今回はワーグナーのトリスタンとイゾルデについてです。
ワーグナーについて書くときはいつもちょっとした緊張感があるんですよね。
他のオペラとは違うというか。
これは私の勝手な感覚なんですけど、ワーグナーってちょっと特別な立ち位置なんです。
特に、熱烈なファンが多いっていうのがなんとも怖い感じで‥笑
でもまあ気にせず書いていきます。
トリスタンとイゾルデってどんなオペラ
時々思うんですけど、世のワグネリアンの人達ってワーグナーの中では何が一番好きなんでしょうね。
私はワグネリアンというわけではありませんが、トリスタンとイゾルデを好きになったのは後の方です。
最初はニュルンベルクのマイスタージンガーで→ジークフリートが良くなって→タンホイザーなど色々な作品を見るようになった感じです。
実は、最初にトリスタンとイゾルデを見たときはなんだかよくわからず、
自分の中で「トリスタンとイゾルデはまだ無理!」と思ってしまいました。
それまで見ていたワルキューレなどとはちょっと違っていて、半音上がる感じが多いなあとそんな印象でした。
音楽家の方にそのままの感想を伝えると「イ音」をそう感じるのではないかとのこと。
トリスタン和音とか少し説明されたけど正直なところ全くわからず‥
そもそもオペラの解説って音楽理論とか難しい評論が載っていることが多いけど、
音楽理論に詳しくないとオペラって見ちゃいけないの?と思っちゃいました。
最近は図々しくなってきて、見たいように見て素直に感じたままでいいよねと思うようになっています。
音楽理論はプロに任せて見る方は「単純に楽しみたい」それだけです!
それはともかくとして話を戻すと、トリスタンとイゾルデを最初に見たときは全くピンとこなかったわけですが
一つには最初に見たときのトリスタン役がジョン・ヴィッカーズだったということも影響しているのかもしてないって思うんですよね。
この人はフィデリオとかピーター・グライムスなど結構重い役をやっているんですけど
ヘルデンテノールかというとちょっとまた違う感じでジークフリートっていう感じでもないんですね。
ちょっとねっとりした声質でたぶんそれがトリスタンには合っていたと思うけど、聞きなれない声質が「うーん、なんだかなあ」と思ってしまったわけです。
のちにもう一度聞くと、心にもやもや感のある役にはなるほど合っていると思うのですが‥。
ちょっと乱暴ですがトリスタンとイゾルデというオペラは、私なりにいうと
初恋とか恋愛の初期に感じる火照った状態の曲、
寝ても覚めても相手のことしか考えられないような状態、
科学的にいうならアドレナリンやドーパミンが脳内に溢れる麻薬のような状態というのかな。
それがオペラになるとこんな音楽になるのねと。そんなイメージです。
実際ワーグナーは恋愛中で指から音楽がほとばしるように流れ出たということらしいんですよね。
恋が作った音楽なんだなあと。
そして最初に見た際に何も感じなかった当時の私は、実は殺伐とした生活をしていたのかもしれないと、ちょっと思ってしまったのでした。
ワーグナーとマティルデの恋がオペラになった
トリスタンとイゾルデのお話は、毒薬のつもりで飲んだ薬が実は媚薬で、二人の恋が燃え上がるという物語です。
ドニゼッティの愛の妙薬にも同じような惚れ薬が出てきますがそちらはインチキの薬でストーリーもほのぼのした恋愛ものであるのに対し、
ワーグナーのトリスタンとイゾルデは二人で延々と愛の歌を歌い、最終的には二人とも死んでしまうというシリアスな物語。
中世の宮廷詩人が語り伝えたと言われる物語が元になっていますが、
登場人物は少なめでやたら二人の出番と歌が長いオペラです。だからトリスタンとイゾルデを歌うのはおそらくとても大変だと思います。
トリスタンとイゾルデが作られたのは1857年頃のこと。
初演は1865年で場所はバイエルン国立歌劇場です。
バイエルン国立歌劇場
初演までにかなり手間がかかった作品です。
(バイエルン国立歌劇場はその昔はバイエルン選帝侯国の宮廷歌劇場でしたので、初演の場所はバイエルン宮廷歌劇場となっていることもあります)
作曲した当時ワーグナーにはヴェーゼンドンクというパトロンがいて、彼が提供する住居に住んでいたのですが
ヴェーゼンドンクの妻マティルデとワーグナーは不倫関係になり、二人の恋は燃え上がっていたようなんですね。
それがトリスタンとイゾルデの元になったと言われているのです。
当時ワーグナーは44歳、マティルデは約30歳。
ワーグナーにも妻がいましたけど二人の関係は微妙だったようだし、そもそも恋愛には理屈はないですよね、
恋愛の最中にできたオペラだと言われればなんか納得しちゃう音楽なのです。
ただ、それがワーグナー本人だけにわかる音楽というのじゃなくこうして世界中の人々を虜にしているというのは
やっぱりすごいなあと思っちゃうわけです。
2幕の愛の歌のシーンなど、大した歌詞の内容もなくて「好き、死んでも離れない」を延々と恍惚として歌っていて、会場中が聞き入ってしまうのですから。
そして驚くのはワーグナーの恋多きことなんですよね。
トリスタンとイゾルデは初演までに年数がかなりかかり、結局手を差し伸べたのはルートヴィッヒ二世でした。
そして初演で指揮をしたのはハンス・フォン・ビューローという人。
この人の妻はのちにワーグナーの妻になるコジマなのですが、
初演当時すでにワーグナーとコジマは事実上の夫婦になり、なんと子供もいたのです。
ハンス・フォン・ビューローという人は妻を取られても、ワーグナーの音楽的才能を認めていた人という認識だったんですけど、
それはトリスタンとイゾルデの初演の指揮までやったというあたりからもきているのねと、
改めて驚いたわけでした。
そもそもマティルデとの恋からもそれほど経っていないし‥。
ワーグナーってもてたんですねえ。
マティルデの歌曲集も一緒に聞くと良い
トリスタンとイゾルデは王女の結婚にまつわる物語なのですが、
ワーグナーは当時トリスタンとイゾルデの作曲と並行してヴェーゼンドンク歌曲集というのも作っているんですよね。
こちらは恋のお相手のマティルデが作った詩にワーグナーが音楽をつけたもの。
女性の声で歌われるもので、どちらかというとヴェーゼンドンク歌曲集の方が当時の熱い恋愛状況がわかるような気がします。
歌曲集は5つからなり
- 天使
- とどまれ
- 温室にて
- 悩み
- 夢
これを聞くとああワーグナーだなあと感じると同時に、恍惚っていう言葉がぴったりかもしれないってちょっと思いました。
ワーグナーはマティルデの詩に音楽をつけて楽隊に演奏させて、誕生日に音楽をプレゼントしたのだとか。
なんともロマンティックなことです。(家庭は大丈夫だったの?と思いますが、壊れはしなかったようで‥)
中でも「温室にて」と「夢」はトリスタンとイゾルデの副題が付いているくらいですから、一緒に聞いてみるとよりわかるような気がします。
もうひとりトリスタンとイゾルデ、そしてヴェーゼンドンク歌曲集というと
フェリックス・モットルという人が出てきます。
ワーグナーに関わる人は数多くいますけど、
このフェリックス・モットルという人はヴェーゼンドンク歌曲集のオーケストレーションをしたことで有名で(誕生日の時のは違う人らしいですが)
そしてものすごくワーグナーの音楽に魅入られていたワーグナーの専門家と言える人なのです。
バイロイトにおける初めての指輪全曲上演の際、ハンス・リヒターの助手だった人だし
1886年には初のバイロイトでトリスタンとイゾルデを指揮
ワーグナーの専門家とも言える人で、世界各地からよばれ
最後はなんとトリスタンとイゾルデの指揮をしながら倒れて、その後亡くなってしまったという人なのです。
まさにワーグナー作品に注いだ一生だったんだなと思います。
妻を取られても初演の指揮を引き受ける指揮者がいたり、
指揮をしながら亡くなる人がいたりなど、
ワーグナーの魅力にとりつかれる人は昔から多かったということみたいなんですよね。
バイエルン国立歌劇場
バイエルン国立歌劇場のスケジュール
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