音楽家の人は絵画鑑賞を好む人も多いように思いますが、
ヴェルディは小説や詩も愛していたようです。
マンゾーニという作家が亡くなったとき、ヴェルディはとても悲しみました。
それでレクイエムを作曲しているんですね。
ヴェルディは熱い音楽を書きますが、きっと熱い心の持ち主でもあったのではないかと想像しています。
ヴェルディとレクイエム
レクイエムの成立
- 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
- 原語:ラテン語
- 初演:1874年イタリア ミラノのサン・マルコ教会にて
マンゾーニが亡くなる少し前に作曲家ロッシーニが亡くなっているのですが、その時もヴェルディは
曲を作ろうとしていたんですね。
結局そちらは、うまくいかず挫折してしまうのですが‥。
ロッシーニも多くのオペラを書いていますが、現代のイメージだと、どちらかというと軽い作品が多いロッシーニより、
ヴェルディの方が、作品も重厚で人気があり上演回数も多いです。
でもヴェルディにとってもロッシーニが亡くなったことは、心の糧を無くしたようなショッキングなことだったらしいのです。
ピアノで有名なショパンもロッシーニを尊敬していたと言いますから、
ロッシーニの当時の人気ぶりはおそらく神がかっていたのではないかと思うんですね。
当時と今では二人の有名度は逆転しているように思うのですが‥。
さてヴェルディが敬愛するマンゾーニという作家の代表作は「いいなづけ」という作品です。
題はかわいらしいのですが、若い二人が様々な困難にあって進んでいく社会派大河ロマンの小説です。
ダンテの神曲に並べられているようなイタリアの国民的な代表書物で
ヴェルディはマンゾーニの足元に跪きたいと言ったとか言わないとか、そこまで信奉していたんですね。
私は読んだことがありませんが、日本でも売っている本です。
そのうち読んでみたいですね。
さて、レクイエムといえば三大レクイエムと言われる三つのレクイエムがあります。
- モーツァルトのレクイエム
- フォーレのレクイエム
- ヴェルディのレクイエム
この中でヴェルディのレクイエムは最も熱い音楽なんですね。
だから好きだという人が多いと思います。私も好きです。
ところが熱い音楽、それゆえに何かと批判が多いのもこの作品なんですよね。
なんとも不思議な気がするのは現代だからでしょうか。
ヨーロッパの歴史と宗教の背景が私たち日本人にはピンとこないのかもしれません。
レクイエム批判
ヴェルディのレクイエムなんて知らない、という人もたぶん一度は耳にしています。
怒りの日の部分はCMにも起用されていますし、一度聞いたら忘れない
と思うくらいインパクトが強い曲です。
レクイエムの中でも、もっとも情熱的なレクイエムと言われているくらいです。
ただ、そのため批判されてきたんですね。
レクイエムなのにオペラのようだ、劇場用だ、抑揚をつけすぎ、情熱的すぎるなど‥。
ある人は「僧衣ををまとったヴェルディの新作オペラだ」と皮肉っていますが、言い得て妙とはこのことかもしれません。
かくいう私も最初は、他のレクイエムなら行かないけど、ヴェルディのレクイエムだから聴いてみた
という一人ですから。
レクイエムの初演はサン・マルコ教会でしたが、オーケストラ100人に、合唱が120人もいたと言います。
そもそもそれだけの人数が入ることができる教会が普通にあることが、イタリアの歴史を感じるところでもありますけどね。
サン・マルコ教会には観光で行かれた人もいると思いますが、
ヴェネチアにあるこの寺院の巨大さなら、これだけの大人数が入ることは
なんでもないことだろう、と思います。
サン・マルコ教会は音響も良かったらしいんですね。
(どんな響きなのか聞いてみたいです)
いずれにしてもこの大きな寺院を使って追悼のレクイエムをすることができるほど、亡くなったマンゾーニという人も、ヴェルディも影響力があったということではないでしょうか。
余談ながら、日本のお寺の本堂も巨大な部屋がありますから、オーケストラくらい入れそうではありますね。
(こちらもどんな音がするんでしょうね。お寺は全部木だから良い音がしそうですけど‥)
さて、ヴェルディのレクイエムの「怒りの日」の部分はもっとも有名なところですが、
合唱は大勢で声を最大に張り上げて歌うし、大太鼓がドン!ドン!と鳴り響きます。
これが追悼のレクイエムかと言われれば、批判する人の理屈もわからないではありません。
通常静かめに歌うものですよね。
レクイエムに対する批判については妻で元プリマドンナのジュゼッピーナが烈火のごとく怒り、
ヴェルディはヴェルディらしくていいんだ、という様なことを言ったようですが、
確かにそれもしかり‥
もしヴェルディがしょんぼりしたレクイエムを作っていたら、現代において、上演されていなかったかもしれないと思います。
ヴェルディのレクイエムの聴きどころ
他のレクイエムとの比較
レクイエムと呼ばれる曲はたくさんありますが、
比較するとヴェルディのレクイエムは、確かにヴェルディのオペラっぽさが満載です。
はっきり言ってしまえば、
ヴェルディのレクイエムはオペラ感覚で、
他のレクイエムはミサ曲、
そんなイメージを私は持っています。
モーツァルトのレクイエムもヴェルディに比べるとちょっとおとなしいし‥。
フォーレのレクイエムはきれいだけど寝てしまいそう‥。
そんなイメージ。
ただ、フォーレのレクイエムのPie Jesu(ピエ イエズ)のところは本当に美しく大好きな部分です。
清らかで心が洗われますので、ぜひ聴いてもらいたいですね。
フォーレのピエ イエズを聞いてから、ヴェルディを聞くと、これは違うだろう!
と言いたくなる人の気持ちもちょっとわかる気がします。
やはりより敬虔な気持ちになれるのは、フォーレやモーツァルトの方かもしれませんね。
ヴェルディのレクイエムの聴きどころ
レクイエムでもっとも有名な聴きどころは「怒りの日」の部分です。
大太鼓と大合唱で迫力は満点で合唱の見せ所。CMでも使われています。
そして次の聴きどころは「涙の日」の章。
これはもともとオペラ、ドン・カルロのアリアだった曲です。
ドン・カルロというオペラはなんと5幕まであるオペラです。
グランドオペラなんですね。
ワーグナーのように長大なオペラなので、なかなか上演されませんが、劇的で感動的なオペラです。
主人公よりも王様よりも、ロドリーゴという親友がもっともかっこいいんじゃないかと思うのは私だけなのかな。
そのロドリーゴが死んでしまった時に王が嘆くアリアです。
いかにもヴェルディっぽい旋律ですが
時間が長すぎるため初演では削れらた部分でもあるらしく。
いやいやここは削らないで、と思ってしまいますが‥。
レクイエムの涙の日では、メゾソプラノから歌い始め、次にバスが歌いますね。
本当に素晴らしい、ここだけなんどでも聴きたいです。
2018.3.7鑑賞レビュー
平成30年3月7日サントリーホールでレクイエムの上演を聴きましたので鑑賞レビューを少し。
- 指揮:小林研一郎
- 管弦楽:日本フィルハーモ二ー交響楽団
- ソプラノ:森麻季
- メゾソプラノ:山下牧子
- テノール:西村悟
- バス:妻屋秀和さんが体調不良で→急遽 青山貴さん
武蔵野合唱団は歴史が長いだけあって、アマチュアとは思えない声でした。
総勢100人以上で歌う、「怒りの日」は迫力満点。
レクイエムは合唱がとても大変ですよね。
あの長大な合唱を全員暗記しているだけでもすごいです。
練習量はかなりなものではないかな、と思います。
土日は全部歌の練習とかかなあ‥。
当日、演奏が始まる前に指揮の小林研一郎さんがいきなり話し始め
妻屋秀和さんが直前で体調不良になってしまったことがわかりました。
オペラだと必ずサブの歌手が控えているのですが、今回の場合はオペラではないので、サブはいないんですよね。
1時間半前に急遽青山貴さんが代わりに駆けつけたとのことで、洋服が間に合わず普段着のまま登場。
靴も普段ばき。本当に急いで駆けつけたんだなとわかりました。
とても珍しいケースでしたね。
妻屋さんの体調も心配ですし、本人の心痛もいかばかりかと思いますが
直前に言われて急遽歌った青山貴さんには感服。
落ち着いて歌われていました。すごいです。っていうか普通歌えるものなの?と聞いてみたいものです。
今回の歌手の中ではメゾソプラノの山下牧子さんの声が印象的でした。
艶のあるふくよか、かつ強靭な声で、もっともヴェルディにぴったりだと思いました。素晴らしかったです。
森麻季さんはどちらかというとリリックなタイプなので、ヴェルディのオペラには向いていないと思うのですが
本来の趣旨である、協会のレクイエムと考えれば、森麻季さんの声が妥当なのかもしれないなと、
タイプの異なる二人の声を聞いてそんなことを思いました。
二人ともとても丁寧に歌う人、という印象で良かったです。
主催は武蔵野合唱団だったのですが、いつものようにコバケンさん(指揮者)は真摯で暖かく、みんなをねぎらう様子でした。
ピンチヒッターの青山貴さんにはとりわけ盛大な拍手が送られて、結果として記憶に残るとてもいい演奏会でした。
生のコンサートって、毎回違うしいろんなことがあります。
だからいいんですよね。
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