マクベスというとまず先に劇や芝居が浮かぶかもしれませんが、
オペラにもマクベスがあります。
ヴェルディが作曲した「マクベス」というオペラです。
原作はシェークスピア。
シェークスピアの四大悲劇の中の一つです。
シェークスピアの四大悲劇
シェークスピアの四大悲劇というと
- ハムレット
- マクベス
- リア王
- オセロ
の4つで、マクベスはこの中の一つです。
私などは、映画のロミオとジュリエットが一世風靡した時代を知っているので、
シェークスピアというとまずロミオとジュリエットが浮かんでしまうのですが、
こちらは、入っておらず‥。
ロミオもジュリエットも、二人とも死んでしまう悲劇だと思うのですが、
どちらかというと、恋愛もののイメージが強いからでしょうか。
ちなみにロミオとジュリエットのオペラもあります。
グノーの作曲で、日本ではあまり上演されませんがとてももっと上演されてもいいのにと思うオペラの一つです。
さて、シェークスピアはイングランドの劇作家です。
1564年生まれなので、ヴェルディよりずっと昔、
200年以上前に生まれた人です。(ヴェルディは1813年生まれ)
そして、現代の私たちからみると、シェークスピアは500年近く前の人ということになります。
現在でも繰り返し、シェークスピアは劇やオペラで上演されているわけですから、
作家の作品というのは、時代を超えて、長く残るものだなと、つくづく思います。
作曲家ヴェルディもシェークスピアの作品については、愛着を持っていたようで
他にもシェークスピアの作品を取り上げてオペラを作っています。
日本においては、マクベスより、オテロの方が、若干上演回数が多いような気がしますが、
個人的には、ヴェルディのシェークスピア作品の中では、マクベスの方がより好きです。
かなり暗いけどマクベスは、ドラマティックでおもしろいと思うんですよね。
初演と上演時間
初演
- 初演:1847年
- 場所:フィレンツェのベルコラ劇場
初演はヴェルディが34歳の時の作品です。まだ若いですね。
この若さで、迫力のあるこのオペラを作曲していることは、やはりヴェルディのすごさを感じます。
というか若さゆえの迫力なのかもしれません。
プッチーニが35歳の時に作った、出世作「マノン・レスコー」も若さが溢れる音楽ですから、
そういうことってあるような気がします。
オペラ・マクベスは、華やかさは無いのですが、マクベスとその妻の人間の欲望が巧みに表現されている、オペラです。
初演はイタリアのフィレンツェのベルコラ劇場。
そして初演から約20年後に、ヴェルディはパリのリリック劇場の上演のために、自ら改訂版を作っています。
現在上演される、マクベスはこの改訂版が多くなっていますが、
どちらの版による上演かというのは、見る際に気にしてみるといいかもしれません。
ベルコラ劇場
初演のベルコラ劇場は、フィレンツェにある、今も存在する、とても古い劇場です。
ベルコラ劇場は、現在は主に、バレエと劇を中心とした上演をしていますが、
この劇場のもう一つの特徴は、ハイドンのオペラを1951年に初演していることです。
そのオペラは「オルフェオとエウリディーチェ」。
よくオペラの題材に取り上げられるストーリーですね。
ハイドンは18世紀の人で、ハイドンの他のオペラは1700年代に初演しているのです。
つまり、このオルフェオとエウリディーチェというオペラは、200年近くも後に初演されたということで、
ずっと埋もれていたわけです。
なぜ埋もれていたのかの詳細は、わかりませんが、
おそらく、埋もれたオペラは、実は他にも、まだまだたくさんあるのではないかと思います。
リリック劇場
パリのオペラにはバレエがつきものです。
そのため、リリック劇場のための改変に向けて、ヴェルディも、マクベスにバレエの部分を挿入しています。
第三幕の魔女たちが出てくるところです。
ただ、バレエの部分は削除されることもあります。
バレエの部分は、プロのバレリーナが必要なので、上演の費用の面や、
上演時間が長くならないようにするために削除するなど、その時々の上演の都合があるようです。
さて、パリというとパリオペラ座が有名なのですが、リリック劇場というところでも
様々なオペラが上演されていました。
中でも
- グノーの「ファウスト」と「ロメオとジュリエット」
- ビゼーの「真珠採り」
などはリリック劇場が初演。
グノーもビゼーもフランスを代表する作曲家で、
この二人といえば、どちらも美しい旋律が浮かぶ作曲家ですね。
当時マクベスは計14回の上演に対し、ロミオとジュリエットは、90回以上、
そして、ファウストはなんと300回以上だったと言いますから、
少なくともフランスにおいては
当時ヴェルディより、ずっとグノーが人気があったということなのかなと思います。
上演時間
- 前奏曲:3分
- 第一幕:約45分
- 第二幕:約30分
- 第三幕:約30分
- 第四幕:約35分
これは、バレエがあるパリ版の時間です。
バレエが無い場合は、もう少し短くなるでしょう。
正味140分程度ですが、四幕まであるので、各幕間ごとに休憩が入ると、
3時間強というところでしょうかね。
マクベスあらすじ
マクベスの簡単あらすじです。
第一幕は、魔女たちのお告げのシーンと、暗殺のシーンです。
嵐の中、森で魔女たちに、「お前は王になる」と予言されたマクベス。
それを知ったマクベス夫人にけしかけられて、本当にダンカン王を暗殺してしまいます。
第二幕では、今度はバンクォーが邪魔になり殺害を企てるところから、待ち伏せして殺してしまうところ。
二幕後半では、祝宴の場に、殺したはずのバンクォーの血だらけの亡霊がいて、取り乱すマクベス。
そして第三幕は、再び魔女の森のシーン。予言が欲しくて、マクベスは魔女たちが森へやってきます。そこで、二つの予言。
- 森が動かないかぎり負けないこと
- 女から生まれ落ちた者には負けない
といわれ安心するマクベス。
最後、第四幕では気丈だったマクベス夫人が狂乱して死んでしまい、
マクベスは攻めてきた敵と戦いますがその時、予言が‥。
という具合で、悪者は死んでいくのですがとても劇的なあらすじで、
暗い悲劇なのですが引き込まれるあらすじで、おもしろいオペラだと思います。
マクベスの見どころ
主役はマクベスなのですが、このオペラの中心人物はどちらかというとマクベス婦人ではないかと思います。
夫のマクベスを操り、王の暗殺をけしかけるのはマクベス夫人です。
マクベスは自分のしでかしたことに、すぐにおびえ始めますが、
妻の方は、さらなる殺人を計画。
それはそれは怖い女性です。
もっともそんなマクベス夫人も、結局は精神がおかしくなっていってしまいます。
第四幕には、マクベス夫人の狂乱のアリアがありますが、
ランメルモールのルチアのような、悲恋の末のはかなげなアリアとは、まったく異なり、
手に付いた血の幻影に悩まされる、暗い不気味なアリアです。
ルチアのようなコロラトゥーラも無く、低音が多いアリアです。
ここは見どころでしょう。
この二人の夫婦の関係は、ワーグナーのローエングリンに出てくる、
悪役夫婦(フリードリヒとオルトルート)の関係に、少し似ています。
悪人だけどちょっと気の弱い夫と、根っからの悪役の、強い妻。
マクベス夫人はその他にもアリアがあり、
第一幕のアリア「勝利の日に」はダンカン王の殺害を企てる、怖いアリア。
そして、第二幕にマクベス夫人が歌う「日の光が薄らいで」は、王殺害後に、今度は邪魔者を消すために殺人を計画する、これも怖いアリアです。
という具合に、オペラ・マクベスの注目はやはりマクベス夫人かなと。
もちろんマクベスも、罪の意識に怯える様子が見どころで、歌とともに演技も要求される役だと思います。
そして、もう一人、殺されそうになり、息子を助けて、命をおとしたバンクォーもかっこいい役で見どころです。
バンクォーは殺された後、亡霊となって表れますが、それをどんな風に演出するかも見どころですね。
また、最後に動くはずの無い森が動いたことで、マクベスは唖然とし、負けていくわけですが、
森が動く様子をどのように演出するのかも、見どころではないでしょうか。
マクベス夫人は役柄的に、透き通るようなソプラノではなく、低い声が出る、強い声のソプラノが向いていると思います。
かつて、マリアカラスがこの役をやりましたが、まさに見た目も声もぴったりと合っているように思います。
もしドラマティックな声を持つワーグナー歌手がヴェルディを歌うとしたら、このマクベス夫人役じゃないかと思います。
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