オペラを見始めた頃、私の中ではオペラにドイツもイタリアも無かったし、ましてやロシアもフランスも無かったです。
そんな区別はまったく無くて、ただ「オペラ」という一つの大きなくくり
そんな感じでした。
ところがいろいろとオペラを見ていくうちに、
イタリアものやドイツものがあるんだなとか、ロシアものもあるなあと。
つまりオペラも国とか言葉がいろいろあるしそれぞれの傾向もある、というのを感じてきたんですよね。
今回はその中からいわゆるドイツものと呼ばれるオペラはどんなオペラなのか
について、書いてみたいと思います。
ドイツのオペラってどこのことを言うの
ドイツオペラの歴史を一言で表すなら、ずっとイタリアオペラに押されていたけど
途中からぐんぐん独自の路線で伸びてきた。
だからドイツオペラの底力はすごい。
ちょっと稚拙な言い方で私の勝手なイメージですが、そんな感じです。
特にウェーバー以降のドイツオペラは素晴らしくて、ドイツ的で力強い。
しかもオペレッタも盛んなわけで、今ではオペラといえばイタリアが主流だった時代があったということを知っている人すら少ないのではないかと思うほどです。
ではそもそもドイツオペラってどこのオペラを指すのかについてなのですが、
必ずしも現在のドイツのことだけを指しているわけではないんですね。
というのも現代からずーっと遡って、オペラが始まった16世紀頃までを考えてみると、
今のドイツのあたりの領土とか境目っていろいろ変わっているのですよね。
世界史を習っていた人ならなんとなくわかると思いますが、
ハプスブルク帝国の時代もあり、ナポレオンの時代もありと、陸続きのヨーロッパは時代により国の境と支配は変わっているのです。
ウィーンがあるオーストリアもドイツ語圏で、ハプスブルグ家の本拠地でもあったので、
多くのオペラが生まれました。
そのため、ドイツオペラというとドイツとともにオーストリアのあたりが浮かびます。
またドイツ・オーストリアの出身の作曲家のオペラを全てドイツオペラと呼ぶ、という考えもありますが
生まれはそうでも、他の地域に行く人もいますし、作風がドイツっぽいと言えるかなという人もあります。
そこで今回はドイツ語のオペラでドイツらしいオペラに焦点を当てて書いてみたいと思います。
モーツァルトもオーストリア生まれの作曲家なので
モーツァルトのオペラはドイツオペラの分類に入れられることが多いです。
ただ、モーツァルトについてはイタリア語のオペラも多く作っており、時代的にもちょっと微妙な立ち位置なんですよね。
モーツァルトとドイツのオペラ
モーツァルトの時代
モーツァルトの代表作にフィガロの結婚というオペラがありますが、これはイタリア語で書かれたオペラです。
フィガロの結婚はウィーン、つまりドイツ語圏で初演されているのですが、イタリア語のオペラだったわけです。
当時ウィーンでは多くのオペラが上演されていましたが、オペラはイタリア語が主流だったんですね。
これだけ見ても、オペラはイタリア語でなければいけないという風潮だったというのがちょっとわかるのではないでしょうか。
モーツァルトはイタリアオペラの風潮に合わせるように多くのイタリア語のオペラを作曲していたのです。
でもモーツァルトはドイツ語のオペラも作曲しました。
これらはドイツ語で書かれたオペラなんですね。
当時ドイツ語のオペラといえば、オペラというより歌芝居で、庶民向けのものしかできなかったのですが、
後宮からの逃走の時は、ヨーゼフ2世がドイツ語のために作ったブルク劇場というのがあったので、
そこでモーツァルトはドイツ語のオペラ「後宮からの逃走」を上演できたわけです。
後宮からの逃走はおとぎ話のような比較的軽い感じのオペラですが、そうやって考えるとこのオペラの意味って実は重要なんだなと思うんですよね。
いずれにしてもこの2作品は、ドイツオペラを引っ張る大きな牽引になったんじゃないかと思います。
モーツァルトの後に出てくるベートーヴェンやシューベルトになると、もうちゃんとドイツ語のオペラ、つまり自分の国の言葉になってくるんですよね。
ドイツのオペラってどんな作曲家がいるの
ではドイツオペラを作曲した人はどんな人達があげられるのでしょうか。
代表的な作曲家としてまず上がるのはワーグナーでしょう。
ドイツものといえばワーグナーは外せませんね。
そのほかドイツオペラというとまず浮かぶ作曲家は
- グルックのオペラ
- モーツァルトのオペラ
- ベートーヴェンのオペラ
- ウェーバーのオペラ
- ワーグナーのオペラと楽劇
- リヒャルト・シュトラウスのオペラ
- ベルクのオペラ
他にもたくさんいるけど、中でも有名な作曲家達です。
この作曲家たちの特徴にちょこっとだけ触れると、
グルックはオペラセリアの悪い因習を否定して、オペラをあるべき姿に導いた人。
ドイツオペラっぽいかというと、ちょっと微妙ですが一応いれました。
ウェーバーはドイツらしい力強いオペラを作り上げた若き天才。
ベートーヴェンはジングシュピール形式なのにまじめで実直なドイツらしいオペラを作った人。
ワーグナーは音楽と芝居を完全に融合させて楽劇という分野を作り、独自の演奏環境にこだわった人。
リヒャルト・シュトラウスはワーグナーの影響を強く受けたロマン派最後の作曲家。
ベルクは20世紀を代表する個性的なドイツの現代オペラで無調の音楽。
実はドイツ生まれの作曲家には、有名なヘンデルもいるのですが、
ヘンデルはすぐにイギリスに行ってしまうことと
ヘンデルのオペラはドイツオペラという感じではないので入れませんでした。
ドイツオペラの代表作と特徴
ドイツオペラの代表作
ではドイツオペラの代表作品をあげてみます。
- グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」
- モーツァルトの「魔笛」
- ベートーヴェンの「フィデリオ」
- ウェーバーの「魔弾の射手」
- ワーグナーの「タンホイザー」「ニーベルングの指輪」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」「ローエングリン」など
- リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」
- ベルクの「ルル」
古い順にあげてあります。
ドイツオペラの特徴
グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」は実はドイツオペラというイメージではありませんが、
バロック時代のオペラの中にあって、聞くとこのオペラはやはりすごいと感じます。
退屈しない、改革的オペラだなという感じです。
魔笛は、庶民の芝居小屋的な劇場をやっていたシカネーダの依頼で作ったオペラ。
だからおとぎ話的だけど音楽はとびきり最高。
モーツァルトは、イタリアオペラ主流の風潮に合わせてイタリア語で多くのオペラを書いたのに
フィガロの結婚の上演は明らかにイタリアでは少ないんですよね。
これってイタリア人が作ったオペラでは無いという差別?
まあ自国のオペラを主とするのは当然かもしれませんが、原語はイタリア語なのにとちょっと思ってしまいます。
ちなみに私はスカラ座で魔笛を見ましたが、当時の音楽監督だったムーティーが積極的にドイツものを取り入れる人だったからという話を聞いたことがありますね。
今でも続くドイツかイタリアかという確執のようなものが垣間見えました。
フィデリオはベートーヴェン好きなら一度はみると良いオペラかもしれません。
ウェーバーはこれぞドイツオペラという代表。
ドイツオペラを見てみたいなら魔弾の射手はおすすめ。情景が浮かぶ音楽が特徴です。
ワーグナーはまさにドイツものの代表。
ワグネリアンが世界中にいるほど人気がありますが、何しろ上演時間が長いものが多いので、できれば少しでも若い時に見た方が良いかも。
体力がいります。
リヒャルト・シュトラウスは美しく流麗なオペラと不思議な調の斬新なオペラの両方を作っていますが、ばらの騎士は美しい方のオペラで、うっとりする官能的な旋律が魅力と特徴です。
ベルクのルルは現代を代表する、シリアスなオペラ。
無調とか12調音階などと言われるまさに現代の音楽。
ドイツオペラっぽいというより、現代オペラという感じですね。
イタリアオペラとかドイツオペラとか、歴史を紐解くといろいろ確執などがあるんだなと思います。
また日本人の音楽家の人は、日本人のくせに西洋の音楽が理解できるのかと、厳しいことを言われたりすることもあるらしいです。
だからプロの人たちは大変だと思いますが、
鑑賞することにおいては、日本はヨーロッパから遠く離れているので、ドイツとかイタリアという偏見や先入観も無くて、純粋にオペラを楽しむことができますよね。
これって実はいいのかも、と思っちゃったりします。
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