今回はちょっと珍しいオペラ「マゼッパ」についてです。
作曲はチャイコフスキー。
原作はプーシキンです。
プーシキンの原作
プーシキン原作のオペラ
ロシアのオペラには歴史もの、日本で言うなら軍記物のようなオペラが多いのが特徴です。
イタリアのバロックオペラにも王の栄光を描いたオペラが数多くあるのですが
両者は全く別物で、イタリアはどちらかというと王をあがめた豪華な世界であるのに対し
ロシア物はもっと地に足がついた内容で、戦いによる運命をありのままに描く土臭さと力強さがあるオペラです。
そのためロシアのオペラは好きか嫌いかは別として、イタリア物にはない魅力があると思います。
ちなみに私は好きですね。
そして、ロシアの有名なオペラにはプーシキン原作のものがとても多く
- ボリス・ゴドゥノフ(ムソルグスキー作曲)
- エフゲニー・オネーギン(チャイコフスキー作曲)
- スペードの女王(チャイコフスキー作曲)
- 金鶏(リムスキー・コルサコフ作曲)
- ルスランとリュドミラ(グリンカ)
など。
そしてマゼッパもプーシキンの「ボルタヴァ」という作品が原作になっているんですね。
ポルタヴァの戦いから
ポルタヴァというのは地名で、現在のウクライナの中央より東側にある都市の名前です。
1709年にポルタヴァの戦いというのがあって世界史を学んだ人なら名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれません。
ピュートル大帝のロシアとカール12世のスウェーデンの戦いで、この戦いでロシアから寝返ってスウェーデン側に加担したのがウクライナのイヴァン・マゼッパという実在の人物。
このオペラのタイトルになっている人です。
ポルタヴァの戦いの結果はロシアが勝ちスウェーデンの敗退で、マゼッパは数カ月後に70歳で病死していますが、
ウクライナの独立をめざした英雄として歴史に残る人物になっている人です。
残っている絵を見る限りコサックらしい顔立ちと服装をしていた人のようですね。
ちなみにウクライナの独立は1991年のことでつい最近です。
この地域もいろいろあったんだなと思ってしまいます。
さて、史実とオペラの内容はすこし異なっています。
オペラに出てくるマリーヤと父親コチュベイは実在の人物ですが、若いマリーアが両親を捨てて高齢のマゼッパと駆け落ち同然に出ていくことや、
その後親子が悲惨な末路をたどるのはプーシキンの中のお話なんですね。
プーシキンはこのポルタヴァを詩のような物語として書いていてその意味ではエフゲニー・オネーギンと似ています。
プーシキンを読んで思うのは、詩で歴史ものが書けるとはという不思議です。
そもそも詩で一冊の物語が書けるのも私の中では不思議なのですが、
詩で歴史もの、しかもポルタヴァの戦いのような重いテーマを書けることがそもそも信じられないのですが、
でもちゃんと一つの小説になるんですよね。これってやっぱりプーシキンはすごいと思うところでもあります。
そしてプーシキンの物語には絹のように清楚で清廉な女性がよく登場します。
その女性を中心とした恋愛も絡んでいるというとても繊細さと、一方で戦いという力強さがある作品なんですよね。
ちょっと余談ですが、プーシキンの代表作の一つに大尉の娘という小説があります。
プガチョフの乱を題材にした物語なのですがここにもやはり美しく穢れの無い乙女が出てきて、歴史に翻弄されるていくのですが、歴史的背景もよくわかるし、恋愛ものでもありおもしろいので、オペラにはなっていませんがおすすめの本です。
マゼッパに出てくるマリーヤという女性もやはり似たようなタイプの女性で、彼女の周りに渦巻く歴史と悲恋がなんともプーシキンだなと思うのです。
ムソルグスキーのオペラもある
ポルタヴァの戦いはロシアのピュートル大帝の時代のことですが、
同じ時代を描いた別のオペラもあります。
それはムソルグスキーのホヴァーシチナというオペラ。
こちらはムソルグスキー自らが台本を手掛けているオペラで
やはりロシアの17世紀後半、政府に不満を持つ銃兵隊の反乱とその後の不安定なロシアを扱ったこちらも重いテーマのオペラです。
第5幕まであるオペラで日本で上演されることは無いんだろうなあと思うオペラの一つです。
ロシアのオペラはこういう題材が多いんですよね。
マゼッパの初演と簡単あらすじ
ではオペラ・マゼッパの初演とあらすじです。
マゼッパ初演
- 作曲:チャイコフスキー
- 初演:1884年
- 場所:ボリショイ劇場にて
初演の頃のボリショイ劇場はムソルグスキー、ボロディンなどロシア5人組と言われる作曲家たちが活躍していたころで、
また当時のボリショイ劇場にはフョードル・シャリアピンという大歌手(バス)がいた時代でもあります。
(マゼッパはバリトンで、シャリアピンではありませんが)
ロシアオペラにはバリトンやバス歌手が重要な役割をしていることが多く、
イタリアバロックオペラでは王様役をカストラートやテノールが歌うことが多いのに対し
ロシアオペラでは重要な役は低い声が担当する、というそんな大まかなイメージもありますね。
ロシアオペラが重厚に感じるのは音楽もさることながら、そんなことも影響しているのかもしれません。
マゼッパ簡単あらすじ
マリーヤはウクライナの貴族コチュベイの娘。父の元に訪れていたマゼッパに惹かれるマリーヤ。
マゼッパはかなりの高齢。
マゼッパからマリーヤを嫁に欲しいといわれ、父は怒るのですがマリーヤはマゼッパを選び出て行ってしまいます。
怒ったコチュベイはマゼッパが謀反を起こすことを知っていたので、それをロシア皇帝に伝えるのですが
予期したマゼッパはすでに対処していたため、逆にコチュベイは捕らえられてしまい、
マゼッパの命令で断頭台へ。
すべてを知ったマリーヤはショックのあまり気がおかしくなってしまいます。
一方本当にロシアを裏切ったマゼッパは結果として負けて敗走し落ち武者となります。
かつてのコチュベイの家にたどり着くと、そこにはもうろうとしたマリーヤが。
ずっとマリーヤを好きだったアンドレイがマゼッパに復讐しようとするのですが逆に打たれて瀕死の状態に。
それでもマリーヤは状況がわからず、アンドレイはマリーヤの膝で死んでいき、子守唄を歌うマリーヤの悲しい声が消えていく。
というなんとも悲しい物語です。
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