今回はイタリアのドニゼッティ作曲のオペラ「ランメルモールのルチア」についてです。
1797年にイタリアで生まれたドニゼッティは筆が早いことでも有名な作曲家。
オペラを作るのが早いということですね。
50年の生涯でなんと70曲ものオペラを書き上げたといいますからすごいものです。
ベートーベンはオペラは生涯でたった一本のみ、
フィデリオというオペラしか残さなかったことと比べると、その多さは歴然としています。
ランメルモールのルチアのような曲はさぞかし練りに練って作った曲なんじゃないかと
私などは思ったのですが、そうでもないんですよね。
ランメルモールのルチア初演と成立
- 作曲:ドニゼッティ
- 初演:1835年
- 場所:ナポリのサン・カルロ劇場
- 原語:イタリア語
ドニゼッティはイタリアのベルカントオペラの作曲家として有名なのですが
同じくベルカントといえば、イタリアのベッリーニという作曲家もいます。
ベッリーニは1801年のイタリア生まれ。
ノルマというオペラが有名で私が大好きなオペラでもあります。
ドニゼッティとベッリーニはほぼ同じ時代を生きているのですが、ベッリーニは11作のオペラしか残していません。
11作でも十分多いような気もしますが、ドニゼッティに比べると、かなり少ないんですね。
ベッリーニはわずか34歳という若さで亡くなっているので少ないということもありますが、
それにしてもドニゼッティの70作というオペラの数はその筆の速さを物語っていると思います。
こんなに美しい旋律のオペラをよくそんなに次々と作り出せたものだと驚きます。
しかもドニゼッティという人はランメルモールのルチアのようなシリアスな悲劇だけではなく、楽しいオペラもたくさん書いているのです。
70作のうち現在も上演される演目はそれほど多くはありませんが、
- 悲劇・・ランメルモールのルチア
- 悲劇・・アンナ・ボレーナ
- 悲劇・・ルクレツィア・ボルジア
というように底抜けに明るいオペラと心底悲しいオペラの両極端を書いているのです。
筆の速さに加え悲劇も喜劇もササッっと作ってしまうところは、ドニゼッティはまさに天才肌だったのかもしれません。
多い時は一年に4つものオペラを作っていたんですね、すごい!。
さて、初演のサン・カルロ劇場はナポリにあるオペラハウスで、
現在も使っているもっとも古い劇場の一つ。
ミラノのスカラ座より古くからある劇場です。
収容人数はスカラ座とほぼ同程度の3500人。かなり大きいですよね。
日本だとNHKホールが3800人なのであれくらいです。
サンカルロは聴衆のお行儀が悪いと言われることもある劇場ですが、日本みたいにあまりお行儀が良すぎるのも肩が凝るのでどうなんだろうと時々思います。
本当は多少リラックスして見たい方なんですが‥。
なにはともあれランメルモールのルチアの初演は大成功だったようです。
ランメルモールのルチアあらすじと上演時間
ランメルモールのルチアは1部、2部となっていて、2部がさらに2幕と3幕となっています。
<上演時間>
- 1部ー第1幕 約45分
- 2部ー第2幕 約40分
- ー第3幕 約50分
<簡単あらすじ>
ルチアはエドガルドという結婚を約束した恋人がいるのですが、
一族の危機を救うために、アルトゥールとの結婚を強いられます。
結婚するくらいなら死なせて欲しいと訴えるのですが、聞き入れられず、
恋人エドガルドにはなじられ‥。
結婚式当日の夜、ルチアは新婦のアルトゥールを刺して殺してしまい、精神は錯乱状態になってしまいます。
ルチアはそのまま死んでしまい、それを知ったエドガルドも自ら命を立ってしまうという悲劇的なあらすじです。
ランメルモールのルチアの原作は1819年に発行された「ラマムアの花嫁」という小説です。
小説の作者はウォルター・スコットという当時の人気作家で、ラマムアの花嫁はスコットランドで実際にあった事件が元になっています。
こんな辛い事件が実際にあったのですね。
ちょっと余談ですが、ウォルター・スコットについては、ロッシーニも「湖上の美人」という小説を題材にして同名のオペラを書いています。
さて、ランメルモールのルチアでは新郎を刺して殺めたルチアは、その日のうちにすぐに亡くなるのですが、錯乱したからといってどうしてすぐに死んじゃうのだろうと
実は若干不思議に思っていたのですが、
小説では新婦もその恋人もすぐに亡くなってはいないようです。
オペラの悲劇性を高めるためにはそういう台本になったということでしょうか。
やっぱり微妙にん?と思うところって原作と違っていたりすることはちょいちょいある気がします。
そのランメルモールのルチアの台本は、カンマラーノというサン・カルロ劇場の座付き台本作家兼舞台監督。
カンマラーノはヴェルディの中でも人気のオペラ「ルイザ・ミラー」や「トロヴァトーレ」の台本も書いていますね。(トロヴァトーレの途中で亡くなってしまいますが‥)
トロヴァトーレはヴェルディの中でも最も好きな部類のオペラなので、やっぱり台本って重要なのねと思います。
ランメルモールのルチアのサン・カルロ劇場での初演は大成功し、若干経営不振だった劇場が好転したともいいますから、
当時は相当な人気だったのでしょう。
それにしても、何も悪くないのに殺されてしまう新郎のアルトゥールが
実はかわいそうな気がしてしまうのは私だけでしょうか。
ランメルモールのルチア見どころ
以下にランメルモールのルチアの見どころをあげますが、見どころはなんといっても
第三幕のルチアの「狂乱の場」のアリアでしょう。
当時、狂乱の場はオペラのちょっとしたブームだったようで、
現在残っているオペラにはいくつか狂乱の場があります。
- ベッリーニ作曲の清教徒
- ドニゼッティ作曲のアンナ・ボレーナ
など。
ランメルモールのルチアでは、ルチアが血に染まった白い服を着てうつろな様子で長い狂乱のアリアを歌います。
<第1幕>
- 兄エンリーコがルチアの恋人が宿敵エドガルドと知って怒りと苦しみを歌うアリア「激しい苦しみ」
- 恋人エドガルドを待つルチアが歌うアリア「あたりは沈黙に閉ざされて」
- ルチアとエドガルドの二重唱「裏切られた両親の眠る墓の上で」
<第2幕>
- ルチアが無理やり婚姻届けにサインをさせられるシーンの6人が同時に歌う聞き応えのある6重唱。「誰がこの怒りを抑えられようか」
<第3幕>
- アルトゥールを殺したルチアのアリア「狂乱の場」
- ルチアの心変わりを嘆き死を覚悟して歌うアリア「やがてこの世に別れを告げよう」
ルチアの狂乱の場はフルートとの掛け合いがとても美しいです。
というか、ランメルモールのルチアのフルーティストはすごく目立つので大変だと思います。
またランメルモールのルチアの狂乱の場はコロラトゥーラの難しいアリアがあるので、歌手にとっては腕の見せどころであると同時に難しい役でもあります。
最近(といってももう70歳を過ぎていると思いますが)歌手ではスロヴァキア出身のエディタ・グルベローヴァがこの役を得意としていました。
はかなげな狂乱のコロラトゥーラは涙無しでは見られないほどでした。
またかつては、マリア・カラスが1954年にミラノのスカラ座でランメルモールのルチアを歌い、絶賛を浴びています。その時の指揮者はカラヤン。
そしてその少し後にはオーストラリアのジョーン・サザーランドがでてきて、イギリスのコヴェントガーデンでルチアを歌ってやはり絶賛されていますね。
このときの指揮者はセラフィン。
二人とも強めの声でエディタ・グルヴェローヴァとはまた少しタイプが違います。
ちょっと余談ですが、ランメルモールのルチアって新郎を刺してオペラが終わるので、
カーテンコールのとき、ルチア役は血に染まった白い衣装のまま出てきて、
パチパチパチと拍手になります。
光を浴びたその衣装がなんとなく、ちょっと怖いというか不思議な光景ですね。
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