今回はロッシーニのセミラーミデというオペラについてです。
ロッシーニは、セビリアの理髪師など、日本ではオペラブッファのイメージが強いのですが、
実はロッシーニはオペラセリアも作っているし、グランドオペラも作っています。
実は私もブッファのイメージを強く持っていたのですが、セミラーミデを見てみると、あれ?これは!という驚きでした。
実はセリアがすごくいいんです。
ロッシーニのイタリア最後のオペラ
セミラーミデというオペラは、ロッシーニがイタリアで初演した最後のオペラです。
ロッシーニとはイタリアのペーザロの生まれ。(ペーザロはアドリア海に面した都市で、ヴェネチアより南です)
最初のうちはヴェネチアでの活躍が多いのですが、後半1815年あたりからナポリでの活躍が目立つようになります。
当時のナポリはドメニコ・バルバイアという敏腕マネージャーが活躍していた時期でもあります。
そんなナポリを後にしてロッシーニは1824年からパリに移り住んで、今度はパリ向けのオペラを発表していくのですが、
ロッシーニがイタリアで最後に残した作品となるのがこのセミラーミデというオペラです。
セミラーミデの初演の場所はヴェネチアのフェニーチェ歌劇場。
ナポリではないんですよね。
というのもロッシーニはバルバイアと一緒にウィーンにいき(バルバイアはウィーンの劇場のマネージャーもやっていました)そのままナポリには戻らずヴェネチアの仕事を最後にしたのです。
フェニーチェ歌劇場は今もある有名な劇場です。川に面した方に正面玄関がある歌劇場です。
さて、ロッシーニというとブッファのイメージが強い人が多いのではないでしょうか。
ロッシーニの代表作がセビリアの理髪師なので、どうしてもそうなるんじゃないかと。
でも実はロッシーニはかなりセリアも作っているのです。その代表がこのセミラーミデ。
特にナポリ時代に作った作品はセリアが多いんですよね。
オテロもその一つ。
ロッシーニのオテロは当時かなり人気でずいぶん上演されたようなのですが、
70年後にヴェルディのオテロが発表されてからその座を取って代わられたというか、最近ではオテロといえばヴェルディの方が断然有名になっていますよね。
でもって、私もロッシーニといえばセビリアの理髪師の明るいイメージがずっと強かったんですけど、このセミラーミデを見て、え?!と思ったんですよね。
すごく良かったからです。
まるでヴェルディのように劇的。
というかロッシーニよりヴェルディの方が後の世代ですから
なんていうのかな、ヴェルディのドラマティックなオペラって実はロッシーニから受け継いでいるんじゃないの?と思うような情熱的な音楽なんですよね。
オーケストラの重厚さでいうとヴェルディの方が好きなんですけど、ソプラノのアリアとかバスの二重唱とかすごくいいのです。
というわけで個人的には、ロッシーニってセリアもすごくおすすめです。
あまり上演されませんけど。
一つには超絶難しい!ということもあるみたいです。ロッシーニのアリアってブッファの方も難しそうですもんねえ。
コロラトゥーラに聞き惚れたいならロッシーニのセリアもいい
セミラーミデってあまり上演されないんですけど、なんでそこそこ有名かっていうと、有名なアリアがあるんですよね。
それは第一幕でタイトルロールのセミラーミデが歌う「麗しい光」というアリア。
セミラーミデがアルサーチェが来ると聞いて喜びを歌うアリアです。
セミラーミデはアルサーチェが好きなんですが、実はアルサーチェは死んだと思っていた実の息子なんでよね。
いいの?それ!エディプス王か?なんてと思っちゃいますが
何れにしてもこのアリアは美しいだけでなく、超絶難しそうなのです。
何がどう難しいかという専門的なことはわかりませんが、音楽家ではない私でも「いやあ、これは難しそうだわあ」と思うようなアリアです。
これを舞台で、余裕をもって歌える人なんてそんなにいないんじゃないかなと思います。
まさにコロラトゥーラ満載で、かつ美しさでは天下一品!
有名な椿姫のヴィオレッタ役もかなり難しいと思うんですけどそれ以上じゃないかなと。
もしコロラトゥーラに聞き惚れたいならこのアリアを、というかロッシーニのオペラセリアを聞くのがいいのじゃないかと私は思います。
それにセミラーミデってバスの曲もすごくいいんですよね。
あと二重唱も。これがまたヴェルディっぽい。
いい感じの二重唱は、ヴェルディ好きならきっと気に入ると思います。
そしてロッシーニらしい軽快クレッシェンドもありで、
明暗と緩急のコントラストがはっきりしているオペラで、それは序曲だけを聞いてもわかると思います。
ロッシーニってブッファだけじゃないよ、っていうのがよくわかる作品ですね。
なぜこれをグランドオペラにしなかった?
ロッシーニってセミラーミデを最後にイタリアから→フランス(パリ)に移住してるんですよね。
フランスで最初に作ったのは式典用の一幕ものオペラで「ランスへの旅」。
これは式典用なので別として、パリに呼ばれたからにはやはりグランドオペラを作らなきゃというわけで
ロッシーニはパリオペラ座のためにグランドオペラを発表していくんですよね。それが
- コリントの攻城
- モーゼ
- ウィリアム・テル
という作品。
でもってロッシーニはこれらのオペラを全部ゼロから作り出したわけじゃなく
過去の自分の作品を使っているのです。
「マオメット2世」(2020年ナポリ初演)→書き直して「コリントの攻城」を作り
「エジプトのモーゼ」(2018年ナポリ初演)→書き直して「モーゼ」を作る。
というように、元々あったものをグランドオペラ風に作り直したんですよね。
確かにこの二つは劇的な戦いや、モーゼが起こす奇跡といったグランドオペラ向きのスペクタクル性があるから、グランドオペラに改変しやすかったのかなと思います。
(さすがにブッファはグランドオペラにしないみたいです)
一方で、じゃあセミラーミデでもよかったんじゃないの?神殿に雷が落ちたり、亡霊が出たりするし、グランドオペラになりそう、
などという素人考えをつい起こしました。
ロッシーニのセリアはそのほかにも、ゼルミーラとかあるっちゃあるんですけどね。
コリントとモーゼがいずれもナポリの作品だったことがなんか関係しているのかなあ。
セミラーミデは歌が難しすぎてパリじゃまだ無理だったのかなあなんて、勝手に想像しちゃいました。
というのもテクニック的に、イタリアの歌手はコロラトゥーラができても、当時フランスの歌手はまだそれほど高度な技術ができなかったらしいんですよね。
でもフランスで上演するし、フランス語で歌うから、フランスの歌手を使った方が良い。
その方が盛り上がるしって、そういうことってきっとあったと思います(また妄想かな笑)。
結局グランドオペラが全盛になるとすごいスター歌手が続々出てくることになるのですけどね。
例えば最後にロッシーニが作った「ウィリアム・テル」などは過去の改変ではなく、オリジナルで作ったグランドオペラなのですが
この頃には今も名前が残っている大歌手が出てきていて、テル役をやっているのはフランス人のアンリ・ベルナール・ダバディ、
テノールのアドルフ・ヌーリなどがいてフランスの名歌手と呼ばれる人達になっていくのです。
ちなみにちょっと逸れますが、アンリ・ベルナール・ダバディっていう人はのちにドニゼッティの愛の妙薬の初演でかっこいいベルコーレ役をやっているんですよね。こちらはイタリア語で。
フランスのスターだったんだろうなあ。どんな声だったのか、聞くことはできないのが残念ですが。
セミラーミデの簡単あらすじ
最後にセミラーミデの簡単あらすじを。
セミラーミデの元になっているのはフランスの文学者ヴォルテールという人が書いた「セミラミス」という作品で、
セミラミスというのは紀元前800年頃、古代バビロニアの女王の名前です。
全体では2幕しかないんですけど、場が多くて
- 第一幕・・第3場まで
- 第二幕・・第5場まで
という場の多さ。初演がいまいちだったのは第一幕が序曲を入れると正味1時間半、場の入れ替えを入れればおそらく2時間近くあったらしくそのせいもあったとか。
ワーグナーを見慣れている人なら我慢できると思いますが‥。
<簡単あらすじ>
女王が夫(国王)を暗殺し、その女王が息子に殺されるという悲劇。
第一幕は暗殺された王の後継者を選ぼうとすると突然雷が落ち、祭壇の火が消え、皆恐れおののくところから始まります。
実は前王は女王セミラーミデとアッスールの陰謀で毒殺されたもの。
軍の指揮官アルサーチェ(実はセミラーミデの息子)はアマーゼという女性を愛しているが
アッスールもアマーゼが気に入っているため二人は火花を散らします。
一方セミラーミデは実の息子とは知らずにアルサーチェが自分に思いを寄せていると勘違い。
またアッスールは前王の暗殺に手を貸したのに恩恵がないことを恨んでいる。
殺された王の亡霊が出てきて、「罪がつぐなわれた時アルサーチェが王になる」といい
人々は恐れます。
一方アルサーチェは自分が前王とセミラーミデの息子だと知るのですが、未だにそれを知らない母セミラーミデに言い寄られ、自分は息子であることを告げます。
それを聞いたセミラーミデはならば自分を仇と殺せと、とはいえ再開を喜ぶ二人。
謀反を企てるアッスールを打ちにいくアルサーチェだが、暗闇の中で打ったのはセミラーミデ。愕然とするアルサーチェだが、人々は彼を新しい王と讃えるところで幕。
日本で上演されたことがあるのかどうかわかりませんが、ぜひとも生で見てみたいオペラです。
無理なら海外で見るしかないのかなあ。最近はネットの生配信があるから可能性はありそう!ですね。
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