。
しかもジルダは超高音を出しての大サービス。こんな珍しいことに遭遇できてラッキー!
アンコールではさらに大きな拍手、舞台の二人もそして見ている人もすごく喜んでいるのがわかりました。
これだから生の公演っていいんですよね。
全体には第一幕はかなりハイテンポに感じてあれよあれよと進んでいく感じで、
特に第二場のリゴレットの家のシーンがこんなにあっさりだったっけ?と感じたのですが、でも時間的には普通でした。
このリゴレットの家のシーンの曲は大好きなのですが、やっぱり見応えがあるのは後半の第二幕以降。
後半はハイテンポ感は全く感じなかったです。そこらへんも指揮者の采配なのかも。
引っ越し公演っていうのは、これはバーリ歌劇場の時も感じたのですが、指揮者もオケもやり慣れている感が伝わってくるというか、
なんていうか、微妙な「間」とか「阿吽の呼吸」とかそういうのがあるなあって感じるんですよね。
アンコールのタイミングも慣れてる感じがあったので、本国では割と当たり前にやっているのかも。
今回の指揮者はマッテオ・ベルトラーミというジェノヴァ生まれの指揮者。
経歴を見るとずっととにかくオペラばたけを歩んできた人みたいです。
さすがイタリア。
リゴレット演出
今回のボローニャ歌劇場の舞台のセットは全体にはかなり簡素。
マントヴァ邸はシャンデリアと赤いベッドだけだし
リゴレットの家はクローゼットのような箱だけ
そして殺し屋スパラフチーレのシーンはボロい船があるだけ。
最近演出がかなり気になるのですが、これもまたやり方だなあと。
ハデハデのセットではなくても何をイメージしているのかわかるからそれで十分かもと。
前奏と共に出てきたのはピエロの格好のリゴレット。
でも背中を丸めたりはせずに普通の状態だったので、一瞬モンテローネかな?と思ったけどいやいやリゴレットでした。
また、舞台では終始ピンクの衣装をきた小柄な少女が悲しげな表情で、翻弄されていて、あれはモンテローネの娘だと思いますが、ちょっと表情が見ていて痛々しかった‥。
演出は全体にわかりやすく
ジルダのお守役が公爵とあからさまにお金のやりとりをしていることや、
リゴレットの愛人だと思っていたジルダがの娘だとわかるや、皆が背中を向けて反省らしき様子になるところなど
わかりやすすぎるくらいで、なんだかはっきりしていていいかもなんて思っちゃいました。
そうそう今回見て、リゴレットのセリフを聞いて感じたのは、
いつも皆を笑わせているけど実は主君の公爵も嫌い、廷臣たちも皆嫌い、
というリゴレットは現代で言うなら上司にストレスが溜まっているサラリーマンみたいじゃないかと。
それはさておきリゴレットの家はまるでクローゼットのような箱で、そこに入るジルダは文字通り箱入り娘そのまま。
クローゼットのガラス越しにさらわれたり、船でもガラス越しに殺されたりする演出は、見ている方の想像力がふくらむものだなと。
あと個人的にはマッダレーナの黒くて色っぽい衣装もなかなか好きでした。
歌手について
リゴレットの主要な歌手は
- リゴレットはアルベルト・ガザーレ
- ジルダはデジレ・ランカトーレ
- マントヴァ公爵はセルソ・アルベロ
- スパラフチーレはアブラーモ・ロザレン
- マッダレーナはアナスタシア・ボルディレバ
今回私が一番聞きたかったのはデジレ・ランカトーレ。
名前だけ知っていてまだ聞いたことがなかったので。
勝手な見た目からの想像で、スコーンと抜けるような軽めの声なのかなと思っていたのですが、
実際に聞いてみると、結構強めの声で少なくとも抜けるような声とは違っていて、
正直言うと最初は良さがいまいちよくわからなかったです。
ところが聞いているうちに引き込まれていくのが彼女の声と演技なんですよね。
私なりに一言で言うとデジレ・ランカトーレという人はとても味のある歌い方をする歌手だなと。
弱音と強い声のメリハリがかなりはっきりしていて、聞けば聞くほと良くなるタイプの人。
変なたとえですが、書道で言うなら楷書ではなく行書。
まっすぐな童謡調ではなくクラシックの演歌風とでもいうか(語弊があるかなあ、褒めてるつもり笑)
加えて一生懸命の演技なので、伝わってくるものがあるんですよね。
そして舞台姿が美しいということ。
デジレ・ランカトーレは最初から拍手が多かったのでおそらくファンがたくさんいるのだと思いますがその理由がわかる気がしました。
そして今回やはり一番よかったのは、リゴレット役のアルベルト・ガザーレというバリトン歌手。
この人はバーリ歌劇場のトロヴァトーレでルーナ伯爵をやった時も感じましたが
すごくまじめな見た目と歌い方。
ただ、バーリの時よりかなり迫真の演技と迫力のある歌でちょっと別人のようでした。
とにかく声が良い人です。
ガザーレという人は、立っているだけで良い人感が漂っているので、リゴレットってちょっとひねくれたところがあるイメージがあるのですが、
そういうのは全くなく、かわいそうなお父さんという感じでした。
とにかく体当たりの熱演で、全く乱れのない歌唱はすごいものです。
というか今回の歌手はみな声量、声とも安定度が半端なくて、それはマントヴァ公爵も。
「グアルティエール・マルテという学生です!」というのはさすがに年齢的にというか、見た目に無理があるなあと最初は感じたけど
まあ、オペラの世界ではそういうのはありありで、歌を聞いているうちに気にならなくなるもの。
おそらくジルダと父親のリゴレットもそんなに実年齢は変わらないと思うけど
オペラだと気にならないのはホント不思議ですよね。
リゴレットってマントヴァ公爵の「女心の歌」のアリアが一番有名だと思うんですが、
今回はその直前にリゴレットとジルダの二重唱のアンコールで大盛り上がり、その直後がこちらのアリア。
それでもセルソ・アルベロという人も負けじと(思ったかどうかはわかりませんが)最後の高音を思い切り張り上げてましたねー。パチパチ!良かった。
マントヴァ公爵は歌以外でも好色漢ぶりがすごく表現されていて、実際のセルソ・アルベロという人もそうなんじゃないかと思ってしまうほど。
ほんとしょうがない人だけど女性には好かれて、命も助かっちゃうんだよねというキャラでした。
今回は客席はあまり埋まってはいなかったけど、客席が満席だから必ず大満足するわけでもなく、
今回のようにすごく良かったという公演もあるんですよね。
こんな時は来て良かったとちょっと得した気分に。
ブラーボやブラービ、大きな拍手が鳴り止まず、
とにもかくにも舞台と会場の一体感を感じた素晴らしい公演でした。
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