ローマは一日にしてならずという言葉がありますが、
紀元前から栄えてきたローマは、私たち日本人から見ると、とても歴史のある都市で、
それは、文化においても、同様だと思っていました。
実際、ルネサンス時期には、フィレンツェとともに中心になった都市であったと思います。
ところがオペラにおいては、ローマはそれほど栄えなかったようです。
オペラの初演
初演の時期と場所から見えるもの
イタリアで発祥したオペラの上演、とりわけ初演というのは、
人々のみならず、国家としても時には重要なイベントでした。
どの劇場からの依頼で作られたオペラなのか、初演はどの劇場だったのかということや、誰の作品の初演なのかは、とても興味があるところです。
巨匠ヴェルディの初演ともなると、国家レベルの大イベントでしたし、
オペラはしばしば、王や皇帝、貴族の式典のセレモニーとして作られることもありました。
そのため、イタリアのオペラの初演の場所と時期を見ていくだけで見えてくるものもあります。
誰のオペラの初演をどこで行ったかということは、作曲家の人気の度合いや、その土地がオペラが盛んだったかどうかの一つの目安になるということなのです。
ヴェネチアとナポリ
オペラはフィレンツェで始まり、ヴェネチアで現在のオペラに近い形が発達しました。
ヴェネチアで脈々とオペラの流れが続きつつ
オペラはナポリを中心としてバロックオペラが盛んになり、
18世紀後半にハプスブルク帝国の下でミラノスカラ座ができると、
ミラノも急速に音楽の都市になっていった
というのがとてもざっくりした歴史かと思います。
そのためか、17-18世紀についてはオペラは、ヴェネチアでの初演とナポリの初演が多いのがわかります。
時代が古いほどヴェネチアが多く、徐々にナポリが多くなってきており、
そして時代が新しくなるほど、ミラノのスカラ座で、多くのオペラが初演されていたことがわかるのです。
ところが、不思議なことにローマが初演のオペラで現在まで上演されている有名どころのオペラが、なぜか少ないことに、気が付きます。
ローマのオペラ
ローマの歌劇場
現在残っているローマの歌劇場で有名なものは
ローマ歌劇場とアルジェンティーナ歌劇場ではないでしょうか。
ローマ歌劇場は、昔の名前はコンスタンツェ劇場といいました。
その後今でいう市の経営となってから、ローマ歌劇場と呼ばれるようになっているんですね。
また、アルジェンティーナ劇場は700名程度のこじんまりした劇場で、こちらも歴史は古く
現在もありますが、主に劇の上演が中心の劇場です。
そのほか現在はありませんが、ローマにはアポロ劇場というが劇場もありました。
ローマ歌劇場
ローマ歌劇場 オペラの演目
ローマの初演オペラ
ローマで初演されているオペラももちろんあります。
特に目立つのはマスカーニの初演です。
マスカーニは、カヴァレリア・ルスチカーナなどヴェリズモオペラで人気のあった作曲家ですが、
彼のオペラの初演の多くは、ローマ歌劇場(コンスタンツェ劇場)で上演されています。
ローマ歌劇場とマスカーニは、つながりが強かったことが伺えます。
ただ、どれも19世紀も終わりごろのことなので、比較的新しい時代なのです。
ローマ歌劇場の初演オペラとしてもっとも有名な演目は、プッチーニのトスカではないでしょうか。
これが1900年の初演なので、やはり比較的新しい時代のことです。
実は、巨匠ヴェルディもローマにおいていくつか初演をしています。
- 1853年にイル・トロヴァトーレ
- 1859年に仮面舞踏会
どちらもヴェルディの、有名なオペラなのですが、実はこれらのオペラは
もともとはローマ初演ではなく、ナポリ初演のはずでした。
ナポリのサン・カルロ劇場で初演される予定のオペラだったんですね。
ところが、検閲の問題や金銭的な問題などがあり、結果としてローマでやることになったといういわくつきのオペラです。
18世紀のバロックオペラの時代から、19世紀の著名なオペラの多くの初演は
やはりヴェネチアとナポリでの初演が多いんですね。
ルネサンスはローマも中心だったはずなのにと思いませんか。
そこにはカトリックの聖地という、土地柄の問題も絡んでいたようなのです。
宗教音楽は栄えても、オペラとなると教会のための音楽というわけではありませんから、
ローマ教皇を始めとする、教会の思惑が大きく影響したのが、ローマという土地柄だったのです。
もちろんそれだけの理由ではないと思いますが
オペラの初演場所を見ていると、ローマが少ないのは明らかなのです。
首都ローマなのに、少ないのはどうしてもちょっと寂しい感じがしてしまうんですよね。
ローマ歌劇場(コンスタンツェ劇場)
現在、首都ローマのオペラハウスといえば有名なのはローマ歌劇場でしょう。
ローマ歌劇場は、元の名前がコンスタンツェ劇場で1880年の創立。
こけら落としはロッシーニのセミラーミデというオペラでした。
ロッシーニという人は、オペラセリアとオペラブッファの両方を作っている作曲家で、どちらかというとセビリアの理髪師のようなオペラブッファが有名ですが、
セミラーミデはセリアの方のオペラです。
そしてこのオペラの初演も、ローマではなく1823年ヴェネチアでしたが、ロッシーニの中でもとても重厚なオペラで内容的にも合っていたのでしょう。
これをこけら落としにしたわけですね。
当時のローマ歌劇場(コンスタンツェ劇場)には、ホテルが隣接していて地下通路を通って直接劇場に行けました。
そのため、出演者たちが顔を見られずに劇場まで行くことができ、プライバシーを守ることができるということも特徴だったのです。
現在そんな劇場はおそらくほとんどないと思いますので、ホテルに泊まれる場合は便利だったことでしょう。
そのかわり、ファンによる「出待ち」というのはなかったわけですね。
余談ですが、現在でもそのようなホテルがあってもいいのではないかという気もしますが、
冷静に考えると、劇場とホテルの経営が異なる場合は管理も難しいでしょうし、
ホテルの金額設定も難しくなるでしょうし、最近のホテルはプライバシーもかなり守られていますよね。
有名どころの歌手が泊まっていることがはっきりすると、それを目当てにくるファンがいるかもしれないなど、面倒な事態も起きそうなので、
やはり無理なのかもしれないと思います。
コンスタンツェ劇場からローマ歌劇場に
ローマが所有することになり、コンスタンツェ劇場はローマ歌劇場へと変わりますが、
その再開時の最初のオペラは、ボーイト作曲の「ネローネ」という作品でした。
ローマ歌劇場の再出発の上演としてこのオペラを選んだ理由はなんだったのか、ということがちょっと気になります。
というのも、ボーイトという人は、「メフィストフェーレ」というオペラも作っていますが、
「ネローネ」と合わせてオペラは2点だけですし、どちらも現在ではあまり有名ではありません。
また、ボーイトといえばオペラというよりファルスタッフなどの台本作家というイメージの方がどうしても強いのです。
「ネローネ」は、ローマの皇帝ネロを題材にしたオペラなので、ローマと関係ある題材ということなのでしょうか。
ボーイトという人は、ネローネを完成できずに未完のまま亡くなっており、
その後補完され、ミラノスカラ座においてトスカニーニ指揮で初演したオペラなんですね。
なんとなく、どうしてこの演目だったのかと選んだ理由を当時の関係者に聞いてみたい気がしてしまうのです。
カラカラ浴場のオペラ
最後に、カラカラ浴場のオペラのことも少し。
ローマ歌劇場は、シーズンオフとなる夏の時期に、
ローマのカラカラ浴場でオペラの野外公演をします。
夏の風物詩のようなものでしょうか。
北イタリアのヴェローナには、古代ローマの円形闘技場跡を利用した
アレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭という、野外のオペラがありますが、
南のローマには、やはり古代ローマのカラカラ浴場を利用した、オペラがあるんですね。
何万人も入る野外のオペラは、かしこまってみるというよりイベント感覚で行くようなオペラで、これもまた楽しいのではないでしょうか。
カラカラ浴場は、1990年のイタリアのワールドカップの際、三大テノールのコンサートを開いた場所でもあり記憶に残っています。
三大テノールとは
- プラシド・ドミンゴ
- ルチアーノ・パバロッティ
- ホセ・カレーラス
の三人です。
そして、三大テノールは、日本の国立競技場に置いても同様の野外コンサートをしました。
ワールドカップの一大イベントを、そのまま日本にもってくるなどということができたとは、今考えるとすごいことなんですよね。
当時の日本はまだバブルが終わる前で、経済的に潤っていた時期だったんだなと思います。
日本においても、神社やお城などを利用した野外オペラは時々見かけますが、
三大テノールの時のようなに、大規模な野外オペラアリアを聞くことができたのは、後にも先にもあの時だけじゃないかと思います。
ちょっと懐かしい‥。
さて、2018年の9月にローマ歌劇場の引っ越し公演がありました。
ローマ歌劇場といえば、初演を行ったプッチーニのトスカかなと思ったらその時は
でした。
何年か前にローマ歌劇場が来日した時に、すでにトスカは上演していたので別の演目に変えたということではないかと思います。
ちなみにその際の、もう一つのオペラは、ヴェルディのリゴレットでした。
2018年の来日公演ももヴェルディとプッチーニという組み合わせでしたね。
ローマ歌劇場は、カヴァレリア・ルスチカーナの初演場所ですし、
作曲家マスカーニとは縁の深い劇場だと思うので、聴いてみたいところですが、
カヴァレリア・ルスチカーナは、一幕もので時間が短く、
そこまで有名なオペラではないので、やはり無理なのかなと思いました。
そのうちローマ歌劇場がまた来ることがあれば本家ならではのカヴァレリア・ルスチカーナも聴いてみたいですね。
ローマ歌劇場2024プログラム
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