今回は、女性の声の中でもソプラノの種類について書いてみます。
軽い声やドラマティックな声など、同じソプラノでもいろんな種類の声があります。
女性の声の分け方
女性の声の種類は主にソプラノとメゾソプラノに分かれます。
これにアルトが入ることもあります。
女性の声の種類は、音域のレパートリーが高い順に
- ソプラノ
- メゾソプラノ
- アルト
となり、もっとも高い声の種類がソプラノですね。
アルト歌手という肩書きにしている歌手の方は、あまり見かけません。
オペラ歌手がメゾソプラノとアルトを、はっきりと分けて自称している例は、少なく、
またオペラの役柄の方も、通常メゾソプラノとアルトの種類の区別はほとんど無いので
基本的にはメゾソプラノとアルトは同じに考えておけば良いのではないかと思っています。
たまにプロフィールに「アルト」と書かれている人を見ますが、低めの声質なんだなと、思って見ています。
また、オペラの役柄の中には
メゾソプラノとソプラノの中間のような役柄もあります。
そんな場合は、ソプラノ歌手が歌うこともあるし、
メゾソプラノ歌手が歌うこともありますね。
メゾソプラノの中にはソプラノの音域まで出る種類のタイプの歌手もいますし、
逆にソプラノだけど低音も安定して出すことができる種類のタイプの歌手もいます。
そんな歌手の方達が、上記のような中間的な役をやっているようです。
もっというと、昔から名歌手と言われたソプラノは低音も高音もよく出る、音域の広い歌手が多いようです。
また、通常コロラトゥーラを得意とするのは、女性の声の種類の中でもソプラノ歌手ですが、
メゾソプラノだけどコロラトゥーラが得意な歌手もいます。
個性もいろいろなんですね。
さらに年齢を重ねると、声質や音域が変わってくる人も多いので、本当のところは、きっちり声の種類を線引きするのは難しいのではないかと思います。
さて、今回は、ソプラノの中でも、さらに種類を分けて呼ぶことがあるので、それについてです。
メゾソプラノは、役柄が少ないこともあり、ソプラノのような種類分けは
基本的にはあまりありません。
ソプラノの分け方も一通りではありませんが、今回は
- レッジェーロ
- リリコ
- スピント
- ドラマティコ
という4種類で分けています。
レッジェーロとリリコの間のリリコレッジェーロ、
また、リリコとスピンとの間のリリコスピントというように、さらに細かい種類で分ける場合もありますが
今回は複雑になると思い、基本的な4種類に分けました。
レッジェーロ
レッジェーロ(leggero)は軽くとか軽やかに、優美に、という意味。
ソプラノの中でもっとも軽い種類の声質を指していいます。
レッジェーロは音楽用語ですが、声楽だけに使われるわけではなく、
例えば、ショパンのピアノ曲に子犬のワルツという曲がありますが、
子犬のワルツは leggeroという注意が付いていて、軽やかに弾いてください、ということなんですね。
日本人歌手はどちらかというと体型が華奢なので、このレッジェーロの種類の人が多いと思います。
また、コロラトゥーラソプラノと言って、コロコロと転がすように、装飾をつけて軽やかに歌う種類の技術がありますが、これは主にレッジェーロの人が得意とします。
レッジェーロは役柄でいうと
- モーツァルトのドンジョバンニの村娘 ツェルリーナ
- モーツァルトの魔笛に出てくる 夜の女王
- モーツァルトの後宮からの逃走の コンスタンツェ
- フンパーディンクのヘンゼルとグレーテルの グレーテル
- ヨハン・シュトラウスのこうもりの アデーレ
- ドニゼッティの愛の妙薬の アディーナ
- オッフェンバックのホフマン物語の オランピア
- R・シュトラウスのばらの騎士の ゾフィー
など。
またレッジェーロのソプラノ歌手といえば、
- グルベローヴァ
- スミ・ジョー
- エヴァ・メイ
- ルチア・ポップ
- コトルバス
といったあたりが有名でした(ちょっと古いかな)。
エヴァ・メイは最近は重めの役もやっているようですが。
レッジェーロは明るい若い娘や子供の役に多いですね。
リリコ
リリコ(lirico)は、叙情的な、という意味の言葉です。
レッジェーロが無邪気な若い娘のイメージだとすると、
リリコはそれより少し大人の、女性で、女性らしさを感じる声といったところでしょうか。
恋人役が多いのもソプラノのリリコという種類だと思います。
役柄でいうと
- モーツァルトのドンジョバンニのドンナ・エルヴィラ
- モーツァルトの魔笛のパミーナ
- オッフェンバックのホフマン物語のアントニア
- プッチーニのラ・ボエームのミミ
- ビゼーのカルメンのミカエラ
- ヨハン・シュトラウスのこうもりのロザリンデ
- プッチーニのトゥーランドットのリュー
- チャイコフスキーのエフゲニー・オネーギンのタチヤナ
- ドヴォルザークのルサルカのタイトルロール
など。
(※タイトルロールとは題名になっている役のこと)
この中には、ルサルカなど、個人的にはスピントよりの方がいいかな、と思う役もいくつかあります。
リリコのソプラノ歌手は
- マリエッラ・デヴィーア
- ミレッラ・フレーニ
- テレサ・ストラータス
- シュワルツコフ
- サザーランド
- アンナ・ネトプレコ
- アンジェラ・ゲオルギュー
などをあげてみました。
スピント
スピント(spinto)はリリコより情熱的で激しい感情をあらわす声です。
そのためレッジェーロやリリコに比べて強い声の種類で、強い喉が必要になります。
スピントの役柄は、19世紀中頃からのロマン派オペラから多く現れています。
情熱的なオペラの種類が多くなるからなんですね。
それより古い時代のオペラは比較的軽めの声のソプラノが主役を務める演目が多いですね。
モーツァルトや、ロッシーニ、ドニゼッティあたりまでのオペラには、ソプラノのスピントの役柄はあまり出てこないと言っていいでしょう。
ただ、バロックオペラの時代にスター歌手だった、「カストラート」という去勢した男性歌手はソプラノの音域を出していましたが、
胸郭が男性なので、高音で非常に強い声質だったものと思われます。
カストラートは現在は存在しないので、聞けないのですが。
スピントの種類の役柄で有名なものは
- プッチーニの蝶々夫人のタイトルロール
- ワーグナーのタンホイザーのエリーザベト
- ワーグナーのローエングリンのエルザ
- ヴェルディのトロヴァトーレのレオノーラ
- ヴェルディのオテロのデズデモナ
- モーツァルトのドン・ジョバンニのドンナアンナ
- ベッリーニのノルマのタイトルロール
- マスカーニのカヴァレリア・ルスチカーナのサントゥッツァ
- ヤナーチェクのイエヌーファのタイトルロール
など。
ベッリーニのノルマは、もともとはスピントの声が合っているのではないか、と思いますが、
コロラトゥーラがある難しい役なので、現在ではどちらかというと軽めの声の人がやることが多くなっているようです。
このように時代の流れの変化のようなものもありますね。
いずれにしてもスピントは情熱的なストーリーの種類のオペラに多いです。
ではスピントの歌手についてあげてみます。
- マリア・カラス
- ギネス・ジョーンズ
- デボラ・ボイト
- チェリル・スチューダー
- レナータ・デバルディ
あたりでしょうか。
年齢とともにスピントから→ドラマティコに移行する人が多いので、この辺りはどちらに入れるか難しいところです。
ドラマティコ
最後にドラマティコです。
ソプラノの中でもっともドラマティックな声の種類です。
日本人にはなかなか難しいの声質だと思います。
役柄でいうと
- ベートーベンのフィデリオのレオノーレ
- ヴェルディのマクベスのマクベス婦人
- ローエングリンのエルザ
- ワーグナーのトリスタンとイゾルデのイゾルデ
- ワーグナーのリングのブリュンヒルデ
- プッチーニのトゥーランドットのタイトルロール
- リヒャルト・シュトラウスのエレクトラのタイトルロール
などですね。
歌手をあげると
- ビルギット・ニルソン
- レオニー・リザネク
- エヴァ・マルトン
- ワルトラルト・マイヤー
などが浮かびます。
ヴェルディやプッチーニは人気演目が多く、この時期のロマン派オペラは、情熱的なストーリーが多いので、
ドラマティックな歌手が何かと注目されがちです。
確かにドラマティックな声は、訴えかけてくるものが大きく、感動をよびますが、
声というのは、オペラにより合う合わないがあり、古典のオペラにはやはり、ちょっとさらっとした声がいいな、と思いますね。
最後に、モーツァルトのドン・ジョバンニというオペラは人気がありますが
主要な役にソプラノが3人でてきます。
- ドンナ・アンナ 騎士長の娘、気高く強い意志を持つ女性
- ドンナ・エルヴィラ 恋する貴婦人役
- ツェルリーナ 村娘
通常この中で、ドンナ・アンナは、もっとも強い声のソプラノが担当し(スピントクラスかリリコスピントクラス)
次はエルヴィラ(リリコクラスのソプラノ)、
もっとも軽い声のソプラノがツェルリーナ(レッジェーロ)を担当することが多いです。
もっとも、ドンナ・アンナとドンナ・エルヴィラが、似たような声の時もありますが‥。
このようなオペラでソプラノの声を聴き比べてみるのもおもしろいのではないでしょうか。
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