モンテヴェルディは、オペラの歴史の中では、最も古い部類の人です。
椿姫などを作曲したヴェルディと名前が似ていますが、
モンテヴェルディとヴェルディでは、時代が約250年も異なり
イタリアオペラの世界は、これほどまでにと思うほど変化しているんですよね。
上演時間とあらすじ
初演と上演時間
- 作曲:モンテヴェルディ
- 初演:1607年
- 場所:マントヴァ邸
<上演時間>
- プロローグ:約10分
- 第一幕:約20分
- 第二幕:約20分
- 第三幕:約25分
- 第四幕:約15分
- 第五幕:約15分
2時間程度のオペラです。
オルフェオは第五幕まであるので、幕の多さだけ見るとまるでフランスのグランドオペラのようですが、
一幕が20分程度と短く、実際に上演する際も、
一幕ごとに休憩をはさむことは、通常はしないと思います。
第三幕の三途の川のシーンだけは、場面もちょっと特異で緊迫するシーンですが、
それ以外のたとえば第一幕・第二幕などは、時代が新しいオペラなら一場・二場となるところかなと感じます。
あらすじ
あらすじは、ギリシャ神話オルフェウスの伝説から来ています。
オルフェオとエウリディーチェは結婚して幸せだったのですが、
エウリディーチェは毒蛇に噛まれて死んでしまいます。
絶望するオルフェオは、黄泉の国へエウリディーチェを連れ戻しに行きます。
三途の川には番人がいますが、無事にそこを渡ったオルフェオはエウリディーチェを取り戻すことができます。
ただ、元の国にたどり着くまでは決してエウリディーチェの方を振り返ってはいけないという、約束だったのですが、
たまらず振り返ってしまったため、エウリディーチェは再びいなくなってしまいます。
最後はアポロンが出てきて、オルフェオとともに昇天していくというあらすじ。
グルックのオルフェオとエウリディーチェとあらすじは同じですが、
ハッピーエンドのグルックのオペラとは、結末がちょっと違います。
また、オッフェンバックの天国と地獄もあらすじは同じですが、
こちらは、風刺のきいたオペレッタ版。
どれも趣向が全く違っていておもしろいです。
初期のオペラ
バロック音楽
古い音楽というとバロックという言葉が浮かばないでしょうか。
バロック音楽で有名な作曲家にはバッハがいますが、
バッハは1685年の生まれ、つまり17世紀の生まれです。
バロックのオペラではヘンデルなどが有名ですね。
バロック音楽というのは通常、
17世紀初め~18世紀半ばの時代を指しますから、まさにバッハとヘンデルはバロック時代の人なわけです。
実は二人の生まれは同じ年。でも会ったことはなかったようですが。(ヘンデルはイギリスに行っちゃいますし)
ところがこのオルフェオを作曲した、モンテヴェルディという人は、さらに古く
1567年、つまり16世紀の生まれなのです。
ではバロック以前の音楽って何なんだろう、と思ってしまいます。
ルネサンス
そこで出てくるのがルネサンスという言葉。
ルネサンスは14世紀にイタリアから始まった、文化運動です。
では、音楽におけるルネサンスって何だったんだろう、と思うのです。
ルネサンス音楽は、ヨーロッパにおいて、15世紀から16世紀のルネサンス期に作られた音楽の総称である。中世西洋音楽とバロック音楽の中間に位置しその中心をなすのは、ポリフォニーによる声楽、特に宗教曲である。
(ウィキペディアより)
わかったようなわからないような言葉ですが、
言えることは、モンテヴェルディが活動した時期は16世紀~17世紀にかけてなので、
ちょうどルネサンス音楽とバロック音楽の狭間の時期だということです。
初期のオペラ
モンテヴェルディのオペラ・オルフェオを見ると、
一言でいうと「歌うように語る劇」という言葉が浮かびます。
教会のミサ曲のような宗教曲を感じる場面もかなりあるのでそこはルネサンス風。
初期のオペラは、ほとんど語りの歌で進行していきます。
後のヘンデルはバロックオペラを多く作曲していますが、
ヘンデルのバロックオペラと比べると、楽器の音色は似ているけれどオペラとしては別物です。
モンテヴェルディのオペラは、
アリアらしいものはあるけれど、はっきり分かれておらず歌いながら語っていくので、
すべての歌の言葉を、よく耳を澄まして聞いていないと筋がわからなくなります。(字幕ですが)
それに対して、バロックのオペラは、レチタティーヴォとアリアに分かれていて、
アリアは、感情だけを表現しているので、ストーリーの進行とはあまり関係なく
なんなら、アリアの時は字幕も見なくても大丈夫なのです。
話の進行はレチタティーヴォなので、レチタティーヴォの字幕さえ見ていればあらすじはわかるところが、モンテヴェルディの頃の初期のオペラとは異なっています。
初期のオペラは、朗誦という言葉の方が合っているかもしれません。
教会では、古い時代から音楽を入れた劇のようなものをやっていたことは、カストラートの出現を見てもわかるのですが、
それを単体で独立させて披露するということがオペラの初期の形だったのかもしれません。
オルフェオの初演の場所も、劇場ではなくマントヴァ邸となっています。
初期のオペラは、きちんとしたオペラ劇場などまだなく、
また、大きな劇場でやるような大掛かりなオペラではなかったということでしょう。
ちなみに、マントヴァというのはイタリア、ヴェネチアの少し西の街です。
余談ですが、オペラ「リゴレット」には、マントヴァ公爵という人物が出てきていますね。
250年後のオペラとの違い
現在世界中のオペラハウスでは、ヴェルディやプッチーニのオペラがとても人気があります。
モンテヴェルディと名前が似ているヴェルディは1813年生まれなので、モンテヴェルディより約250年後に生まれていて、
プッチーニになるとさらに後で、300年近く後のことになるのです。
オペラにあまり親しみの無い人にとっては、オペラは全部同じようなものに感じているかもしれませんが、
同じオペラでも、初期のモンテヴェルディのオペラとプッチーニのオペラを比べると、そのあまりの違いに
そもそもオペラの定義って何だっけ?と思ってしまうのです。
オペラとは、簡単に言うと「歌と劇による舞台」という大きな括りなのですが、
ではミュージカルは?とかオペレッタは?という疑問が出てくるかもしれません。
系譜として枝分かれしていきますし、国によって発展の仕方も違うので当然なのですが、
元をたどっていくと、モンテヴェルディのオペラが原形の一つだったということなのだと思います。
オペラの250年の違いをみると、まず管弦楽が違います。
そもそも楽器も発達しているので、古楽器を使うと同じような楽器でも音色が違うのですが、
それよりも、初期のオペラは圧倒的に楽器が少ないのです。
種類も少なければ人数も少ない。だから音がとても静かです。
プッチーニの頃だと、そのままシンフォニーができるような大掛かりな楽器編成で、人数も多いのですが
モンテヴェルディの頃のオペラは、
静かな音とほんわかした音色。
初期のオペラの管弦楽はあくまで歌の伴奏という感じですね。
それでも、オルフェオの3幕の三途の川とか、4幕のシーンなどはかなり緊迫した雰囲気がでているので、
当時としては画期的だったのだと思います。
そしてテンポのこと。
緩急自在に揺れ動く、新しい時代のオペラと違い
オルフェオが、比較的同じようなテンポで進んでいくのは、やはり朗誦中心だからでしょう。
早口になったりゆっくり喋ったりしたら聞き取りにくいですしね。
そして強弱の点、初期のオペラは強弱がまだまだそれほどありません。
淡々と邪魔にならないように、奏でる楽器たちという感じです。
それでも逆に言うと今から約400年も前に、ここまでオペラらしいものができていたと言えば、驚きなのかもしれません。
全体にはオルフェオは、教会音楽もしくは宗教音楽という感じがかなり強いなと、そんな印象でした。
ヴェルディやプッチーニのアリアは、劇的で情熱的かつ技術的にも難しいと思いますが、
オルフェオについては、管弦楽が静かな分、歌がとても目立つので
それはそれでかなり大変だと思います。
場面によっては一人でずーっと歌っている感じです。
特にオルフェオ役は大変ですね。
見どころ
ワーグナーやヴェルディのオペラを想像してオルフェオを見ると、まったく違うので、
物足らなく思ってしまうかもしれません。
オルフェオは、もっとも初期の頃のオペラである、
ワーグナーやヴェルディとは、時代も形式も全く違うものとして、観劇することが大事だと思います。
最初のオペラはこんな感じだったんだなあ、という意識でしょうか。
最初にプロローグがあり、一人登場してこれから始まる物語について語ります。
これを見ても、音楽としてよりも語りとしての位置づけが強いのがわかるように思います。
また、歌い方が独特で、半音上の装飾音が出だしについているような歌い方をしますので、バロックにはないものがあり見どころの一つです。
レチタティーヴォとアリアがはっきりしていないので、どうしても
かなり字幕にかじりついてしまうかもしれませんが、
オルフェオはわかりやすいストーリーなので、あらかじめ頭に入れておくとよいと思います。
合唱や、重唱はほぼ同じ旋律を歌っていますが、
一部、それぞれのパートがあるなと感じる部分もあります。
これがルネサンスの名残りなのではないかと思うのですが、
オルフェオには、ルネサンス時代の音楽と、その後のバロック音楽が混ざっているのがわかりますから、そこらへんも、見どころ聞きどころでしょう。
そして、オルフェオの一番の見どころはやはり、第三幕の三途の川のシーンと、
第四幕の振り向いてしまうところだとおもいます。
三途の川の部分は番人がどんな風か、どんな演出にするかも見どころですが、
いずれにしても、番人カロンテも、黄泉の国の王様も、妃も皆
おどろおどろしていないところが、良いかもしれません。
第三幕の三途の川のシーンで、オルフェオが歌う歌は、
切々としたものが伝わってくるしみじみとした牧歌的な歌で、見どころ聞きどころです。
またこの幕は、ほぼほぼオルフェオが歌い続けているので、非常に大変なところだと思います。
オルフェオの頑張りどころで、そこが見どころですね。
演出によるとは思いますが、バレエのような踊りもあると思いますのでどんな踊りが見られるかも、見どころです。
モンテヴェルディはヴェネチアのサン・マルコ寺院の楽長になった人です。
あの巨大な寺院で、今から400年ほど前にいったい日々どんな音楽が奏でられていたのかと思うと、
歴史が近いような遠いような、不思議な気持ちになります。
コメントを残す