プッチーニの三部作

今回はプッチーニの三部作と呼ばれる3つの短いオペラについてです。

もともとプッチーニは三つのオペラを一度で通して上演することを望んでいたのですが、

現在ではそれぞれ別々に上演されることが多くなっています。

 

プッチーニの三部作

プッチーニの三部作は短い3つのオペラからなっています。

  • 外套
  • 修道女アンジェリカ
  • ジャンニ・スキッキ

の3つです。

それぞれ50分程度の短いオペラで、内容は全く別、つながりはありません。

短いオペラはレオンカヴァッロの道化師マスカーニのカヴァレリア・ルスチカーナ

いろいろありますが、三部作のように3つのオペラでセットになっている作品は、私は他に聞いたことがありません。

プッチーニはなぜこのような構想を思いついたのか。

もっと古い時代のオペラにはまじめなオペラセリア幕間に短いオペラが挟まれるという上演形式がありましたが、決まった演目を必ずセットで上演する、という決まりはなかったのではないかと思います。

ホフマン物語は3幕それぞれにホフマンが恋した3人の女性が出てくるオペラで、三部作を見た時ちょっとホフマン物語を思い出したのは確かですがあくまで一つのオペラなんですよね。

強いて言えば、ワーグナーの楽劇「指輪」が4作品でセットになっているのですが、こちらは通しで一つの物語になっています。

プッチーニの、三部作のように全く別のストーリーがセットになっているのはやはりないかなと

多少なりともプッチーニはこの人たちのオペラに影響を受けていたのかどうかはわかりませんが、

いずれにしてもプッチーニという人は強烈な個性の持ち主だったと思うので、

このような構想をもったのでしょう。

イタリアにはダンテの「神曲」という叙事詩がありますが、プッチーニはもともと神曲から三部作を作ろうとしていたとか

ゴーリキーの自伝三部作から構想を得たとか言われています。

ところが実際に最初にできたのは「外套」で、これはパリの芝居小屋のような劇場でみた陰惨な劇がもとになっていました。

当時フランスでは血なまぐさい残酷性、映画で言えばホラー映画のような上演をする劇場があり、それに刺激を受けたわけです。

私はホラー映画はあまり好きではありませんが、凄惨な映画にも一定数ファンがいるものですよね。

当時そのような劇場、芝居小屋があったのも、そうだったのかなと思うのです。

色々読むとかなり強烈なものもあったようで、失神するとか。

そういう刺激を求める人がいるのかなと。

プッチーニも衝撃を受けたのでしょうか。そして外套が最初にできているんですね。

そして当初の構想のもとであったといわれるダンテの「神曲」からは3つ目の「ジャンニ・スキッキ」を作っています。

そしてこれが最も人気になるんですね。

別々に上演

三部作の初演はアメリカのメトロポリタン歌劇場で、1918年のこと。

プッチーニが60歳の時です。

この8年前にあたる1910年に、プッチーニは同じくメトロポリタンで西部の娘を初演しています。

当時のメトロポリタン歌劇場といえば、1908年から総監督はガッティ・カサッザとトスカニーニが率いる黄金時代でした。

西部の娘に続き、プッチーニの三部作の初演もメトロポリタンになったということだったのでしょう。

二人ともイタリア出身ですしね。

初演の評価はジャンニ・スキッキが最も評価が高く、外套も修道女アンジェリカもいまいちだったようです。

ジャンニ・スキッキの評判がよかったことは、現在でも3つの中で最も上演が多いことからもわかります。

ラウレッタが歌う有名なアリア「私のお父さん」は一度聞いたら耳に残りますよね。

そしてイタリアでの初演は翌年でローマのコンスタンツェ劇場というところだったのですが、

そして遠くブエノスアイレスでも三部作の初演が行われましたが

初演から二年後の1920年、ロンドンのコヴェントガーデンでの上演では修道女アンジェリカだけは省いて上演されました。

これについてプッチーニはかなり不満だったようですが、残念なことにこの上演以来

三部作は解体されて別々に上演されるようになったと言います。

ワーグナーはバイロイトに自分のオペラを上演するための劇場を作ることができ、

後世までそれが踏襲されている珍しいケースであって、

通常は劇場の意向、金銭的な問題などあるでしょうから、なかなかプッチーニの思い通りには行かず別々の上演になってしまったということだと思います。

一つが50分程度あるので、そもそも時間がかなり長くなりますし、

それぞれに主役級の歌手をよぶのは予算的にも厳しいと思います。

現在では、三部作をまとめて順番通りに上演することは稀で、

カヴァレリア・ルスチカーナ道化師サロメなどと組み合わせて

2演目を上演することが多いですね。

三部作の特徴

外套は凄惨で暗く

修道女アンジェリカは悲しいストーリー、

ジャンニ・スキッキは明るく楽しいオペラ、

という具合で、三部作の組み合わせはとてもよくできているなと思います。

これは2018年はじめて三部作をまとめて見ることができた時に改めて感じたことです。

そして、三部作に共通しているのは「死」

  • 外套は嫉妬から来る殺人
  • 修道女アンジェリカは息子の死を悲しみ自殺
  • ジャンニ・スキッキは富豪の老人の死と遺産を巡る喜劇

形は異なるけどいずれも「死」が関係しているんですね。

外套

ヴェリズモオペラと呼ばれる部類のオペラです。

荷物を運搬する小型船に乗る年老いた船長と若い妻、そして乗組員の中には妻の愛人が‥。

妻の浮気の現場を抑えて、浮気相手を殺してしまうと言うストーりー。

明るさや、切なさなどの救いが全くない、暗くて凄惨なオペラで若干設定の違いこそあれ

レオンカヴァッロの道化師によく似ています。

まさにヴェリズモオペラですね。

初演の評判が悪かったというこのオペラなのですが、結構おもしろいです。

というのもオペラにはこういうストーリーはあまり無いからじゃないかと思います。

私も血なまぐさいのはあまり好きではないのですが、そこはオペラなので映画のように目を覆いたくなるシーンはありませんし、オペラとしては斬新でおもしろいんですよね。

ところが当時、つまり初演された1918年頃というのは、ヴェリズモオペラはすでにちょっと飽きられており、さらに凄惨すぎるストーリーが非難されてしまったのです。

ヴェリズモの代表とも言えるマスカーニのカヴァレリア・ルスチカーナが1890年、

レオン・カヴァッロの道化師が1892年ですから、外套が初演された時は確かにブームから30年近く経っているんですね。

現在の私から見ると、ホラー映画やテレビなどの影響で、血なまぐさい映像やストーリーにはある程度慣れてしまっているから、それほど拒否反応がなく見られるのかもしれません。

何より緊迫感のあるオペラで一見の価値ありだと思います。また三部作まとめてみると、最後がジャンニ・スキッキで明るく終わるので、外套の暗さは気にならないんですよね。

プッチーニが三部作を別々にしたくなかった気持ちわかる気がします。

外套一つだとどうしても上演されなくなりますよね。

 

修道女アンジェリカ

三部作の中でもっとも上演されなくなってしまったのがこのオペラではないかと思います。

とにかく地味

そして女性しか出てこないということ。

バロックオペラは男性役を女性がやるし、全体にほとんど女性、というのはちょくちょく見かけるのですが、

男性が一人も出てこないというのは、私が知る限りはありません。

ところがこの三部作の中では実は最も美しいのがこのオペラだと思います。

音楽が美しいんですよね。

実はプッチーニも修道女アンジェリカは気に入っていたようなのです。

私がみた上演ではアンジェリカ以外の人物像がよく見えてこなかったので、演出も難しいオペラなのだと思うのですが、

それでも音楽の美しさは伝わってきました。

離れて暮らしている我が子の死を聞いて、生きる希望を無くしてしまう修道女アンジェリカは

かわいそうすぎて単独でみるには悲しいオペラです。

そのため、これについても、三部作が解体されたことで上演されなくなったということだと思います。

ちょっと残念。だけど興行的には仕方なかったのよねと。

 

ジャンニ・スキッキ

ジャンニ・スキッキはイタリアの古くからある喜劇コンメディア・デッラルテの流れを組んでいるのでは無いかとも言われています。

プッチーニはトゥーランドットにもコンメディア・デッラルテ風の幕間劇を入れているんですよね。

そう言われてみると、

お金持ちの老人がいて、医者がいて、恋を成就したいけど困難がある普通の若い男女がいる、

そして根っからの悪者では無いけどみんなを騙してまんまと財産をせしめるジャンニ・スキッキ

ペテン師アルレッキーノのようかも。

三部作の各地の初演ではどこにおいてもこのジャンニ・スキッキが最も人気があったというのも

前作2つを見るとその良さが倍増するからということもあったかも、と思います。

終わりよければ全てよし、と思える楽しい内容になっているんですね。

そして外套と修道女アンジェリカには有名なアリアが無いのに対し、

ジャンニ・スキッキには「私のお父さん」というアリアがあったので

やはりアリアの存在って大きいなと思います。

 

2018年は日本で三部作をまとめて上演するという珍しい試みがなされました。

外套と修道女アンジェリカを続けて上演するというやり方ではありましたが、プッチーニの意向通りの順番で、三部作を見ることができたのはとても貴重な経験でした。

三部作プッチーニ2018新国立劇場レビュー

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