オペラ「スペードの女王」の上演を久しぶりに見てきました
マリインスキー劇場で指揮はゲルギエフです。
前の日にヘンデルのリナルドを見ていたのですが、両者は天と地ほどの違うオペラ。
管弦楽はリナルドの3倍くらいいるし、そもそも楽器も違っているし、歌手の声質も違えばストーリーも陽と陰。
オペラってほんとにいろいろあります。
久しぶりのマリインスキーオペラ
私の記憶違いでなければマリインスキーのスペードの女王は今から約20年ほど前にも引っ越し公演があったと思います。
当時のパンフレットにはキーロフ歌劇場とも書いてあったような。
そして指揮は今日と同じまだ若いゲルギエフだったかと。
なので私にとっては実に久しぶりで懐かしいオペラでもあります。
あの時のゲルマン役が誰だったのかは覚えていませんが、とてつもなく太い声が出る人だったのでロシアの歌手はやたら声が大きいという印象を持ったものでした。
そして伯爵夫人がゲルマンに脅されてのけぞって死んでしまったシーンは今でも目に焼きついています。
オペラって演目によっては、何度も生で見ることすら難しいです。
でも、だからこそオペラって一生の趣味なのよねと改めて思いました。
当時チャイコフスキーっておどろおどろしたオペラを作るんだなと思ったものですが、
今回久しぶりに見てもやはり怖いオペラでした。
怖いというより暗いといった方が良いかも。
ロシアのオペラってボリス・ゴトゥノフのように軍記物とか土臭い感じのイメージが多く、ロッシーニとかモーツァルトのような明るさはないけど、それはそれで好きなんですが
スペードの女王はそういう土臭さとは違っています。
見終わって一言で感想をいうなら「とにかく暗いオペラだった!」と思ったんですよね。
ただ音楽はチャイコフスキーだし、原作がプーシキンで亡霊と魔のカードもでてくるとあって、すごく引き込まれちゃうオペラでした。
どうなるんだろうと前のめりになりそうな感じ(なると怒られますが笑)。
普通ならアリアの後に拍手をしたくなるのですが、うまく歌い終わってもこの雰囲気でパチパチと拍手するかなあ?と思ってしまうような内容なんですよね。
拍手したらこの暗い緊張感が途切れてしまいそう‥
そんな雰囲気が終始流れているオペラでした。
それでもリーザの切ないアリアの後などは大きな拍手が出ていましたけど全体として拍手があまり出なかったのは、そんな理由じゃないかと思います。
音楽も拍手をあまり待たずに進んでいきましたしね。
豪華で厳かな演出がロシアっぽくてよかった
私はオーケストラの演奏会にはそれほど行かないのですが、そんな中でもっともたくさん聴いているのは「チャイコフスキーの交響曲第6番・悲愴」なんですよね。
そんな私にとっては、エウゲニー・オネーギンよりも今回のスペードの女王の方が、
「わあ、チャイコフスキーだ」と感じるフレーズがたくさんでした。なぜかわからないけど‥。
音楽が美しいし躍動的だし、なんといっても上品。
そして怖さを表現するのもチャイコフスキーってうまいんですねえ。
それとも指揮者がゲルギエフだったからなのかも。
というわけで今回は音楽の印象が強かったのともう一つ演出もすごくよかったです。
厳かで上品な雰囲気はロシアの貴族という感じ。
大きなソファはとても優雅。そして人間が扮した3体の銅像も登場。
最初は本当の銅像かと思ったんですよね。
でもあまりによくできているのであれ?人間だと
最初のうちは人間か本当の銅像かを見分けるために何度も見ちゃいました。いつのまにかポーズが変わっていてあれ?手の位置が違う‥やっぱ人間だわという感じ(笑)
その後銅像は金色にも。
この銅像の存在も雰囲気にあっていた気がします。目立ってましたから。
そしてもう一つ印象的なのは大きな柱がついた3列の幕。
これが左右上下に動くのですが、同時に動くとなんともかっこよかった。
幕でこういう演出ができるのねと、演出っておもしろいなと思いました。
まして演出ってゼロから作るんですもんね、すごいものです。
また、厳かな雰囲気を醸し出していたのは人々の動きのせいもあるのかも。
メインの登場人物をのぞき、ほとんどの人はゆっくりゆっくりと動いていました。
これが優雅であり、ちょっと不気味でもあり、スペードの女王の内容にはドンピシャだった気がします。
もう一つ男女共衣装が豪華だったこと。ヨーロッパの絵画でしか見られないような豪華なカツラと衣装。
これも目に楽しませてもらいました。
私はすごく今回の舞台演出、とても好きでしたね。
スペードの女王・歌手について
今回主役のゲルマンはダブルキャストだったみたいですが、私が見たのは若手のミハイル・ヴェクアというテノール歌手の方です。
声をきいてまず思ったのは声質がルネ・コロにちょっと似ているということ。
どちらかというと高い声の方がよく響く人で、ルネ・コロのようなビブラートは無いけどなんとなく声質が似てるなと。
不敵な表情の見た目はゲルマンのイメージにぴったり。
ゲルマンってすごく大変な役だと思うんですよね。
おかしくなっていっちゃう役だから演技力も必要だし、長く歌う場面も多いし。
ドラマティックテノールっていう部類だと思いますが、今回のゲルマンはそこまでドラマティックっていう感じでもなかったけど、ワーグナーとかこれからもっと歌うんだろうなあと感じる声でした。
指輪のローゲもやったらしいけどなるほどの見た目です。
最初に3枚のカードの秘密を歌ったトムスキーはウラディスラフ・スリムスキーというバリトン。
最後にエースのカードが→クイーンに変わってしまうあたりは、オペラではすごくあっさりなので、
このトムスキーの語りをよーく聞いておかないと話はわかりずらいんじゃないかと思うんですよね。
その分このアリアはかなり長いし大変、と今回は感じました。
リーザを歌ったのはイリーナ・チュリロワというソプラノ。この人の経歴を見るとマリインスキー劇場のデビューはグノーのファウストのマルグリットだったようで
悪魔のような男性に言い寄られて捨てられるところは、今回も通じる役ですね。
実際スペードの女王を見ていて、ファウストが浮かんでいたのでなんか納得しちゃいました。
第三幕の悩ましいアリアがすごくよかったです。この日一番拍手が多かったかも。
リーザのアリアの中に「これまで幸せだったのに」という一節がありますが、いやいやずっと不幸せだったよねとつい原作を思い出しちゃいましたが‥。
よく通る強い声で、アイーダとかオテロのデズデモナもやっていて確かにあいそう。お化粧によっては悪役も行けそうですね。
魔のカードの秘密を持つ伯爵夫人を歌ったのは、アンナ・キクナーゼという人。
伯爵夫人はこのスペードの女王というオペラのキーマンのような重要な役だと思うので今回どんな感じかなと楽しみにしていたところでもあります。
それほど歌はないしセリフも少ないけど存在感たっぷりの役。
原作ではリーザを召使いのように扱う面倒臭い老婆ですが、今回の伯爵夫人は見た目も若いしいかにも良い人そう。
特に見せ場となる亡霊のシーンは、いきなりベッドから起き上がってきてゾッととしたものの、もっとゾンビっぽい出で立ちでいてほしかったなあと個人的には思っちゃいました。
全体にチャイコフスキーのスペードの女王って、ストーリー的に登場人物の性格がいまいち立っていない感があるし最後は割とあっけないですよね。
だから原作を読んだ方がいいと思うんですけど‥。でも音楽がいいんですよえ。
エレツキー侯爵役はロマン・ブルデンコ
リーザの友人ポリーナ役はユリア・マトーチュキナ
今回は多分全てロシアの歌手?
前回見たときもロシアの歌手で占めていたと思うのでそこは同じスタンスのようですが、
全体に声量がある歌手が多かったです。さすがロシア。
いずれにしても生でゲルギエフを見られて、何十年かぶりにスペードの女王を見られたのはよかった!。
次回はいつかなあなんて思いながら帰途につきました。
↑こちらもよければどうぞ。
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