ドリーブという作曲家を知っている人は少ないかもしれませんが
「コッペリア」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。
「コッペリア」はバレエの人気演目で、偏屈な老人コッペリウスが作った人形が動き出すという物語です。
コッペリアを作曲したのがドリーブで、ドリーブが作曲したオペラが「ラクメ」です。
バレエ音楽が得意なだけあって、ラクメはバレエを思わせるような優雅で美しい音楽で、
ソプラノのアリア、特にコロラトゥーラが印象的なオペラです。
初演
- 作曲:ドリーブ
- 初演:1883年
- 場所:オペラコミック座(フランスのパリ)
ドリーブが、オペラコミック座からの依頼で作曲したオペラです。
ドリーブは1836年フランスの生まれなので
ラクメ初演の時ドリーブは47歳、すでにコッペリアで成功した後ですね。
初演の場所であるオペラコミック座というのは、もともとは、セリフの入った明るい喜劇の上演が中心の場所でしたが、
ラクメが初演する頃のコミック座は、上演の幅を広げ、ラクメのようなシリアスなオペラも上演していた時期でした。
路線変更した引き金の一つは、ビゼーのカルメンではないかと思います。
コミック座でカルメンが初演された時は、カルメンが悲劇的なオペラなので当初反発が多かったのです。
でも少し後のドリーブの時には、そんな風潮はもうなくなっていたということのようです。
さてラクメの舞台は、イギリス統治下のインドです。
フランス出身のドリーブがなぜ、イギリス統治下のインドを舞台にしたオペラを書いたのかと思うのですが、
実はラクメの原作となっているのは「ロティの結婚」という小説で
ロティの結婚の舞台はタヒチでした。
タヒチはフランス領です。
ラクメというオペラのお話は、占領している軍人たちの横暴とそれをよく思わない原地の人たちという、
あらすじなので、舞台をフランスを→イギリスに置き換えたのではないか、と思っているのですが、
これは、個人的な想像です。
異国情緒のオペラの流行
原作となった「ロティの結婚」という小説を書いたのはフランス人のピエール・ロティという人です。
この人は海軍の軍人だったので、船であちこちの国に行き原地で生活もしていた人です。
まさにラクメに出てくる軍人ジェラルドのような立場でした。
現地での生活を元に異国の小説を書き、それが元になって生まれたオペラというわけです。
実はラクメのようにアジアを舞台にした異国情緒あふれるオペラというのは、
前々からあったわけではありません。
プッチーニの蝶々夫人や、トゥーッランドットのように、比較的新しいオペラには
異国情緒溢れるオペラが出てくるのですが、
ヴェルディまでのオペラには、ほとんど出てこないんですね。
ヴェルディまでのオペラは、設定が古代であったり神話だったりと、ほとんどがヨーロッパが舞台となるオペラだったと思います。
そういう意味では、初演の1883年の頃にインドを舞台にした異国情緒のあるオペラが生まれたのは、
かなり珍しかったのではないかと思っています。
その後、プッチーニやマスカーニの時代になると日本や中国、さらにはアメリカなどを舞台にしたオペラが多くなってくるように思います。
バレエとオペラを作る作曲家たち
さて、作曲家の中には、バレエ音楽を多く作っている人もいれば、
オペラを多く作っている作曲家もいます。
チャイコフスキーのように、バレエ「白鳥の湖」も有名で
交響曲「悲愴」も有名、そしてオペラ「エフゲニー・オネーギン」も有名というマルチな作曲家もいますが、
ベートーベンのように、交響曲が主で、オペラはたった一つだけという作曲家もいるのです。
ベートーベンの唯一のオペラはフィデリオという作品です。
一方マーラーのように、交響曲は多く作っているけれど、なぜかオペラは一つも全く作らなかった、という人もいるんですね。
ではバレエとオペラの、両方とも有名な作曲家と言えばどういう人が浮かぶかと考えてみると
- チャイコフスキー
- ショスタコーヴィチ
- ミヨー
- プロコフィエフ
- ドリーブ
など。実際にはもっといると思いますが、
有名度で上げると上記のような感じではないでしょうか。
中でもチャイコフスキーは有名ですが、
今回取り上げるドリーブとチャイコフスキーに共通するのは、バレエのように優美で繊細な音楽だと思います。
ドリーブのオペラ
ドリーブという人は、バレエ曲もオペラも作曲しているのですが、
コッペリアがもっとも有名なので、どちらかというとバレエのイメージが強いと思います。
実際にはオペラもかなり作曲していた人ですが、残念ながら現在まで上演されているオペラは
このラクメだけと言っていいでしょう。
ラクメはとても優美な音楽のオペラなので、彼の埋もれている他のオペラがどんなものかそちらも興味があるところですが‥。
実はラクメは、台本があまりよくないけど音楽でカバーしていると言われるオペラです。
埋もれている他のオペラも何かしらあってのことなのかもしれません。
また余談ですがインドが舞台という事で、バレエのラ・バヤデール(インドの舞姫)という演目が浮かんでしまいます。
こちらはオーストリアのミンクスという作曲家が書いたバレエです。
1877年サンクトペテルブルグにおいて初演されていて、
ラクメの初演の6年前のことです。
ロシアにおいても、異国情緒あるバレエが好まれ始めた頃だったのかななどと考えてしまいました。
ラクメ上演時間とあらすじ
<上演時間>
- 第一幕:50分
- 第二幕:55分
- 第三幕35分
正味二時間ちょっとのオペラなので、休憩を入れると3時間程度ではないでしょうか。
<簡単あらすじ>
第一幕は、ラクメと兵士ジェラルドの出会いの幕。
ラクメたちがいる聖域にはいってしまったジェラルドは、婚約者がいるにも関わらずラクメに心惹かれてしまいます。
そして第二幕では、聖域に入ったことがばれて、ジェラルドがラクメの父ニラカンタに、刺されてしまいます。
第三幕では、ラクメの懸命の介護で一命をとりとめたものの、ジェラルドは軍人としての任務を思い出し、それを悟ったラクメは毒の花を口にします。
再度ニラカンタが現れ、ジェラルドを殺そうとしますが、ラクメは自分を犠牲にしてジェラルドを救うよう願って死んでいきます。
という、天使のようなラクメのあらすじです。
聖域にいる美しい女性と、占領軍の軍人という設定は、ベッリーニのノルマにも似ていますね。
見どころ
このオペラの見どころはなんといってもソプラノのアリア、
そして、二重唱ではないかと思います。
バレエを思わせる美しく優雅な旋律のアリアは、うっとりするという言葉がぴったりです。
コロラトゥーラを駆使したアリアが多く、ソプラノの技量とともに聴かせどころが多く、見どころになっていますね。
中でも有名なのは第二幕で、ラクメが歌う
「インドの娘はどこへ」というアリア。
別名「鐘の歌」と言われるのは、12時の鐘がなるとこの歌が歌われるからです。
単独でもよく歌われるアリアですね。
鐘の歌は、聖域に入った不届きものが誰なのかを炙り出すためにニラカンタが歌わせるのですが、
実際お話の中でその歌に惹かれてジェラルドは見つかってしまうのですね。
また第一幕でラクメが侍女と一緒に歌う二重唱も美しい曲です。
これも見どころ聞きどころですね。
そして、ドリーブなのでバレエもちゃんとあるのでそれも見どころです。
私が見たラクメは、サザーランドという有名なソプラノ歌手が歌っていて、とても美しいのですが、
彼女は上背がすごくあって、確か180センチ近くあったと思います。
それに対し、侍女役の人は小柄だったので、同じ人間かと思うくらい背丈が違っていたのが印象的で‥。
また恋人役のジェラルドもあまり大きい人ではなかったので、
サザーランドの迫力がありすぎて、恋人というよりは他の二人はお付きの者のようでした。
背が高い人は豊かな声を持つ場合が多く、サザーランドもそうなのですが、
相手役には困るだろうなと思ったのを覚えています。
いずれにしても優雅な旋律なのでぜひ一度見てもらいたいオペラです。
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